マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
夏休みも残り少なくなり、宿題を抱えた子ども達があたふたする頃ですね。
8月23日は立秋の次の二十四節季で「処暑(しょしょ)」です。
8月8日の「立秋」に秋が誕生したわけですが、それから15日経過したので、そろそろ朝晩の涼しさが実感できるようになる時期です。
空にも変化が感じられます。
夏から秋に移行するこの時期は、暑気と冷気が行き合うようになるので、入道雲が垂直に浮かんでいる空に、水平になった鱗雲や鰯雲を見ることがあります。
過ぎゆく夏と、訪れる秋が同じ空で行き合う、つまり交差するので「行合の空」と表現します。
高くなった空に、少しずつ秋の気配がしみ込んでいるのですね。
そして、空の下では昼間は蝉の声が聞こえますが、夜になると鈴虫や松虫の美しい声が聞こえてくるわけです。
改めて、朝夕に吹く風や、虫の音や、雲の様子を五感で感じてみて下さい。
ここで質問です。
《一夜酒 隣の子迄 来たりけり》
今からおおよそ200年前の小林一茶の句ですが、「一夜酒」をご存知でしょうか?
先日デパートで甘酒売り場を観察してきました。
甘酒コーナーに、「甘酒は暑気払いとして江戸時代から庶民に愛された健康飲料で、是非夏バテや熱中症予防にどうぞ」と言う旨のコメントが添えられていました。
私が5年前にこのコラム欄で、甘酒は夏の季語で、「飲む点滴」と呼ばれる位理想の飲み物ですと書きましたが、当時はあまりご存知の方も少なかったようにおもいます。そして、栄養士や保健師の方から問い合わせを頂いた記憶があります。
さて「一夜酒」ですが、これが実は甘酒です。
甘酒は米を焚き、それに米麹を加えて6時間から10時間くらい発酵すれば他の酒に比べ、簡単に出来るので、「一夜酒」とも呼ばれました。
ブドウ糖が多く含まれているので甘く、さらに長時間発酵すると、酒になるので「甘酒」と言う名がつきましたが、米と米麹だけのノンアルコールの栄養ドリンクで、我が家でも愛飲しており、この記事も甘酒を頂きながら書いています。
ところで、この句が作られた頃の日本人の平均寿命は40歳代で、身長も低く、栄養状態も悪く、それに加え地震や災害も多く発生し、暑さの厳しい夏には多くの人が亡くなったと言われています。
そんな時代ですから、夏になると江戸の町にどこからともなく、「甘い、甘い、あ・ま・ざ・け」と言って、天秤棒を担いだ甘酒売りがやってくるわけですね。
当時は一杯6文から8文と言われていたので150円くらいでしょうか。
美味しくて、栄養満点で、安価となれば庶民の人気はウナギ登りです。
江戸時代は、縁日がとても多かったわけですが、神社仏閣等でも縁日になると甘酒が売られるようになり、夏の風物詩になっていくわけですね。
甘酒を頂きながら、行合の空を眺め、蝉や虫の音を聞き、季節の移ろいを味わい、日本人に生まれてきたことに感謝するのもいいものです。