マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
ホテルに入社して、最初に配属された部署がフレンチレストランでした。
そこでは、いつお客様に呼ばれても、速やかに答えられるように、店内がよく把握できる場所で、姿勢を正して立っていました。
この姿に、安心されるお客様もいれば、違和感のお客様もいます。
また、日本人のお客様もいれば、外国人のお客様もいるので、立っているだけでも、お客様の捉え方が色々異なりますので、かなり神経を使います。
特に欧米諸国と日本では、良い・悪いは別として、足や腕を組む仕草の意味に、違いが有ります。
立場が違っても、常に相手に対し敬意を払って接するのが日本人です。
従って日本では、今も昔も「足を組む」仕草は、相手に好感を持たれません。
特に洋服が一般的になるまでは、着物姿の日本人には、足を組むことは、着物の前がはだけて不向きでした。
医学的にも、足を組んでいると、姿勢が崩れるのでよくないようです。
そしてなによりも、日本では、横柄、偉そう、生意気な雰囲気が漂います。
しかし欧米では、感じ方が異なるようです。
記憶に新しい人も多いと思いますが、テレビで拝見したアメリカのライス元国務長官は、各国の重鎮との会談の時でも、常に足を組んでいましたね。
スタイルも頭も良い人でしたから、それが様になっていましたが、元々欧米の女性は、足を魅力的に見せるため、足を組む人が多いようですね。
この動作は、リラックスしている事を意味するそうですが、日本では、年長者・目上の人・親・教師などに対しては、敬意を表することは多々ありますが、リラックスすることはありません。
また、「腕組」もそうです。日本では、やはり偉そうに見られますが、欧米でも、自分を大きく見せる意味が有るようです。
そして、相手に同調したくない時にも腕を組む傾向が有ります。
但し、自分も相手も、互いに腕を組んでいる時にはこの限りではありません。
普段の何げない会話や会議の時、腕を組んでいると、「私はあなたの事を受け入れません」というような仕草にもなりかねません。
セミナーや講演会等で、腕を組んだ状態で聞いている人を見かけますが、やりづらい面が有ります。
ちなみに、江戸時代の商人にとっては、腕組は店の衰退の兆しだとされていました。
腕組は無意識のうちに「守りの姿勢」に入ることだから、これではお客様も気分良く来店できません。
お客様を喜んでお迎えしたい時には、腕を組むのではなく、腕を大きく広げて、笑顔で歓迎の意を発信したいですね。
欧米諸国はさて置き、日本では、誰から見ても、弱者であると思われる人に対し、腕を組んだり、足を組むことは、感心する振る舞いではありません。
弱い立場にいる人にこそ、いたわりの気持ちや、思いやりの気持ちで、むしろ姿勢を正して、へりくだる事をお勧めします。
加えて、テレビでお詫び会見などを見ていると、腕を後ろに回してお辞儀をされている人がいますが、これも感心しません。
両脇にきちんとつけて、背筋を伸ばしてお辞儀をされる事をお勧めします。
また、足を組んで食事をしている若い女性をよく見かけます。
社員食堂であれ、カジュアルレストランであれ、高級レストランであれ、食事の際は、姿勢を正して下さい。
チョッとした立ち居振る舞いや身のこなしを「所作」と言いますが、所作には、その人の考え方や、感情や、生活の在り方までが無意識に出ます。
常に、美しい所作を心掛けて下さい。
自身にとっても、周囲の人にとっても、「心地良い」と思わせる事が、美しい所作のポイントです。