マナーうんちく話535≪五風十雨≫
「おせち」はもともと五節句に神様にお供えした料理で、雑煮は歳神様にお供えしたお餅を他の料理と共に煮た料理です。
いずれも歳神様にお供えした後にそのお下がりを頂くわけです。
日本人が親から子、子から孫へ伝えてきた料理には、健康長寿や子孫繁栄の願いが込められています。
●お屠蘇
正月にお屠蘇を飲む人は少なくなってきた感が有りますが、もともとは山椒、桔梗などの漢方薬を調合して、みりんや酒で漬けこんだ薬種です。
これを飲むと邪気を払い長寿にあやかれると言われています。
飲む順序は「若いエネルギーを頂戴する」という意味を込めて小さい子どもが先です。但しあくまで酒ですから注意して下さいね。
●お節料理
この料理はもともと「お節供」といわれ、五節句に神様にお供えした料理でした。料金にもよりますが豪華なお節料理は重箱に詰められています。
これは「目出度さを重ねる」という意味があるようです。
歳神様にお供えする料理ですが、お供えしたらそれを下げて皆で頂きます。
日本には神様と共に食事をする「神人共食文化」が存在するので、和食のマナーも「感謝の心」や「美しく食べる」ことに重きが置かれています。
ちなみにお節料理を食べる時に使用する祝い箸は「神人共食箸」です。
別名「柳箸」とも言われ柳の木でできています。
柳は春の一番先に芽吹くのでとても縁起がいい木で、しなやかで強いのが特徴です。風や雪などにも柔軟に対応できるので「謙虚になれ」と説いているとも言われています。
そしてお節料理を神様と共に食べながら、歳神様に一年を健康で過ごせることや、子孫繁栄をお願いするわけですね。
「黒豆」はマメ(健康)で暮らせるように、「数の子」は子孫繁栄を願って、「海老」は腰が曲がるまで長寿でありますようにと願い、「栗きんとん」は金運に恵まれるようにとの思いを込めて、「蓮根は」は未来を見据えるために、「昆布」は喜び事が多くありますようにとの意味合いが有ります。
今でこそ日本は飽食の国ですが、昔は一汁三采と言われる質素な食事です。
また山間部では魚介類は滅多に口にできないとてもご馳走で貴重な栄養源です。
さらに、「雑煮」の「餅」は、長くのびるので延命長寿を願う、まさに「ハレの日」の食べ物なのです。
このように一年に一度、歳神様と共にする食事は、とにかく豪華で神聖だったわけで、特別な意味や意義が感じられますね。
長い時間をかけて、心を込めてお迎えの準備をする気持ちが頷けます。
現在では日本は世界屈指の長寿の国になり、加えて少子化が進展し、子宝及び家を継ぐとか家を守るという価値観は薄れたようですが、昔の人にとって長寿や子孫繁栄は本当に切実な願いだったようです。
だからその思いが「正月飾り」や「お節料理」等にひしひしと込められているわけです。また当時は今のように職業選択の自由や個性や自分らしさといった考えはありません。
武士の家に生まれれば武士に、農家に生まれれば農業に勤しむのが当たり前で、祖先が築いてきたものをキチンと受け継ぎ、次世代に伝えるのがあたりまえだったのでしょう。
今のように物が豊かで、平和で、自由に生きられる幸せに感謝しながら心豊かに生きていきたいものです。
古今東西「生きることは食べること」ですが、食べ物に恵まれることは本当に幸せなことだと思います。
単に美味しいと感じるのではなく、もう一歩踏み込んで「幸せだ」「ありがたい」と感じることが大切ではないでしょうか。
感謝の心は幸せに直結します。