マナーうんちく話535≪五風十雨≫
陰暦の8月15日の月を「中秋の名月」と呼び、宴を催す習慣は中国から伝わったようですが、日本では平安貴族が、歌を詠み、楽器を奏でながら、優雅に楽しんでいたことが知られております。
やがて、江戸時代には一般庶民にも普及し、米粉で作った団子や芋や芒(すすき)をお供えして、十五夜の月を観賞する行事として根付きました。
また、この「十五夜」に対して、陰暦9月13日の月を「十三夜の月」、あるいは「後の月(のちのつき)」として楽しむ、日本独自の習慣を作りました。
栗が実る頃ですから「栗名月」ともいわれます。
そして、陰暦9月13日が、平成25年は10月17日です。
9月の中秋の名月を楽しまれた方は、今日の十三夜の月も是非愛でて下さいね。
なぜなら、十五夜のお月見をして、十三夜をしないのは、「片月見」といって地域によっては、忌む場合もあるからです。現在では、殆ど気にする人はいませんが、美しいものは何回鑑賞してもいいものです。
ところで、9月は「十五夜の満月」を楽しむわけですが、10月はなぜ満月ではなく「十三夜の月」なのでしょうか?
日本人は、完全でない未完成なものに、価値を置く傾向が有ったようです。
昔の人は、「満つれば欠ける」と言っています。
「登りつめれば下り坂」とも言われます。最高になったら後は落ちるだけだから、あえて一部を残して完成させないようにしたわけです。
例えば、扇子のマナーにもその傾向が見られます。
扇子は全て開かずに一部を残しておくのがマナーですが、その理由は、扇子を全て開いてしまったら、これより先が無いから、これ以上は開きません。
つまり、今後ともさらに幸運に恵まれるようにと、あえて一部を残しておくわけです。
日本には、「奥ゆかしい」という大変美しい言葉がありますが、この言葉もそうではないでしょうか?
「奥」とは心の奥、「ゆかしい」とは行きたいという意味です。
あなたの心の奥に行きたい、つまり、「あなたの事をもっと知りたい」と思わせることに他なりません。
初めて人に会って、自分の事ばかりを一方的に話すのではなく、聞き役に回り、相手から、「今日は私ばかりしゃべったので、次回はあなたの事を聞きたいわ」と思わせることです。
十三夜を愛でることにせよ、扇子のマナーにせよ、奥ゆかしさと言い、あえて完璧にしない、日本人ならではの心意気が良いですね。
しかし、そうは言っても、いつかは「頂上に立ちたい」という望みを持ち、それを叶えたいという欲望はあります。
例えば、今は平社員だが、いずれは社長になりたいとか、一国一城の主人になりたいと願っている人も多いと思います。
今は単なる恋人だけど、やがて恋愛に発展させ、最終的には結婚したいと願っている人もしかりです。
その願いが成就するように常に努力することが大切です。
そして、願いが叶った時には、「満ちれば欠ける」事を理解し、その時を大事にしていただきたいものです。
願いが叶った時は、今までの人生で最高の喜びを味わえる時だと思いますが、残念ながらいつまでも持続しません。
サラリーマンなら定年があります。また、いつまでもトップに君臨するのではなく次世代にその座を譲らなければいけません。結婚が実現すれば離婚に至る可能性も出てきます。
この事を考えると、折角希望がかなえられた時に、愚痴を言ったり気を緩めたりしたら勿体ない限りです。
「満ちれば欠ける」事を知り、今を全身全霊で生きると共に、謙虚になることも大切ですね。