マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
寒さが募り、色褪せたススキが優雅に風に揺られている姿は日本人の心に郷愁を誘いますが、一方冬の風物詩「山茶花」が紅葉に代わって彩を添えています。
本来なら秋祭り、紅葉狩り、アウトドアスポーツ、旅行などを十分楽しんだ後、冬の忘年会シーズンに入り、一年の締めくくりになるわけですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、規模の縮小や中止、さらに時短要請等で寂しい年末になりそうですね・・・。
三密回避や新しい生活様式が常識になりましたが、それに素直に順応できる人もいれば、納得がいかず心が重くなりそうな人もいるでしょう。
特に日本人にとって12月の忘年会は特別な意味があるように思うのですが、残念ですが現時点では新型ウイルスには勝てそうにないですね。
AI万能の時代と言え、人類にはまだまだ手におえない敵がいることを、改めて認識する必要があるということでしょうか・・・。
またこのような状況下でどうしたらいいのか?思いは10人10色でしょうが、せっかくですから「忘年」と「酒盛り」に触れてみたいと思います。
まず《忘年》の意味ですが、最近ではその年の嫌なことを忘れる、という意味で使用される場合が多いように感じますが、本来の意味は「年」を忘れることです。
日本は現在世界屈指の長寿国になり、それとともに生涯現役志向が高まっていますが、年齢を気にせず、いろいろな年代の人と親しくなることはいいことです。
忘年には「世代を超えて様々な人と心と心の付き合いをする」という意味が込められているのでしょう。
いやなことも忘れ、年齢も気にせず、いつまでも前向きに生き、多くの人と良好な人間関係が結ばれればいいですね。
そのためには共に食事をしたり、酒を酌み交わすのもいいでしょう。
ちなみに人々が集まり酒を飲み、楽しむことを「酒盛り」と言いますが、その起源は大変古く定かではありません。
しかし大昔から事あるごとに村人が集まって酒盛りをして、問題を解決し、絆を深めていたということは容易に想像できます。
つまり昔から、人と人との関りにおいて、酒の果たしてきた役割は実に大きいといえるのではないでしょうか。
ところで「居酒屋」はその起源が江戸時代からといわれていますが、もとは酒屋が自分のところで作った酒を、多くの人に味見をしてもらう目的だったとか。
今では大手から個人経営まで、多彩な居酒屋が軒を連ねるようになり、日本人には大変なじまれています。私もその一人です。
ただ江戸時代以前までは、酒は人と人との絆を結び、深めるためのツールだったようです。
恐らく神事を始め、冠婚葬祭時に多く飲まれていたのではと思います。
神様にお願いごとをする際にお酒を供えますが、神事が終わればお供えした酒を神事に参加した人たち同士で酌み交わし、絆を深めたということですね。
神前結婚式における「3・3・9度」「親族杯」などもそうです。
神様にお供えした同じ酒を、新郎新婦や親族が共に飲むことで、神様のご加護をいただき、絆を深める狙いがあるわけです。
平たく言えば、神道を信仰する日本では、酒は神様と人を結び、さらに人と人を結ぶためのツールであったということです。
それが江戸時代になってビジネス色の強いスタイルに変わり、現在に至るということですね。
しかし古今東西酒を通じ、人と人とが良好な関係になるという文化はすたれることはないと考えます。
感染リスクを抑えながら、無口で、マスクをしながら酒を飲まなくてもいい様に早くなってもらいたいものですね。