マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
空気が冷たく冬の寒さが本格的になり、雪がちらつき始める頃になりました。
12月7日は二十四節気の一つ「大雪」です。
ところで12月の和風月名は「師走」が良く知られていますが、これは普段は落ち着いている師と呼ばれるような人でも、あわただしく走り回るという意味ですが、年の瀬は何かとあわただしくなります。
ご自愛ください。
さて私達の日常生活には代々続いている様々な「しきたり」があります。
不必要にそれらにとらわれる必要はないと思いますが、何百年も、何千年もの長きにわたり先祖代々受け継がれてきたわけですから良いところも多々あります。
その良いところは次世代にもぜひ、意味や由来を正しく継承していただきたいと願っています。
日本人にとって「お正月」は、歳神様をお迎えし、おもてなしをして、またお見送りをする最も愛でたくて大事な行事ですが、12月はそのお正月を迎える準備をする月と捉えていいと思います。
12月13日は正月準備を始める「事始め」で、歳神様をお迎えするにあたり、家の中の邪気を払い、清浄にするために「煤払い」をします。
昔は「囲炉裏」で暖を取り、調理をしていたので、家中に煤がたまります。
その煤を竹で払うので「煤払い」になるわけです。
現在の大掃除と捉えて頂ければいいと思いますが、昔は衣替えも、炬燵を用意するのも、煤払いをするのも、一斉に決められた日にしていました。
「煤払い(大掃除)」も終戦を迎えるまでは、12月13日になると全国で一斉に行われていたようです。
当時は、煤払いをする際、火と竈(かまど)の神様である「荒神様」が祀られている台所は、最も清浄な場所といわれ、特に念入りに掃除をしていたようです。
竈は会社や家の中心を表し、竈が賑わえば、商売繁盛や家が豊かになると考えられていたわけです。
逆に台所が汚いと商売は衰退し、家は貧しくなります。
この捉え方は今でも一理あると思います。
私は長年和食・洋食のテーブルマナーに関わっていますが、講座では作法うんぬんより、まず家庭の台所をきれいにして下さいとお願いしています。
そして煤払いが済めば、今度は門松に使用する松を山に切りに行きますが、これを「松迎え」といいます。
ちなみに松に限らず、ゆずり葉や裏白などの草木も採ります。
私も毎年この時期になると松や裏白などを採るために山に入ります。
日本では松には神霊が宿るとされ、「神を待つ木」ともいわれていま。
松は2本対になった細長い葉が上を向いて開いているので、その姿が神を待つ姿に似ているからこのように呼ばれているようです。
最近では12月13日に迎春準備をすることはほとんどなく、クリスマスが済んでする人が多くなりましたが、年末ならいつでもいいわけではありません。
12月26日は「ろくなことがないから」、29日は「9」が「苦」をれんそうさせるから、
さらに31日は「一夜飾り」といって、供え物や飾り物の準備には向かない日とされているので、これらの日はお勧めできません。
昔の人は準備にはいろいろ縁起を担いだのですね。
では、なぜ12月13日かといえば、旧暦では13日は婚礼以外ならすべてが吉とされていたためで、かつてはこの行事を執り行う日が厳格に決められていた大変大事な神事だったわけです。
また年の暮れに親族や上司やお世話になった人に「お歳暮」を持参したり贈ったりする風習は、大変長い歴史を有し、古くは「歳暮の礼」と呼ばれていました。
お世話になった人に対して、年末に贈り物をする風習は恐らく日本独特だと思いますが、本来は結婚や就職で家を出た人が、新年に歳神様にお供えする酒や鰤や塩鮭や餅などを、親元や本家に持参する行事で「霊祭り」ともいわれます。
夏のお中元に比較して、お歳暮の方が、格が高いのはこのためです。
今では宅配が発達し店から送るケースが増えましたが、できればお世話になった人へ直接出向き、お礼の言葉を添えて直接届けたいものです。
品物は風呂敷に包んで持参すればなおいいです。
風呂敷をお勧めする理由は、日本では品物を邪気から守る目的で「包む」という文化があり、風呂敷に包んで持参するということは、品物を丁寧に扱う意味とともに相手への敬意を添えることになるからです。
加えて「幸せを包む」という意味もあります。
風呂敷包みを渡すタイミングも大事です。
相手の家に着いたら、玄関で簡単な挨拶をし、部屋に通された時点で本日最高の挨拶をし、その後おもむろに風呂敷を解いて品物を渡します。
詳しくは「マナーうんち《話訪問の仕方のマナー》」をご覧ください。
遅くとも12月20日くらいまでがお勧めですが、遅れそびれたら「お年賀」や「寒中見舞い」として送る手もあります。
さらに年の暮れになると、親戚が本家に集まり、この一年を無事に過ごすことができたことを喜ぶ宴が開催されます。
これが「年忘れ」で、現在の「忘年会」の起源といってもいいでしょう。
ただ忘年会の起源は明確ではなく様々な説があります。
昔の貴族が歌を詠む会を催し、それを「年忘れ」と称したのが起源という説や、江戸時代に庶民が一年間の憂さを晴らすために年末に飲み会を行ったのが起源という説もあります。
他にも年末に帰省できなかった学生がともに集まり酒を酌み交わしたのが起源という説もあれば、公務員や会社員が年末のボーナスで飲み会を開いたのが始まりともいわれています。
この様に由来の異なる様々な会合が、融合して今のスタイルになったと思われます。
いずれにせよ、一年間の苦労を水に流し、清々しい気分で新年を迎えるのは良いですね。
この一年無事に過ごせたことへの感謝の気持ちもお忘れなく。