マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
世界的に四季の美しい日本には、春の「桜前線」と秋の「紅葉前線」があります。
桜前線は九州から北海道に向けて北上しますが、紅葉前線は北海道から南下してきます。
いずれもシーズンになると桜の開花情報や、紅葉の色づき情報を提供する「桜便り」や「紅葉便り」がありますね。
そして、紅葉に恵まれる条件は日照時間が長いこと、昼夜の気温の差が大きいこと等があげられるようですが、今年はこれらの条件を満たしているので、紅葉狩りを楽しみにされている方も多いと思います。
ところで、紅葉を形容する言葉は「錦」ですが、これは赤や黄色に美しく色づいた葉っぱを、色とりどりの絢爛豪華な着物に例えたものです。
さらに、山が紅葉して赤や黄色に色づくことを「山装う頃」と表現します。
冬の「山眠る頃」、春の「山笑う頃」、夏の「山滴る頃」と共に、日本ならではの大変美しい言葉です。
『秋の夕日に照る山紅葉 濃いも薄いも数ある中に
松を彩る楓や蔦は 山のふもとの裾模様』
『渓の流れに散りゆく紅葉 波に揺られて 離れて寄って
赤や黄色の色様々に 水の上にも織る錦』
日本の歌100選の1曲に選ばれている明治の終わりに発表された唱歌で、知らない人はいない位有名な曲ですね。
ハーモニーで歌った記憶をお持ちの方も多いと思います。
また、早春の梅とくればホトトギスですが、秋の紅葉とくれば「鹿」でしょうか。花札をおやりになる人は良くご存じだと思います。
『奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声聞く時ぞ 秋は悲しき』(古今集)
秋は雄の鹿が雌の鹿を求めて鳴く季節です。
散り敷かれた赤や黄色の紅葉を踏み分けて、雌の鹿が恋しいと鳴いている雄の鹿の声を聞くと、なんとなく物悲しい気分になるなー。
本来秋は、穀物などの収穫を迎えて食べ物が豊富にある季節ですから、百姓はこのようなメランコリックな気分にはならないと思います。
はやり貴族は風流なのでしょうね。
紅葉を見ながら歌や詩を読んでいたとか・・・。
昨年の今頃、「年中行事のしきたりとマナー」の講演の際に、中年の女性からこんな質問をいただきました。
○春には「ワラビ狩り」「イチゴ狩り」、秋には「ブドウ狩り」「ナシ狩り」「ミカン狩り」等があり、それに参加するとワラビ、イチゴ、ブドウ、ミカンなどを持って帰りますが、「紅葉狩り」に行った時には紅葉を折って持って帰ってもいいのですか?
○答えはノーです。
○では、なぜ「紅葉見物」といわずに、「紅葉狩り」と言うのですか?
という質問が続きました。
皆さんはどう思いますか?
もともと、鹿や猪などを弓や槍で射とめる事を「狩り」と言っていましたが、やがて兎や鳥などの小動物を捉えることまで含むようになりました。
さらに果物や野菜を取ることも狩りと言うようになり、最終的には草花などを鑑賞することも狩りと表現するようになったわけです。ちなみに、紅葉狩りに酒やご馳走が伴うようになったのは江戸時代からだと言われています。
紅葉狩りは美しい自然を愛でる秋の行楽ですが、天気が変わりやすい時期です。ご馳走もさることながら雨具持参で、心豊かにお楽しみください。