マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
今はフルシーズン食すことが出来ますが、かつて夏のご馳走と言えば「鰻料理」ではないでしょうか?
鰻はビタミンAとビタミンDが豊富で、夏バテ対策として、また精の付く食べ物として万葉のころから食されていましたが、「蒲焼」といわれる調理方法が登場するのは江戸時代からです。
江戸中期になると、濃い口しょうゆが発明され、その普及に合わせて蒲焼も広く庶民に広まったようです。
そして、器の中にご飯を入れて、鰻のかば焼きを載せて、その上から蒲焼き用のタレをかけた日本料理が「鰻丼」「鰻重」で、平賀源内の傑作のキャッチコピーのお陰で、7月24日土用の丑の日には、食べずにはいられない食べ物になりました。
但し、当初は鰻の蒲焼きとご飯は別々に食されており、鰻丼が登場するのは大部の後です。
いきさつは下記の通りです。
昔は今のように大きな川に橋はなく、渡し船での移動だったわけですが、その渡し船を利用するため、船着き場近くの茶店で、鰻の蒲焼とご飯を食べていた旅人がいました。
食べている途中で船が出ることになったので、慌てた旅人は温かいご飯の上に蒲焼きを載せ、その皿を蓋にして船に乗り、暫くしてそれを食べたところ、非常においしかったので、それが定着しました。
特に江戸時代には、芝居が娯楽として人気があったわけですが、鰻丼は幕の内弁当のように、芝居にとても適した食べ物だったのでさらに普及したようです。
さらに明治から大正になると、鰻丼にさらにぜいたく感を出したいということで、漆器等をふんだんに使用した重箱に鰻を入れるようになり、新たに「鰻重」が誕生したわけです。
ところで、鰻の蒲焼も、丼で供されるか、重箱になるかで、値段は大きく異なりますが、中身自体は必ずしも異なるわけではありません。
ちなみに、鰻の一番美味しくてボリュームのある部分は胴体部分ですが、小骨が多い頭の部分や、幅が狭く身も薄い尾っぽの部分では、値段が異なるかもしれませんね。
しかし、「鰻丼」の方が庶民的で食べ易い感じがしますが、「鰻重」と言えば、たとえ中身が同じでも、なんだか格式ばった感じが歪めないようです。
その理由は、丼より重箱の方が、格式が高いとされているからだと思います。
いずれにせよ、高級料理ですからフォーマルな席でも供されます。
美しく、美味しく食べたいものですね。
先ず、鰻のかば焼きは、牛肉のステーキなどと同じで、注文を受けて焼き始めることが多いので、時間にゆとりを持って下さい。
焼き上がるまでの時間、良い香りを楽しみながら、ひたすら待つことも大切なマナーですから、香りを楽しむ余裕が大切です。
【鰻丼の美しい食べ方】
丼物は気軽に食べられますが、鰻丼もれっきりとした和食です。
たとえ一人で食べる場合でも、姿勢を正し、丁寧に召し上がって下さい。
丼が持てそうな場合は持って食べて下さい。ご飯と鰻を交互、あるいは一緒に食べてもいいでしょう。
丼の左手前から食べ始めるのがポイントです。
丼が持てないようでしたら、左手を丼に軽く添えると上品な食べ方になります。
但し、丼に口をつけて食べるのは感心しません。
丼に直接口をつけてもいいのは、「お茶漬け」や「とろろごはん」のように、箸だけではつまみにくい食べ物だけです。
次回は「蒲焼の知識」と「鰻重」の品の良い食べ方です。