マナーうんちく話745《「衣替え」と「クールビズ」》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:歳時記のマナー

旧暦の6月は非常に暑くて、水が枯れ尽きるから「水無月(みなづき)」と言いますが、他にも、田植えが終わって農事が「みな尽きる」、田植えが終わって田んぼごとに水を張る「水張り月」であるという説があります。

以前は、この日を境に官公庁、学校、企業では夏服に変わりますが、気候により服装を変えるのは、四季が明確に分かれている日本ならではの風習で、「衣替え」と呼ばれていました。

衣替えは平安貴族の宮中での行事から始まった風習です。
当時は、官位を表す衣服を6月1日と10月1日の季節の移り変わりに合わせて着替えていたから、「衣替え」と呼ぶようになりましたが、一般庶民は生活が貧しく、恐らく季節により衣服を変えるような余裕は無かったと思います。

そして、江戸時代になると武士の世界ではさらに細かく分かれ衣替えは年4回になり、明治になると、官公庁の職員や学校などでも洋服が着られるようになり、政府も6月と10月を衣替えの月と定めました。それが一般まで普及し今日に至り、今ではスーパークールビズになりましたね。

現在の日本は世界屈指の豊かな国になり、衣食住全てが恵まれており、服装も今日は何を着て行こうか?着る物が多すぎて迷うほどです。

加えて、ファッションにもこだわる人が増え、個性だとか自由が尊重され、和服を除き、普段の服装に厳然とした境目は無くなりました。

さらに、冷暖房が完備されて、6月の衣替えを改めて行う人も以前よりは、かなり少なくなりました。
文明の利器はすごいですね。

つい半世紀前までは、団扇、扇風機、打ち水、風鈴等により涼をとっていたものが、クーラーの登場により夏の過ごし方が激変しました。

しかし、現代人にとって欠くことのできないエアコンは、地球温暖化を促進します。だからそのエアコンの温度を高めに調整することで、少しでも温暖化を防止しなければいけません。

酷暑の中でエアコンの温度を高めにすれば当然仕事が行いづらくなります。
そこで軽装にして楽な格好で仕事をしようとする官製キャンペーンが、2005年の小泉政権からはじまったわけです。

これが「Cool Biz(クールビズ)」で、ファッション業界では、快適でお洒落感をうたった衣服が多く登場し、クールビズ商戦が展開されているのはご存知の通りです。

ちなみに、クールビズのきっかけは京都議定書の発効で、Cooとは「涼しい」、Bizとはビジネスの短縮形です。

上着を脱ぎ、ノーネクタイにして服装を軽装にして、暑さを乗り切ろうとすれば、だらしない格好と捉えられる恐れがあります。そのため、政府がお墨付きを与えることにより、ラフな格好でも礼を失することにはならないとしました。

それがさらに拡大され、期間も今までの6月から9月までとされていたのが、5月1日から10月31日までになり、服装もよりカジュアルになってきましたね。

地球温暖化防止と言う大義名分の下、「気軽な服装で良いよ」とのお墨付きで、ルールとして許可された感がありますが、本来服装はまとう側が、体調や状況などTPOに応じて決めればいい事で、ルールとして捉えるのではなくマナーとして決めるべきではないかと私は思っています。

最近国際化の進展のせいでしょうか、「クールビズ」「ワークシェア」「マニフェスト」「チャージ」のような横文字がやたらと増えてきました。

季節の節目に、着物を改め、気分をリフレッシュする「衣替え」と言う美しい言葉は、自然を大切にし、自然と共に仲良く暮らしてきた先人の言葉で、資源循環型社会の原型であり、自然へのマナーです。

地球温暖化のせいにして、1000年以上続いた言葉が変化していくのは寂しい限りです。クールビズの本質は地球の環境を守ることです。だったら、ラフな格好するより、地球に素敵なマナーを発揮することが筋だと考えます。
ルールとマナーを履き違えないようにしたいものですね。


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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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