マナーうんちく話535≪五風十雨≫
日本では明治の初めまでは、暦の月に、その月の行事や季節に相応しい名前を付けていました。
いわゆる「和風月名」ですが、5月は《皐月》と呼びます。
諸説ありますが、早苗月を略した名前と理解していただければいいと思います。
都市部で暮らしている人はご存じないかもしれませんが、田植えをするときの稲の苗は、移植できる大きさになるまでは「苗代(なわしろ)」で育てます。
この苗代で育った苗が「早苗」です。
ちなみに稲の神様は「サ」と呼ばれますが、田植えは田の神様(稲の神様)をお招きして行っていたわけです。
そして今でも風物詩として残っていますが、田植えをする女性が「早乙女」です。
昔は女性が田植えをして、男性は田んぼの上で、笛を吹き、太鼓をたたいて田植えを盛り上げていたのでしょう。
ところで日本には四季を彩る節供は現在5つ残っていますが、いずれも、その季節の旬の食物のパワーで邪気を払う節供が多いように感じます。
例えば3月3日の「上巳の節句」は、旧暦では桃の花が咲く時期の節句ですから「桃の節句」とも呼ばれますが、桃には邪気を払う力があると信じられていました。
5月5日の「端午の節句」は別名「菖蒲の節句」ですが、菖蒲の強烈なにおいには邪気払いの力があります。
それが江戸時代に上巳の節句は女の子の節句で、端午の節句は男の子の節句になったようですが、子どもの健やかな成長を祝ったり、願ったりするイベントはいくつあってもいいものですね。
そして端午の節句(菖蒲の節句)にも由来は色々あるようですが。
「菖蒲」は「勝負」や「尚武」に通じ、男の子の立身出世を祈ったというのも頷けますね。
端午の節句の鯉のぼりもしかりです。
「鯉変じて竜となす」という中国の故事から来ているといわれております。
登竜門という言葉がありますが、「竜」は伝説や神話の生き物で、爬虫類の長として神聖視されていました。
ちなみに今では使用されることは殆どありませんが、以前は「末は博士か大臣か」という言葉がありました。
博士が希少価値を有していた時代に、子どもの将来を期待して語られたわけですが、現在ではこの健やかな成長や、思いやりのある子に育ってほしいと願う親が多いと思います。
さて、今まで男の子に触れてきましたが、本来は端午の節句は女の子の節句という説もあります。
和風月名の「皐月」の由来からも頷ける説です。
稲作を中心とした農耕文化で栄えた日本では、古代より桜の花が咲く頃になると、村人たちは酒やご馳走を用意して山の神をお迎えに行きます。
そして麓にお連れするわけですが、ここで山の神は「田の神」になります。
村人は改めて田の神をおもてなししなければなりませんが、村の若い女性がこの役を担います。
何しろ神様のおもてなし係ですから身を清めなくてはいけません。
正月に「歳神様」をお迎えするにつき、12月になると大掃除をしますが、家を清めるためです。
それと同じ理屈で、家に閉じこもって清めるわけですが、菖蒲の邪気を払う力に頼り、家の屋根には菖蒲を置き、さらに菖蒲酒などを飲んだのでしょう。
そして清めが済んだら、田んぼに入って田植えを行うわけです。
今でも早乙女の神事は初夏の風物詩として伝えられています。
従って菖蒲の節句は「女の子の節句」になるわけですが、5月5日は「こどもの日」ですから、男女すべての子の健やかな成長をお祝いしたいものです。