まなーうんちく話798《月々に 月見る月は 多けれど・・・。》
秋も次第に深まり紅葉や楓が色づく頃になりました。
秋の山が紅葉する様子は、まるで女性がお化粧したように見えるので「山装う(やまそよおう)」といいます。
ちなみに先人は花が咲くことを笑うと表現したので春の山は「山笑う」、青々として瑞々しい夏の山は「山滴る」、広葉樹が落葉して閑散とした状態の冬の山は「山眠る」といいます。
まるで山全体が生きて草木が花を咲かせ、老い生い茂り、やがて赤や黄色や橙に色づき、枯れて、その後再び芽吹くというような、一年の歩みを大変おおらかに表しています。
SDGSのように洒落た言葉はありませんでしたが、先人がいかに自然に真摯に向きあってきたのかが伺えます。
11月の「和風月名」にもその心が読み取れますが、さらに奥深いものを感じます。
11月の良く知られている和風月名は「霜月」ですが、そろそろ霜が降りてくるという意味です。旧暦の11月は新暦では11月の終わり頃から1月の始め頃になりますから、本格的に霜のシーズンになるのはまだ一月くらい先になります。
私も野菜を作っているので実感していますが、霜は農作物にとっては大敵です。
二十四節気にも「霜降」という季節がありますが、朝夕の冷え込みが強まり、霜が降りる頃で、注意喚起を促したのでしょうか。
最近は気象予報も正確で、霜が降りるのが前もって分かるようになり助かりますが、昔は経験だけが頼りだったので何かと大変だったと思います。
またこの時期には霜ばかりではなく雪も降るようになります。
だから11月は「雪待ち月」とも呼ばれます。
雪を待つ月といえば期待感が込められているようですが、なぜでしょう。
昔は、雪が豊作につながると信じられていたようですね。ほどほどの雪はありがたいということでしょうか。
さらに「神帰月(かみかえりつき)」という呼び名もあります。
10月(神無月)には全国の神様がご縁づくりの会議に出席されるため、出雲に出張され不在になるわけですが、11月になると出張先から、それぞれの地域に神様がお帰りになるのでつけられた呼び名です。
そして11月にはほとんどの地域で稲刈りも終わり、農作業が一段落するので、豊作を感謝して神楽を奉納するので「神楽月」という名称もあります。
その他、旧暦11月は冬至の月であり、太陽の力が最も弱まる月なので、神楽を舞って神様を元気づけるという説もあります。
「神楽」は神様を祀るために演じられる、日本を代表する神事芸能のことです。
神々が来ていただくことや、神様のお告げを祈願して歌や舞を伴った儀式を行うわけですね。
天照大御神が、天(あめ)の岩屋に隠れてしまったので、明るかった世界が急に暗くなり、多くの悪者が出てきて悪事を働きました。
そこで天照大御神を誘い出すために、岩屋の前で舞われたのが日本で最初の神楽といわれていますが、この「天の岩屋伝説」は戦前の義務教育で教えています。
今の教科書は検定教科書ですので多くの種類がありますが、戦前は国定教科書ですから一種類だけの教科書になります。
つまり戦前の義務教育を受けた人は、この物語を国語の時間に全員学習するわけです。
明治の新政府が学制を発布して、新しい教育制度を確立し、全国すべての子どもが同じ教育を受けられるようにして、日本人としての心をはぐくんできた功績は本当に素晴らしいと思います。
今と異なり、熱意に燃えた真のある官僚や政治家が多くいたのでしょうね。
ところで秋を代表する果物の一つに柿がありますが、「柿が赤くなると医者が青くなる」といわれます。
柿が熟す頃は天候も良く、体調を崩し医者の世話になる人が少なくなるので生まれた言葉のようですが、柿にはビタミンCを始め多くの栄養素が含まれています。
また渋柿は「つるし柿(干し柿)」になって、正月の縁起物として大活躍をしますが、柿は長寿の木で、幸せをかき集めるとも言い伝えられています。
さらに柿は種が大きいので子宝に恵まれるともいわれています。
《木守り柿(きもりかき・こもりかき)》という習わしをご存じでしょうか?
柿を収穫するときに全ての柿を取りつくさないで数個残して、後は鳥たちに食べさせてあげる先人の風習です。
昔は、鳥は神様の使いとされ、鳥に来年もよろしくと、再生をお願いしたという説もあります。
自然に感謝するとともに、鳥にも優しさを発揮した「木守り柿」の風習。
次世代にもぜひ残してあげたい、日本の素晴らしい文化だと思います。
最後に11月7日は二十四節気の一つ「立冬」で、冬が産声を上げる日です。
また語呂合わせで11月7日は「いいなべ」の日で、これを境に鍋の需要が大幅に増加するそうです。
日本の料理は、それぞれの料理の種類が多いのが特徴ですが、鍋にもいろいろあります。
いずれも食材が豊富で、量も栄養も豊かですので、しっかり食べて、寒い冬に備え、体力をつけて、元気でお過ごしください。
熱燗もおいしくなってきます。