マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
日本は世界屈指の四季の美しい国ですが、春夏秋冬の四季の他にも、「気」という二十四の季節と、「候」という七十二の季節が有ります。
旧暦の生活を営んでいた先人は、自然と仲良く暮らし、季節の移ろいを敏感に感じとっていたのですね。
だから、吹く風や、降る雨や雪、さらに四季折々の自然の佇まいまでにも大変美しい名前を付けています。
丁度今頃の季節でしょうか?
一雨ごとに、春の山の草木が一斉に芽吹いて、山全体がとても優しい表情になり、まるで微笑んでいるように見えますが、この状態を「山笑う頃」と表現し、春の季語になっています。
実に美しい言葉で、先人の豊かな感性に脱帽します。
英語では「Mountain Smiles」になるのでしょうか?とてもアルファベットでは表現できない、奥の深い言葉だと感じます。
《故郷や どちらを見ても 山笑う》
夏目漱石と共に、近代文学の巨人と言われた正岡子規が25歳の時に詠んだ句です。
この山は、何も高くそびえた山ばかりではなく、日常生活圏にある小さな林や山、つまり里山まですべて含むわけですが、枯れた山に、いつの間にか芽吹きが始まり、緑が濃くなってきます。
やがて、山が微笑みのこぼれるような優しく明るい姿になり、人々は思わず心が浮き浮きと弾んでくるわけですね。
ところで、笑顔の効能は、たとえ作り笑顔でも、精神的にも肉体的にもそれなりの効果が有ると言われていますが、マナーの世界でも、笑顔は最高の思いやりの表現です。
だから日本では、「笑い」に関することわざが非常に沢山あります。
私の大好きな言葉は「笑う門には福来る」です。
常に笑顔の絶えない家庭には、自然に幸せがやってくると言う意味です。
そして、「一笑一若」です。
一度笑うと一つ若返ると言う意味ですね。
小じわを心配する必要はありません。
むしろ、笑う方が美容にもいいそうですよ。
さらに、良好な人間関係を築くには、「こちらが笑えば向こうも笑う」という諺が大変参考になります。
人間関係は、こちらの出方次第だと言うことです。
要するに、こちらが優しく明るく振舞えば、向こうもそれに答えてくれるが、こちらが無愛想にすると、向こうもそうすると言う意味です。
今、山が一年で一番優しく微笑んでくれている時期です。
そんな時こそ、最高の笑顔で過ごしたいものですね。
正岡子規は「雲の上」ですっかり有名になりましたが、若くしてこの世を去りました。
しかし、短命でありながら、野球、短歌、俳句、小説等多くのものを楽しみ、大変心豊かに生きた偉人です。
何かと慌ただしくて、せわしい日常ではありますが、たまには足を止め、道端の草木に目をやり、生命のみなぎっているのを感じてみるのもお勧めです。
心が晴れ晴れしてきますよ。