マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
講演であちらこちらに行く機会が多々ありますが、その際、茶菓の接待をよく受けます。
和室に通されて日本茶に和菓子、あるいは応接室に案内されてコーヒーや紅茶を頂く等、様々ですが、部屋の清掃が行き届いていたり、出された飲み物がおいしかったら、その組織全体の暖かい気持ちをくみ取ることが出来る気がします。特に美味しい日本茶を頂いた時は格別です。
「日常茶飯事」と言う言葉があります。
「いつもの風景」や「いつもの事」の意味で、お茶を飲んだり、食事をするようなありふれた行為や出来事で、なんら奇異でないことです。
日本人は、昔から食事をしたり、休憩したり、あるいは客人をもてなす時にはお茶を用意したわけです。
そして、お茶を介して独自の「もてなしの文化」を育んできましたが、その遺伝子が意外にも、ペットボトルのお茶が全盛になった今でも生きています。
やはり日本人なのですね。
例えば、和風レストランやうどん屋や寿司屋、あるいはバイキングスタイルの店ではお茶を出してくれます。
ビールやジュースをオーダーすると当然料金が加算されますが、日本茶は何杯飲んでも料金がかかりません。
これは他国では見られない、日本人独特の、客に対する、暖かいおもてなしの表れではないでしょうか?
店側が、いかにお客様を大切にしたかですね。
昨年、東京オリンピック招致委員会のプレゼンテーションで、「おもてなし」の言葉が大きな話題を呼んだことは記憶に新しいことです。
そして、外国から日本にやってくる外国人をおもてなしするために、英語教育が盛んですが、その前にやるべき事があります。
本当に外国人が学びたいのは、日本独特のおもてなしの心で有り、英語そのものではありません。
先ずは、日本人が美味しいお茶を入れて、来客の喉を潤すと共に、心と心の交流を図るスキルを身に付けるべきだと思います。
そのためには、家庭や職場で、来客をもてなす実践のスキルを磨くことが大切だと考えます。
日本茶の歴史や健康効果等の知識、美味しいお茶を入れ方、加えて、もてなしの仕方・され方のマナーを身に付け、それを外国人に実践する手段として英語が出来ればいいですね。
世界広し!と言え、お茶を飲まない国や民族は無いと思います。
茶の種類や飲み方や伝統は違っても、「ふれあいの心」は同じだと思います。
中でも、日本が誇る茶文化の根源を成すものは「おもてなしの心」です。
昔より、人と人とがふれあい、その媒介としてお茶が存在したわけで、だからこそ文化として栄えたのではないでしょうか。
物質的豊かさや利便性に重きが置かれる中、ペットボトルのお茶の存在意義は大きいのでしょうが、こんな時代だからこそ、本物の持つお茶の豊かさを再度認識して頂きたいものです。
お湯を沸かし、急須に茶葉を入れ、そこから注がれる緑茶の香りや美味しさは、ペットボトルでは味わえない魅力が多々あります。
そして、そんなお茶を味わうひとときを、誰かと共に味わうことは、最高に贅沢な時間です。心を込めて、丁寧に入れたお茶を客人に出す心が、相手に伝わるような、温かい触れ合いを、家庭でも職場でも大切にしたいですね。
そうすることによって、互いに心が打ち解け、会話が弾み、やがて信頼関係へとなびいていくものです。
新茶の美味しい時期です。是非お試しください。