マナーうんちく話535≪五風十雨≫
5月5日は二十四節気の一つ「立夏」でしたが、全国的に真夏日が続出しましたね。
ところで「風薫る5月」といいますが、若葉や青葉の上を吹き抜ける風には、若々しい緑の香りが感じられ、とても爽やかな気分になれます。
周囲を山で囲まれた山間地域で生活していますが、今一年で最も緑のグラデーションが美しい時節です。
マスクを外して、思い切り深呼吸しながら元気で歩みたいものです。
一方海では、緑の葉に誘われて初鰹がお目見えする頃です。
もっとも食生活が豊かになった現代人にとって、初鰹はそんなに珍しいものではなくなりましが・・・。
しかし食習慣がまったく異なった江戸時代は違います。
初鰹を詠んだ俳句や川柳は多くあり、いかに重宝されていたかが想像できます。
《目には青葉 山ほととぎす 初鰹》(山口素堂)
目で青葉を眺め、耳でホトトギスの鳴き声を聞きながら、口で初鰹の味覚を楽しむというとても贅沢な句です。
私も毎年桜の頃に、鶯の鳴き声をBGMに、桜を眺めながら、弁当をいただきますがそれとよく似ている気がします。
ただ私の方は庶民の娯楽ですが、江戸時代にホトトギスの声を聞きながら、初鰹を食すのは、ごく一部の富裕層だったと思います。
ちなみに鴬は「春告げ鳥」と呼ばれいち早く春の到来を教えてくれる鳥ですが、ホトトギスは夏の到来と、田植えの時期になったことをしらせてくれます。
そして初鰹。
江戸っ子は、気が短くて、初物好きです。
日本料理でも初物は好まれます。
日本人独特の文化でしょう。
ちなみに「初物」とは、その時期に初めて収穫、漁獲される、果物や野菜や穀類や魚ですが多々あります。
我が家でもトマト、スイカ、ナス、オクラ、ピーマン、カボチャ、ブルーベリーなど、成り物を収穫した時はとてもうれしく、味わい深いものがあります。
日本酒やワインの新酒も待ち遠しいですが、11月にフランスからやってくるボジョレーヌーボも多くのファンがいます。
では、今でも「初物を食べると75日寿命が延びる」といいますが、「初物四天王」をご存じでしょうか?
初鮭、初鰹、初茄、そして初キノコ、つまり松タケです。
現在は松タケが秋の初物として旬の話題になり、毎年高値で取引されますが、江戸時代は初鰹が特別重宝されていたようです。
理由は「鰹=勝男」に通じ、武士が多く住む江戸では桁外れの高値だったようです。
鎌倉沖で収穫された初鰹が有名ですが、先ずは徳川将軍に献上され、あとは高級料亭などが手に入れます。
本膳料理でペリー艦隊をもてなした高級料亭「八百善」などが、真っ先に手にいれたのでしょう。
とにかく当時の初鰹は大変高価で、どれくらいの値段かといえば「まな板に小判一両初鰹」という川柳があります。
小判一枚は、今でいえば数万円くらいでしょうか、初鰹一匹が数万円から数十万円したといわれます。
それでも他人よりいち早く食すのが「粋な人」というわけですが、どうする?
「女房を質に入れても初鰹」という川柳があります。
勿論普段は女房の尻に敷かれているわけですが、初鰹の時期になると、男同士の会話でこのような話がでたのでしょう。
では女房がいなければどうする?
「初鰹 りきんで喰って 蚊に食われ」という川柳も滑稽です。
初鰹を食うために「蚊帳(かや)」を質に入れて、挙句の果てに夏になって蚊に食われる羽目になったという意味です。
江戸時代には「質屋」が結構繁盛したのでしょうか。
でも、さすが女房を質に入れたという話は実在しないと思うのですが・・・。
ただ、江戸時代の暮らしは今とは比較にならないくらい貧しく、貧乏な人がお金を工面する方法は「人」が手っ取り早かったのかもしれませんね。
遊郭も繁盛していたようですが、遊女のような人も多かったと思います。
また日本でも戦前までは「年季奉公」が存在していました。
令和になって、物が豊かで、便利で、民主主義が行き届いた国になり、しかも世界に先駆け人生百年時代になりました。
鰹も一年中、安価な値段で食せるし、蚊帳を質に入れることもありません。
このような時代と国で生活できることに感謝、感謝です。
同時に地球上の人口の約一割の人が、いまだに飢餓に苦しんでいるという現実にも目を向けたいものですね。
話が少々飛躍しますが、戦争の原因は飢餓や貧困も大きな一因となっていることは歴史が教えてくれています。