マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
日本のしきたりは独特の季節感により培われてきましたが、暦の上では一年で最も寒い時期を迎えています。
そしてこの時期には寒げいこ、味噌づくり、寒中見舞いなどの風習が今でも残っています。
寒中見舞いは「見舞い」という表現になっていますが、季節の挨拶状と認識していただいたらいいでしょう。
四季が明確に分かれている日本では昔から、寒い時期と暑い時期には相手の体調を気遣う書状をしたためたわけですが、1月5日頃の小寒から2月3日の節分までの「寒中」に出すのが「寒中見舞い」です。
これには、普段の御無沙汰を詫びるとともに、相手の体を気遣い、加えて互いにいたわり合う目的がありますので、頂いた相手は勇気づけられます。
最近は「喪中葉書」が普及し、寒中見舞いは「喪中に受けた年賀状のお返し」という意味合いが強くなった感がありますが、これも時代の流れでしょうか・・・
ただこのような時期だからこそ、本来の意味での寒中見舞いは、相手の心に響くものがあると思います。
また暦の上ではなく、事実上最も寒い時期は立春前後なので、立春過ぎに「余寒見舞い」を出すのもお勧めです。
一番寒くてつらい日だからこそ書状が届けば希望が湧いてきます。
余寒見舞いは意外にそんな思いが込められているかもしれませんね。
メールやSNS全盛の時代に「なぜそんな面倒くさいことを?」と思う人も多いかもしれません。
葉書や手紙を出すということは、葉書・便せん・封筒・切手が必要で、しかもポストに投函しなければいけません。
さらにメールのように瞬時に相手に届くわけではありません。
また相手に伝わるのは2日後くらいになります。
しかしメールに比べて、相手に対する深い思いが伝わるし、奥ゆかしさだって表現できるのが寒中見舞いや余寒見舞いのいいところです。
つまり差出人の人間性が表れるということです。
とにかく相手と良好な人間関係が築きたいのであれば、面倒くさがってはダメで、小まめに手間暇かけることが大切です。
ちなみに面倒がらずに葉書や手紙を書くことを「筆まめ」といいます。
「筆」と表現していますが、ボールペンや鉛筆でもいいのですが、基本的には手書き文字に使用される言葉です。
長い歴史を経て育まれてきた年中行事やしきたりは、先人の知恵の結晶です。
自分や相手の健康を喜ぶとともに、幸せを祈念するものでもあります。
時代がいかに変化しようが、次世代にも伝えたい日本の心です。
日本には季語を始め、四季に応じた美しい言葉が沢山ありますが、筆まめになればこのような言葉が自然に身に付き、ボキャブラリーも豊かになります。
実はこのことは次回に触れる「感動を呼ぶスピーチの心得」にも大きく左右します。