解任した場合の費用清算|着手金は返ってくるのか

若井亮

若井亮

テーマ:一般

依頼していた弁護士との契約を途中で終わらせるとき、多くの方が最初に気にされるのが「すでに払った着手金はどうなるのか」という点です。インターネット上には「着手金は戻らない」という説明と「一部は返ってくることがある」という説明が並んでいて、自分の場合はどちらなのか分かりにくいかもしれません。

 結論から言えば、この問いは「返ってくるか、こないか」の二択ではありません。契約がどこまで進んでいたか、どういう経緯で終わったか、そして委任契約書に清算方法がどう書かれているかによって答えが変わります。この記事では、解任したときにお金と手続がどう整理されるのかを順に見ていきます。個別の事案の結論をお約束するものではなく、一般的な考え方の説明としてお読みください。

「解任」は一つの手続ではない


三つの層に分けて考える


 弁護士を解任するとき、実際には性質の違う三つのことが同時に問題になります。ここを分けておくと、後の清算の話も整理しやすくなります。

区切り何が終わるか効力が生じるきっかけ
委任契約弁護士との契約関係依頼者が解除の意思を伝えたとき
訴訟代理権裁判手続で代理する権限本人または代理人から相手方に通知したとき
裁判所での扱い記録上の代理人の表示辞任届や新たな委任状の提出


弁護士に伝えただけでは終わらない場面がある


 委任契約そのものは、依頼者が解除の意思を伝えた時点で終わります。一方、裁判や調停が進行している場合の訴訟代理権については、民事訴訟法が、代理権の消滅は本人または代理人から相手方に通知しなければその効力を生じない、と定めています。つまり、事務所に「解任します」と伝えただけでは、訴訟の相手方との関係では代理人のままという状態が残り得るわけです。

 実務では、前の弁護士が裁判所に辞任届を出し、後任の弁護士が新しい委任状を提出することで交代が整います。後任がまだ決まっていない段階でも、手続が動いている事件では、この通知と届出の段取りを確認しておくほうが混乱が起きにくくなります。

解任と辞任は入口が違う


 依頼者の側から契約を終わらせるのが解任、弁護士の側から終わらせるのが辞任です。弁護士職務基本規程は、依頼者との信頼関係が失われ、その回復が困難なときは、弁護士はその旨を説明し、辞任その他の適切な措置を採らなければならないと定めています。

 入口は違っても、費用については、どちらも「委任契約が中途で終了した場合」として扱われるのが一般的です。ただし、後で見るとおり、どちらの事情で終わったのかは清算の結論に影響します。

いつでも解任できるが、さかのぼってなかったことにはならない


理由の説明や相手の同意は要件ではない


 民法は、委任は各当事者がいつでも解除することができると定めています。弁護士との契約は委任にあたるため、依頼者はいつでも解任できます。理由を説明する義務も、弁護士の同意も、法律上の要件ではありません。

解除の効力は将来に向かってのみ生じる


 ただし、ここで見落とされやすい点があります。委任の解除は将来に向かってのみ効力を生じると定められており、契約が結ばれた時点までさかのぼって効力が失われるわけではありません。

 この構造が、費用の話に直結します。契約が初めからなかったことになるのであれば「払ったものを返してもらう」という発想になりますが、実際にはそうならないため、問題は返還ではなく精算になります。すなわち「支払った分のうち、どこまでが済んだ仕事の対価として残り、どこからが残るのか」という配分の話です。

「返ってくるか」は費目ごとに答えが違う


 弁護士に支払うお金は一種類ではありません。途中で終わったときの扱いも、費目ごとに考え方が異なります。

費目途中で終わったときの基本的な扱い
着手金着手した時点の対価。処理の程度に応じた精算の対象になり得る
報酬金成果に応じて生じる費用。途中の段階では発生していないことが多い
実費・預り金報酬ではないため、使われていない残額は返還の対象
日当・手数料すでに行われた出張や手続に対応する分は、戻りにくい


預り金は報酬とは別のお金


 印紙代や郵便料、記録の取り寄せ費用などにあてるために預けたお金は、弁護士の報酬ではありません。弁護士職務基本規程は、委任の終了に当たり、委任契約に従って金銭を清算したうえ、預り金および預り品を遅滞なく返還しなければならないと定めています。「着手金は戻らない」という説明を読んで、預けたお金まで戻らないと受け取ってしまう方がいますが、この二つは性質が違います。

着手金はどのように精算されるのか


物差しになるのは「どこまで進んだか」


 民法は、委任が履行の中途で終了したときは、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができると定めています。裏返せば、まだ行われていない部分に対応する分については、精算の余地が残るということでもあります。

 もっとも、「どこまで進んだか」は日数や期日の回数だけで決まるものではありません。受任直後に集中的な調査や書面の作成が行われることもあれば、期間が空いていても実際の作業が多い場合もあります。そのため、精算の話は、経過した時間ではなく実際に行われた事務の内容を突き合わせる作業になります。

裁判で示された考え方


 着手金の返還が争われた裁判例では、次のような判断が示されています。いずれも個別の事情に基づく判断であり、同じような事情なら同じ結論になるという性質のものではありませんが、考え方の方向は読み取れます。

  • 着手金は委任事務処理の対価の前払いという性質を持つとしたうえで、弁護士と依頼者のどちらにも責任がないのに契約が解消された場合には、すでに行われた事務処理に照らして相当な範囲で弁護士が取得できるとした例(東京地方裁判所 平成15年3月14日判決)
  • 弁護士の事務処理が委任契約上の注意義務に反していたとして、受領済みの着手金の一部の返還を認めた例(東京地方裁判所 平成17年3月23日判決)
  • 受任者が自らの責任で委任事務を行わないまま契約が解除された場合について、すでに受け取った報酬の返還義務を認めた例(和歌山地方裁判所 平成22年9月29日判決)


 共通しているのは、全額が戻るか、まったく戻らないかという二択では考えられていないという点です。

委任契約書の「中途終了」の条項を読む


清算方法は契約書に書かれていることになっている


 日弁連の「弁護士の報酬に関する規程」は、委任契約書に記載すべき事項として、受任する法律事務の表示および範囲、報酬の種類・金額・算定方法・支払時期、委任事務の終了に至るまで委任契約の解除ができる旨、そして委任契約が中途で終了した場合の清算方法を挙げています。つまり、清算の答えの多くは、手元の委任契約書の中にあります。解任を考え始めたら、まず契約書を探すところから始めるのが近道です。

 手元に見当たらない場合は、事務所に写しの交付を求めることができます。清算の話をする前に、双方が同じ条項を見ている状態にしておくと、行き違いが減ります。

よくある三つの場合分け


 中途終了の条項は、事務所によって表現が違いますが、次の三つに分けて書かれていることがよくあります。2004年に廃止された日弁連の旧報酬基準にあった条項の形を、多くの事務所が引き継いでいるためです。

  • 原則=依頼者と協議のうえ、委任事務処理の程度に応じて、受領済みの報酬の全部または一部を返還し、または報酬の全部もしくは一部を請求する
  • 弁護士のみに重大な責任があるとき=受領済みの報酬を返還する(ただし、すでに重要な部分の処理を終えているときは、協議のうえその全部または一部を返還しないことができる)
  • 依頼者に重大な責任があるとき=報酬を請求できる(ただし、重要な部分の処理が終わっていないときは、成功報酬の全部までは請求できない)


 返還額の上限を定めている契約書もあります。金額の話に入る前に、自分の事案がこのうちどれにあたると整理されそうかを見ておくと、話の見通しが立ちます。

「事由を問わず返還しない」と書かれていたら


 着手後は事由を問わず返還しない、という趣旨の条項が置かれていることもあります。ただ、その場合でも、同じ契約書の中に中途終了時の清算に関する定めが置かれていることが少なくありません。一つの条文だけを見て結論を出さず、契約書全体を通して読み、分からない部分は弁護士に説明を求めるのが先になります。

誰の事情で終わったのかで結論が動く


 同じ「途中で終わった」でも、そこに至った経緯によって清算の方向は変わります。

終わりに至った経緯清算の方向
方針が合わないなど依頼者側の判断処理の程度に応じた精算が基本になる
弁護士側の事情で継続が難しくなった返還が認められる余地が広くなりやすい
どちらの責任ともいいにくい事情協議のうえ、処理の程度に応じて決める
連絡が取れないなど依頼者側に重い事情返還を求めるのは難しくなりやすい


 そのため、解任を決めた理由を自分の中で整理しておくことには実益があります。方針の違いなのか、説明や報告が足りないと感じたのか、それとも約束された作業が行われていないのか。この区別が、その後の話し合いの土台になります。

解任する側が負担することがあるもの


不利な時期の解除と損害賠償


 民法は、相手方に不利な時期に委任を解除したときは相手方の損害を賠償しなければならないと定めています。ただし、やむを得ない事由があったときは除かれます。

 なお、この規定については、解除によって弁護士が報酬を得られなくなったこと自体がそのまま賠償額になる、という整理にはなっていません。条文上も、報酬を得ることのみを目的とする利益は対象から除かれています。解任するとその後の報酬まで請求される、と単純に考える必要はありませんが、事案の段階によって議論の余地が出てくる点ではあります。

中途終了時の報酬に関する定め


 和解や判決が目前という段階での終了について、それまでの事務処理の程度に応じた報酬を請求できる旨を定めた契約書もあります。解任の時期によっては、この条項が話題になります。

立て替えられた実費


 印紙代や郵便料など、弁護士がすでに立て替えて支出した費用は、精算の対象として支払いを求められることがあります。預り金の残額と相殺して整理されることもあります。

解任するときに受け取るもの・渡すもの


 手続としては、次の順序で進めると抜けが出にくくなります。

  1. 委任契約書を探し、中途終了と清算に関する条項を確認する
  2. 解任の意思を書面やメールなど、日付の残る形で伝える
  3. これまでの処理の状況と、清算の内訳について説明を求める
  4. 預り金の残額と、預けた書類・証拠の返還を受ける
  5. 裁判手続が続いている場合は、辞任届と相手方への通知の段取りを確認する
  6. 後任に渡す資料(提出済み書面の控え、相手方とのやり取り、期日の記録)をそろえる


 弁護士職務基本規程は、委任の終了に当たり、事件処理の状況や結果について、必要に応じて法的な助言を付して依頼者に説明しなければならないと定めています。説明を求めること自体は、特別な要求ではありません。

清算と書類の受け取りは同時に進める


 報酬や立替実費の支払いがない間は保管中の書類を引き渡さないでおくことができる、という趣旨の条項を置いている契約書もあります。清算の話と書類の返還を別々に進めると止まってしまうことがあるため、同じ場で並行して整理するほうが滞りにくくなります。

手続の期限は待ってくれない


 解任を検討するときに見落とされやすいのが、期限です。期日の日程、答弁書や準備書面の提出期限、控訴や異議の申立期間などは、代理人が交代するという事情によって自動的に延びるものではありません。

 後任が決まるまでの間は、書類の受け取りや裁判所とのやり取りをご本人が担うことになります。解任を決める前に、直近で何がいつまでに必要なのかを確認しておくと、空白の期間を短くできます。

法テラスを利用している場合・刑事事件の場合


法テラスの立替制度を利用しているとき


 法テラスは、担当者の変更を希望する場合について、まず弁護士等とよく話し合い、それでも方針等が合わない場合にはその事件を終結し、解任したうえで新たな受任者を探すことになる、と案内しています。すでに立て替えられた費用の扱いや、後任に依頼する際の手続については、利用している地方事務所に確認しておくとよいでしょう。

刑事事件の国選弁護人


 刑事事件で選任された国選弁護人は、選任も解任も裁判所・裁判官が行う仕組みで、民事の委任契約とは前提が異なります。私選への切り替えを含め、別の記事で扱っています。

金額の折り合いがつかないとき


 清算額について意見が合わないときは、まず内訳の説明を書面で求め、どの作業がどこまで行われたのかを突き合わせることになります。それでもまとまらない場合、弁護士法にもとづく紛議調停という手続があり、所属する弁護士会に申し立てることができます。懲戒の請求とは目的が異なる制度で、費用の争いについて話し合いの場を設けるためのものです。

おわりに


 解任したときの費用は、「着手金は返ってくるのか」という一つの問いでは答えが出ません。委任契約書の中途終了の条項を確認し、費目ごとに分け、どこまで処理が進んでいたのかを整理する。この三つを踏むと、多くの場合は話し合いの範囲が見えてきます。

 あわせて大切なのが、手続を止めないことです。清算の話が続いている間も事件は進みます。次にどう進めるかを含めて整理したいときは、早めに弁護士にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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