マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
日本には世界に誇る贈答文化が存在しますが、それは神様と非常に密接な関係が有ります。
もともと、神様にお願い事をする際に、酒や魚介類や野菜等をお供えして、神事を執り行い、それが終われば、その供物を下げ、神事に参加した者に分け与えたわけです。
神事に参加する者は、村や地域や家族の代表者ですから、彼らはその分け与えられた供物を、村や地域や家に持ち帰り、皆に分け与えます。
これが日本の贈答の起源だと言われておりますが、神様にお供えするものが、主として、酒や魚介類や野菜になっていたので、その名残のせいでしょうか、今でも手土産は圧倒的に食べ物が多いようです。
ところで、来客をもてなす時に、客人が持参したお菓子等、すなわち「おもたせ」を、その場で出すか否かで、迷うケースも多々あると思います。
ちなみに「おもたせ」とは、客人が持参した手土産の尊敬語です。
「おもたせ」に関しては、「こうしなければいけない」という決まりはなく、あくまで臨機応変に対応したらいいと思いますが、一応の目安をお話しいたします。
客人を迎えるに当たっては、迎える側はそれなりの茶菓を用意しているので、あえて、客人が持参した菓子を頂く必要はないと思いますが、客人が、自分の持参した菓子を一緒に食べて、楽しい時間を共有したいと希望しているようでしたら、その菓子を、「お持たせで失礼ですが・・・。」等と言って出したらいいでしょう。
但し、改まった要件での来客には、こちらで用意した菓子が妥当だと考えます。
さらに、家庭で頂いた場合には、家族揃った時に、皆で仲良く召し上がられる事をお勧めします。
客人には、頂いたお礼を述べると共に、「折角の美味しそうなお土産ですので、今夜家族が揃った時に頂きます」、あるいは「○○様がお越し下さるのを楽しみにお待ちしていましたので、お菓子を用意いたしておりますから、このお土産は今夜家族で頂きます」等と伝えられたらいいでしょう。
また、家族で頂かれる時には、客人がどんなひとなのか、家族に是非紹介してあげて下さいね。
職場でも同様です。
「美味しそうなお土産ですから、休憩時間にスタッフ全員で有り難く頂きます」等と伝えられたら、喜んでいただけるのではないでしょうか。
そしてスタッフには、手土産を持参した客人を紹介して下さい。
手土産を持参した客人の情報が、スタッフ全員で共有できていたら、何かの機会でお礼を言うことができます。
客人と職場のコミュニケーションを図る上でも、職場の良好なチームワークを築く上でも、とても大切なことです。
加えて、今ではあまり見かけなくなりましたが、単なる手土産ではなく、改まった贈り物の場合には、進物盆に載せて「ふくさ」を掛け、風呂敷に包んで持参します。
客人は風呂敷から取り出して渡しますが、頂いた方は、丁寧にお礼を述べて、一旦別室に置きます。
そして、別室で品物を取り出し、元の部屋に帰って、「ふくさ」と「盆」を客人にかえすわけですが、このときに「懐紙」等をお礼のしるしに載せます。
これを「おうつり」と言います。
お隣さんから、皿に盛られた状態で手作りケーキなどを頂いたら、後で皿を返しますが、この際、チョッとした菓子等と共に返しますね。
今風の「おうつり」とは、このようなケースが多いようです。
「おもたせ」と「おうつり」、共に今後とも仲良い交流を図るために、長年続いている日本の美しい「しきたり」です。