マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
今年は記録的な猛暑が続きましたが、空が次第に高くなり、朝夕の涼しさが際立ってきました。
夏から秋への移り変わりを実感する時節になったところで、そろそろ新型コロナも落ち着いてほしいものです。
ところで明治5年12月まで全国津々浦々で使用されていた暦は、太陰太陽暦で、現在の新暦に対して「旧暦」と呼ばれます。
そして旧暦では、月の表示を現在のように数字を順番に振り分けるのではなく、生活や自然、そして気候や風習など、上手に季節の特徴を捉えて素敵な名前を付けています。
マナーうんちく話で何度も触れた「和風月名」のことですが、先人はそれだけ自然との共生を大切にしたわけですね。
9月の和風月名は「長月」です。
では何が長いのでしょうか?
ちなみに旧暦は、今のようにひと月が29日になったり、31日になることはありません。
全て30日です。
では長くなるのは何か?
旧暦の9月は新暦では10月頃になります。
ということはすでに秋の彼岸を過ぎているので、昼が次第に短くなり、夜が長くなるということです。
長月の語源は「夜長月」が短縮されて長月になったという説が最も有力です。
夏の「短夜」に対し、秋は「夜長」です。
さらに秋から冬にかけて、秋雨前線が停滞して雨が長く降る時があります。
従って「長雨月(ながめつき)」が長月になったという説もあります。
これも頷けます。
また昔から「実りの秋」といわれますが、実りの秋とは、すなわち「稲穂」のことで、稲が成長する月だから、「穂長月」が長月になったともいわれます。
稲には早稲もあれば晩稲もありますが、穂長月とはいかにも日本人らしい名前だと思います。
飽食の今ではピンと来ないかもしれませんが、昔は米の出来・不出来が生死を左右するくらいの出来事だったので、切実な気持ちの表れでしょう。
この他にも9月は「菊月」とか「紅葉月」など、多彩な名前が付けられていますが、とにかく相対的に景色がいい月です。
季節や自然を素直に感じて、心豊かな生活をお楽しみください。
さて9月の野山では、夏を象徴する向日葵のような逞しい花から、風情のある小さな花を楽しむことができます。
代表的な花として「秋の七草」があります。
「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七草の花」と山之上憶良が詠んでいますが、萩、桔梗、撫子、葛、藤袴、女郎花、尾花は食用にされる春の七草に対し、観賞用や薬用として重宝されます。
毎年私が主催する講座では、この時期には秋の七草で参加者をおもてなししますが、今年は私が住んでいる地域では、まだススキ(尾花)をみかけません。
猛暑のせいでしょうか?
さて9月9日は長寿を祝い、風雅を味わう「重陽の節句」ですが、超高齢社会にぜひ実施していただきたい思いがありますので、次回改めて詳しく触れたいと思います。
そして令和4年の「十五夜」は新暦の9月10日です。
秋は空気が澄んで月が大変美しく見える季節ですが、中でも「仲秋の名月」と呼ばれる十五夜は特に美しいわけです。
我が家の花壇には、この時期になると紫色の優しい感じの小さな花を咲かせる「紫苑(しおん)」があります。
「十五夜草」と呼ばれ風情がある花で、お月見に飾ったり、お彼岸にお墓に備えたりするのもお勧めです。
十五夜には平安貴族は歌を詠んで観月会を催したそうですが、風雅な行事でもある反面、農耕行事でもあり、収穫を祝ったともいわれています。
昔の人にとってお月様は信仰の対象でもあり、お月見をすることで豊作を祈願したのでしょう。
イネ科のススキを米に見立て、徳利にさして、満月のパワーを精一杯取り込んだのかもしれませんね。
月光がさやかに、燦燦と降り注ぐ中、優雅なひと時をお過ごしください。
「秋の月は限りなくめでたきものなり」と徒然草草にあるように、なにかいいことあればいいですね。
昔は照明器具がありません。
日が沈めばあたりは暗くなりますが、満月の明るさは格別に貴重であり、満月の宴は何とも言えない優雅な風情だったと思います。
後日、お月見と「お月見泥棒」について触れる予定です。
是非ご覧ください。
稲穂が首を垂れる頃、彼岸花やコスモスが咲き乱れる光景は、まさに日本の秋の原風景です。
日本の秋は美味しいものに恵まれ、日本古来の美意識を楽しみ、風情を感じることができる素晴らしい季節ですが、まだまだ厳しい残暑が続きそうです。
新型コロナ感染や食中毒のリスクもあるでしょう。
台風の備えも必要です。
ご自愛の上元気でご活躍下さい。