マナーうんちく話498≪うかつ謝り≫
正月に「日の出」を待つのも楽しみですが、空気の澄んだ秋に「月の出」をひたすら待つのも趣が有ります。
昔の人は、日の出より、むしろ「月の出」を待つのを、楽しんだのではないでしょうか?それを証拠に、仲秋の名月の頃の月に、「待宵」、そして「十五夜」、さらに「十六夜(いざよい)」、「立待(たちまち)」、「居待(いまち)」、「寝待」等と、月の出の時間に合わせた名前が沢山付けられています。
本当においしい料理は、出来上がるまで、じっくり待って食べますが、美しいお月様の出るのを待つ時の気分も、それとよく似た気持ちでしょうか?
さて、前回の続きで、人を見極める方法ですが、誠実か否か?言っていることと行動が伴っているか否か?等色々有りますが、一番のお勧めは「共に食事をされる事」です。
その際、洋食や中華でもいいですが、出来れば和室で和食がお勧めです。
和室や和食は、日本人の生活の根幹をなす自国の文化だからです。
それに長けていたら、先ず間違いはないと思います。
共に食事をする意味は、「相手とさらに親交を深めるため」と、「相手をよく理解するため」です。
だから、交流会や歓迎会などを始め、結婚する際「両家初顔合わせ」や「結納の儀式」後には食事をします。
ところで、「食事の仕方」で何が理解できるか?ですが、日本には昔から「お里が知れる」という言葉が有ります。
履き物の脱ぎ方・揃え方、食事の仕方で、生まれ育ち、即ち、どんな父親や母親、あるいは、どんな祖父母から、どのように育てられたかがわかると言われています。
具体的には、次のような事を観察して下さい。
・履き物を正しく脱ぎ、丁寧に揃えられるか?
・姿勢を正して、キチンと食卓に座れるか?
・食事を始める時に、「頂きます」が言えるか?
・箸や器が正しく扱えるか?
・食べ残す事無く、綺麗に食べることができるか?
・楽しい会話ができるか?
・「美味しい!」の言葉が有るか?
・料理を運んでくれる係りの人に、きちんと挨拶が出来るか?
・料理のスピードを全員に合わす事が出来るか?
大体以上ですが、これらが出来ている人は、「感謝」や「思いやり」の心が有り、コミュニケーション能力にも長け、信頼に値する人だと思います。
「食べることは生きること」です。
赤ちゃんは手当たり次第、目の前の物を口に入れますが、これは、本能的に、生きることは食べることだと心得ているからではないでしょうか。
およそ、人間が共に食事をするようになり、老若男女全ての人が、安心して食事が出来るようにしたのがテーブルマナーの起源です。
要は、食卓を囲む全ての人が、料理を美味しく楽しみ、心地良い一時を過ごすための気遣いがテーブルマナーです。
だから、姿勢を正し、器や箸を美しく持ったり、楽しい会話に心がけたり、食べるスピードも皆に合わすわけです。これらが出来る人は、ホスピタリティー精神に富み、人生を共に過ごす伴侶としても相応しいわけです。
食事を楽しく摂ることは欧米人がとても大切にするところですが、日本人も負けてはいません。
江戸時代に活躍した貝原益軒は、「怒りの後、早く食すべからず。食後、怒るべからず。憂いて食すべからず。食して憂うべからず」と、食事は楽しく取る事の大切さを「養生訓」の一節で述べています。
私は、かれこれ40年位テーブルマナーに関わっていますが、気持ち良く、楽しく食事が出来る人は、最高に素晴らしい人だと感じます。
また、いくら多忙でも、食事を丁寧にとれる人は信用できると思います。