マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
ハンドバックの中に縫裁セットが入っていますか?
では、「針供養」をご存知でしょうか?
縫裁に使用した針の中で、古くなって使用できなくなった針を、餅やコンニャクや豆腐に刺して、神社や寺に納めて供養してもらうのが「針供養」です。
四季が明確に分かれており、世界的にも年中行事が非常に多い日本でも、風雪に耐え、長年延々と続いている行事は多々あります。
正月、七草、雛祭り、端午の節句、七夕、盆、秋祭り等など。
一方時代の流れと共に姿が消えて行く行事も珍しくありません。
花まつり、重陽の節句、そして針供養等。
男女平等、男女共同参画社会等が叫ばれる中、時代にミスマッチと言う人もいるかもしれませんが、かつては「針仕事」は女性の大切な仕事の一つでした。
だから「縫い針」は日常生活にとってとても大事な道具であったわけですね。
道具に過ぎない針を供養する意味も頷けます。
箸使いが日本人の「ものづくり」の基盤を作ったとも言われますが、日本のモノ作りは世界的にも有名です。
しかし物である「針を供養する」日本人の心根は、日本人の物に対する意識が伺えるような気がします。
例えば、豆腐や餅などの柔らかい物に針を刺すのは、今まで布地のようなかたいモノに刺していたので、今度は豆腐のような柔らかい物でゆっくり休んで下さいとの意味があるようです。
さらに、七夕は短冊に願いを込めて文字や縫栽のスキルアップを祈りますが、針供養の行事にも当然縫栽技術向上の願いも込められているのでしょうね。
また、「八百万の神」のいる日本では、昔から物にも神様が宿ると考えられていました。従ってたとえ針のような小さな道具でも、使い終わったらポイ捨てというわけにはまいりません。まして筆や針のように身体の一部として使用するような道具は、その役目を終えたらキチンと供養するのが習慣でした。
そして、針供養は「事始め」や「事納め」の意味もあり、12月8日と2月8日になっていたようです。
どちらの日が初めで、どちらの日が終わりになるのかは諸説ありますが、「事」とは、神事を表す言葉で、神様をお祭りするために身を清める日だったようです。
慎みを持って過ごす日ということで、日本には神様をお祭りする日が年に2回存在したと言うことです。
「歳神様」と「田の神様」の説が有力ですが、いずれにせよ米を主食にしている日本人にはなじみの深い神様です。だから、和裁や洋裁等の仕事に関わっている人のみならず、「物にも感謝する心」は次世代にも是非伝えて行きたいものです。
ところで日本の物作りは世界に誇るものですが、大量生産・大量消費の時代はいつまで続くのでしょうか?
そろそろ「物の豊かさ」から「心の豊かさ」に移行したい気がするのですが・・・。
男女共同参画社会の進展や男女平等を声高らかに叫ぶのもいいですが、バッグの中に裁縫セットや懐紙が入っている女性は魅力的ですね。