マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
この時期になると「鰻のかば焼き」のチラシが至る所で目につくようになります。
食糧事情が今とは比較にならない時代に、夏の盛りにウナギを食べ、暑い夏を快適に過ごした先人の知恵には頭が下がります。
今の鰻は大半が養殖ですが当時は100%天然ですから、素材としては昔の方がはるかに良かったわけです。ただ味付けはどうでしょうか?
鰻の効能は当時の専門書にも触れられていますが、どんなに体に良くても味が良くなければ継続しません。
ちなみに「鰻の蒲焼」という言葉が文献に登場するのは600年年以上前のようですが、今のような蒲焼は江戸時代後期に考案されたようです。
これこそ日本が誇る最も美味な料理法ではないでしょうか。
とにかくご飯との相性がとてもいいので、米を主食にしている日本人にとっては最高のご馳走だと思います。
濃い口醤油や味醂などの発明のお陰だと思いますが、とにかくタレの香ばしさは格別でしょう。
しかし、いくら美味しくて栄養価が高くても、問題は値段でしょう。
物価高のあおりを受け、もともと高価だった鰻の蒲焼がさらに高くなっては、口に入る機会はさらに減りそうです。
寂しいことです。
そこでおすすめなのが「マナーうんちく話」でもたびたび登場した「甘酒」です。
鰻は縄文時代から身近な食べ物だったようで「暑い夏に夏バテして体力が失せてきたら鰻がとてもいいよ」と読まれています。
恐らく1000年の前から暑気払いに鰻がいいということは、生活の知恵として定着していたのでしょう。
それと同じように「甘酒」も日本の食文化と深く関わっており、日本書紀にその語源が伺われます。
おかゆに麴を混ぜて一晩おいていたら、発酵して甘くなったので、以後その方法で甘酒が作られるようになったのだと考えますが、我が家でもほぼ同じ方法で作ります。
当時は一晩で出来るので甘酒の事を「一夜酒」と呼んだそうですが、今でもほぼ同じ時間で出来ます。
米もしくはもち米を洗い、やや水を多めに張り、電気釜でご飯を炊き、少し冷やしてから、市販の米麹を加え、太めの棒で30分くらい搗くと、ドロドロになるので、そのまま7時間電気釜で保温して出来上がりです。
この他、市販の酒粕で作る方法もありますが、酒粕にはアルコールが含まれているので、子どもに飲ますときは要注意ですし、甘くありませんので砂糖が必要になります。
米麹から作る甘酒には、発酵の基になる酵母菌を加えていないのでアルコールは含まれていません。
また甘みは米の澱粉の甘さです。
つまり米の澱粉がぶどう糖に代わるので甘いわけです。
ちなみに「ブドウ糖」は点滴に必要な成分だから、米麹の甘酒は「飲む点滴」という名がつけられたようです。
この甘酒こそ、低料金で手頃に作れ、美味しくて栄養価も高いので、一年を通じ楽しめるまさに究極の「栄養ドリンク」ではないでしょうか。
ちなみに「甘酒」という言葉はすでに江戸時代には存在していたようで、甘酒の行商人が寒い冬の夜や、暑い夏の日に売り歩き、コップ一杯120円前後で売られていたとか・・・。
こうして甘酒が手軽に味わえる庶民の味としてすっかり定着し、様々なイベントや縁日で売られたり、神社仏閣で振舞われたりするようになったわけです。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録されて10年経過しましたが、今では非常に広範囲に及んでいる和食の原型が確立されたのが江戸時代であり、その江戸時代の食文化の特徴は素材主義です。
そして和食にはいろいろな作法が存在します。
世界でも非常にユニークな作法とともに、日本の食文化に関心を持ち、大いに楽しんでいただきたいものです。