マナーうんちく話90≪懐紙の優雅な使い方≫
日本中がまさに桜色で染まる時期です。
また、これから入学や入社等でお祝い事も多い季節ですね。
その際日本では「祝い膳」を用意します。
そしてその祝い膳に付き物が「鯛のオカシラツキ」です。
では、祝い膳に鯛が付くようになったのは何時ごろからでしょうか?
日本人が鯛を食べていた歴史は相当古く、縄文遺跡から鯛の骨が発掘されています。既に5000年も前から食されていたわけですね。
さらに奈良時代の古事記にも鯛が登場しますが、平安時代の「延喜式」では鯛は朝廷への貢物になっています。
また、室町時代の武士たちにはその姿や形が受けていたようで、江戸時代には「魚の王様」になります。
淡水魚の「鯉」に対して、海の魚では日本を代表する魚で、最も古くから食用にされていたようです。
凛々しい姿、縁起の良い桜色、味、まさに3拍子揃っており、加えて真鯛は40年位の長寿ですから、神事に使用されるのも頷けます。
祝いの席で供される「祝い膳」を飾る「オカシラツキ」も同様でしょう。
七福神で有名な恵比寿様も鯛を小脇に抱えています。
昔から「腐っても鯛」と言う言葉があります。
優れているものは、少しくらいダメになってもそれなりの品格や値打ちがあると言う意味で使用されます。
桜の開花と共に産卵のために期岸に寄ってくる鯛を「桜鯛」と言いますが、まさに今が旬です。
目出度い席に「オカシラツキ」として登場しますが、食べ方が少々気になります。
神事の際に鯛が供えられますが、神事が終わった後には、神事に参加した人たちがそれを下げて食べます。
ここで食べ方に注意しなければいけません。
神様にお供えしていたタイですから、美しく食べるということが求められます。
祝い膳の鯛のオカシラツキも同じです。
私が主宰する和食のテーブルマナーでは、料金にもよりますが、出来る限り鯛のオカシラツキを用意して頂きます。
そしてこのような理屈を説明して、懐紙を使用しながら美しく食べる練習をして頂くわけですが、緊張はあるものの、そこに込められた精神文化や和食の醍醐味を経験して頂いています。
日本は今世界一の「美食の国」「飽食の国」になっていますが、単に美味しい物を腹いっぱい食べるのではなく、心を込めて、感謝の気持ちで、美しく食べるという行為は、美しい生き方に直結します。
晴れやかな祝いの席の鯛のオカシラツキには、「花見」の起源と同様、日本人の原点が宿っているのかもしれませんね・・・。
ちなみにマナーは形も大切ですが、「なぜこうするのか」と言う合理的な理由が必ず存在します。先ずはそれを正しく理解することが大切です。
洋食でも和食でも、一匹丸ごとの魚は裏返して食べませんが、そこに込められた理由は全く異なります。