マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
植物は大変季節の移ろいに敏感ですが、虫や爬虫類なども同じです。
草木が芽吹くと共に、暗い土の中にこもっていた虫や爬虫類たちは一斉に地上に這い出してきます。
今日は二十四節季の一つ「啓蟄(けいちつ)」です。
人も虫も爬虫類も、陽気に誘われて、「さあこれから頑張るぞ!」と言って背伸びする時です。
これからは色々とお出かけが増え、人に接する機会が多くなることでしょう。
そこで、今回は江戸しぐさの一つ、「足組しぐさ」のご紹介です。
日本では、相手と向かい合って話をする時に、敬意を払っているか否かは足元に出ます。
欧米人は、所かまわず、女性も男性も足を組んでいる姿を良く見かけますが、これは日本人には違和感を与えます。
相手に対して敬意を伝えるには、やはり足元は、キチンと揃えられる事をお勧めします。
首から上は比較的注意が行き届きますが、足元は、ともすれば油断しがちです。
くれぐれもご注意ください。
加えて、靴のお手入れも怠らないようにして下さいね。
昔から「足元を見る」と言う言葉が有ります。
この由来は江戸時代ですが、色々な説が有ります。
江戸時代には、今のように交通手段が発達していなかったので、旅も徒歩が主で、たまに駕籠を利用したようです。
そして、長旅だと旅館に泊まるのは今と同じですが、当時の宿泊代金は明確ではなく、宿の主人は、旅人(客人)の足元を見て料金を決めたそうです。
つまり、旅人の足元が乱れていれば、高めの宿泊代金を請求し、足元が整っていれば安めに設定するという具合です。
また、街道で商売する駕籠かきも、旅人の足元を見て、料金を決めていたと言う説もあります。
旅人の足元を注意深く見てだらしなかったら、高めの料金を請求し、整っていたら少し安めにする等の調整をしていたようですね。
加えて、金貸しも、借りての足元を見て、足元が綺麗だったら信用し、汚れていたら貸し渋ったと言う説もあるようです。
だから、「足元を見る」と言うことは、人の弱みに付け込むという意味です。
電車やオフィスで、つい足を組む癖が有る人が多いと思いますが、なるべく姿勢を正し、キチンと揃えられるようお勧めします。
欧米人はよく足を組みますが、これはリラックスするためと、自分の足をより魅力的に見せるためだそうですが、日本では少し異なります。
日本の礼儀作法は儒教の影響を多少なりとも受けていますが、その精神は、目上の人や改まった場ではリラックスしません。
従って、目上の人や年上の人の前で足を組むことは失礼です。
食事も、基本的には感謝の気持ちを添えて食すべきで、足を組んで食べることは感心しません。
日本では足元に、その人の人格が出るといわれております。
足元を見て、その人となりを見るのは、先人の生活の知恵であり、良好な人間関係を築く知恵でもあると思います。
ちなみに、「腕を組むしぐさ」は守りの姿勢だと言われますが、威圧的で偉そうなポーズにも見え、決して相手に好感を与えません。
足を組むのと同じ位注意したいものです。