マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
連日の猛暑で、着る物や住まいの在り方をあわてて見直した人も多いと思います。
着物を着る方は良くご存知だと思いますが、季節によって素材を変えてしまうのは日本くらいではないでしょうか?
これだけクールビズやウオームビズが定着し、何もかも自由奔放になった中、綿や絹から、麻に変えたり、同じ絹であっても織り方を変えたり・・・。
昔の人は、本当に意味で、季節感を肌で味わうことができる、お洒落の達人だったわけですね。
暑い時期の代表的な着物の生地(きじ)には、格式ばった場所に相応しい「絽(ろ)」と、カジュアルからセミフォーマルに対応できる「紗(しゃ)」がありますが、これも「四季の国」日本ならではの発想でしょう。
そして7月には家の中の建具も大きく変わりました。
現在は住居事情が大きく変わり、加えて冷房設備が充実したので、それほど変える必要はありませんが、昔は違います。
涼しく感じることが出来るように、襖や障子を取り払い、巣誰(すだれ)等を掛けるわけですが、出来る限り壁を無くして、涼しい風を多く取り込む生活の知恵です。
家の中の建具を、季節により取り替える文化も日本ならではないでしょうか。
四季が明確に分かれていることが大きな原因ですが、社会の治安が守られ、平和な国だから発達した文化で、世界に誇る文化の一つだと考えます。
今の住宅事情で、昔からの伝統を守ることは非常に難しいと思いますが、せめてこのような感性だけでも維持していきたいものですね。
ところで、全国的に大変な暑さに見舞われましたが、夏の南風は熱気を運んできて、暑気が一段と強くなります。
熱射病等にくれぐれも注意して下さい。
そしてこの「南風」は色々な名前で呼ばれています。
昔の人は、雨にも雪にも、季節や降り方により様々なネーミングをつけましたが、風もそうです。
梅雨の初めころに吹く風は「黒南風(くろはえ)」、梅雨の終わり頃に吹く風は「白南風(しろはえ)」と呼び方を分け、風流を味わっていたようですが、大型台風の動向が気になるところです。
先人の豊かな感性はこれだけではありません。
「暑気払い」。
この意味をご存知でしょうか?
暑さを打ち払い、弱った気を取り戻し元気になることで、本来は、酒や薬や食べ物等で体を冷やすものを取り入れ、体にたまった熱気を取り除き、暑さを払いのける行事です。
江戸時代の終わり頃は、枇杷(びわ)や桃の葉を煎じた「枇杷葉」が好評だったそうです。
枇杷や桃の葉には体を冷やす効果があるのでしょうね。
しかし今では、枝豆をつまみに生ビールを楽しむ夏の宴が定番になりました。
現代人は、先人が、季節の移り変わりを心豊かに楽しんだ繊細な感性を、ビールを楽しむ行事に変えたわけですね。
月日の流れは、季節の着る物、住まい、楽しみ方まで大きく変えたと言うことでしょうか。