マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
桜の開花が報じられましたが、何かと慌ただしい現代の日本人は、咲いた花しか目に入らないような気がします。
花が美しく咲くには色々なプロセスがあります。
人が抱いた夢や希望が実を結ぶのと同じですね。
一雨ごとに気温も上昇し、日差しも暖かくなり、草木が元気を増してくると、いよいよ春のビッグイベントである「お花見シーズン」に入ります。
今では花見と言えば「桜」ですが、お彼岸の頃は「梅」が見ごろの所も結構あります。また、万葉集では梅が桜よりはるかに多く詠まれており、当時の花見は梅を愛でていたのではと推測されます。
そして、武士の登場と共に桜に重きが置かれ、現代のように娯楽としての花見が庶民に浸透したのは江戸時代からだそうです。
しかし、梅も桜も日本人にとっては甲乙付けがたいものです。
出来れば梅も桜も鑑賞できればいですね。
そういえば美しい物が並んだり、良い事が重なる事を「梅と桜」と表現しますね。
ところで、このコラムでも取り上げましたが「春眠暁を覚えず」とか、「女心と秋の空」「天高く馬肥ゆる秋」等、日本には季節に関する慣用句が多々あります。
そして、今の時期に最も耳にしたり口にしたりする言葉は、「暑さ寒さも彼岸まで」ではないでしょうか。
神様(神道)・仏様(仏教)の国、農耕文化で栄えた国、四季が明確に分かれている国日本ならではの言葉で、誰しもなじみが深い言葉です。
意味は、「夏の暑さや冬の寒さも、彼岸が来れば次第に和らいで過ごしやすくなる」と言う意味でよく使われます。
立春を過ぎた寒さは「余寒」、立秋を過ぎた暑さは「残暑」と言いますが、辛い余寒も春分の日を過ぎれば和らぎ、厳しい残暑も秋分の日を過ぎれば過ごしやすくなると言う意味ですが、必ずしも気象現象とは関連はないようですね。
また、暦の上で明確になっているわけでもなく、あくまで人が身体で感じる季節の節目です。
さらに、この言葉には、人が自然に立ち向かっても叶うわけではない。
自然と仲良く共生し、耐える時には耐えなさい!と言う教えも含まれています。
つまり、自然に対して常に謙虚であれ!と諭した言葉でもあります。
加えて、謙虚な姿勢で、耐える時にはひたすら耐えたら、やがては過ごしやすくなるよ!という励ましの言葉でもあるような気がします。
仏教行事は、そのほとんどが、インドが発祥の地になりますが、彼岸の行事は日本固有のもので、「暑さ寒さも彼岸まで」と言う言葉も日本ならではです。
彼岸にお供えする食べ物に「ぼた餅」がありますが、これは既に触れましたが、「百花の王」と言われる牡丹の花が華麗に咲く事に由来します。
旧暦の話ですから、春の彼岸の頃に牡丹の花が咲くことはなく、概ねゴールデンウイーク頃が見ごろになります。
ちなみに、春の彼岸の中日、つまり春分の日は「自然をたたえ、生物を慈しむ」日であり、秋の彼岸の中日、つまり秋分の日は「先祖を敬い、亡くなった人を偲ぶ」日で、いずれも仏教の教えに相応しい理念です。
そして、「春の彼岸」と「秋の彼岸」は気温の差がかなりありますが、「暑さ寒さも彼岸まで」は、春の彼岸と秋の彼岸を同等に扱っているようです。
暑さ寒さも、ある程度慣れてくると気持ち良くなると言うことでしょうか?
今年も、《マナーうんちく話「701」と「702」》で、お彼岸について触れてみましたが、色々な意味を思い浮かべながら、お彼岸の日々をお過ごしいただければ嬉しい限りです。
誰しも、ご先祖様あっての今があるわけですね。