マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
日本は本当に食文化に恵まれていると思いますが、秋の食材の王様と言えば、なんと言っても松茸ですね。
松は神が宿るとされている日本人にとって大変お目出度い木ですが、その松に生える茸が松茸ですから、当然気品の高い食材として昔から重宝されており、平安貴族も松茸狩りを楽しんでいたとか。
加えて松茸の香りも高貴な物の一つとされ、匂いを楽しむ松茸料理も多々ありますね。「松茸の土瓶蒸し」しかりです。
ちなみに松茸の土瓶蒸しの美味しい食べ方は「マナーうんちく話606《松たけと土瓶蒸しの食べ方》を参考にして下さい。
ところでこの時期、貴族が好んだ高級食材とは逆に、庶民の食べ物の代表格の一つに「鰯(いわし)」があります。
鰯も平安時代から庶民の味ですが、松茸の高貴な臭いと異なり、臭い匂いがするので、高貴な人からは嫌われていたようです。
鰯は魚編に弱いと書くように痛みが早く、腐敗が進むと悪臭を放ちますが、この悪臭は魔よけに利用されていました。
節分に、柊と共に鰯の焼いた頭を、魔よけとして門口に飾る風習は現在でも見られますが、その歴史は古く平安時代にさかのぼります。
しかし、悪臭を放つ大衆魚の鰯でも、何度も洗って食せば高級魚の筆頭格である鯛にも勝らぬ美味になります。
だから、「イワシ七度洗えばタイの味」と言われております。
さらに、「鰯の頭も信心から」と言う諺があります。
鰯に頭のようにつまらないものでも、「神棚に祀って信心すれば有り難いと思うようになる」と言う意味です。
紫式部が鰯を食べて主人に注意され反論した話は有名ですが、鰯を当時の高貴な人が嫌った理由は、「鰯は{賤しい}につながるから」「大きな魚が格上とされていた時代にあって鰯はとても小さいから」「鰯は臭いから」等があります。
しかし江戸時代になると、栄養価も高く、美味しく、しかも安価な鰯は庶民の食卓を多いに賑やかすことになり、この時期になると長屋のあちらこちらで鰯を焼くにおいがするわけです。
普段のおかずとして、貴重なタンパク源として、江戸時代の庶民の健康を支えてきたことには間違いなさそうですね。
《隣の子 おらが家でも 鰯だよ》と川柳にも歌われた理由が、世界一飽食の時代になった今でも頷けますね。
今では多彩な鰯料理がありますが、小魚を美しく食べるポイントは子骨の処理に有ります。丁寧にかつ優しく処理して下さいね。
また、日本人は「グルメ」や「高級食材」と言う言葉に弱いようですが、食べ物に格上・格下は有りません。
大切な事は食べている食材の事を正しく理解して、感謝の心で美味しく頂くことで、不必要にブランドにこだわらないことだと思います。