マナーうんちく話535≪五風十雨≫
季節感が乏しい都会暮らしの人にとっては、あまり縁が無いと思いますが、今年も田植えの季節になりました。
日本では、早いところでは4月下旬に始まり、遅いところでは6月中旬にかけて行われますが、岡山地方は大体6月上旬頃です。
ところで「芒種(ぼうしゅ)」という言葉をご存知でしょうか?
農業に無縁の人には、ピーンと来ないかもしれませんが、二十四節季の一つで、今年は6月5日(火)です。
米や麦の穂先についている針のような毛を「芒(のぎ)」といいますが、芒種とは、芒のある穀物を刈り取ることと、植え付けることを意味します。
すなわち、《マナーうんちく話244》でお話したように、秋に種を蒔き、二十四節季の一つ「小満」の頃に実を付け、5月の終わり頃に黄金色に色づいた麦を刈り取り、それから米の苗を植え付ける頃という意味です。
今年も、クールビズと共にやって来た田植えシーズンですが、クールビズのように大きな話題にならないのが寂しいですね。
もともと日本は、世界的に四季の美しい国であり、しかも四方を海で囲まれているので、昔から「稲作」を中心に栄えてきた国です。
つまり日本人は、人と人との和を育むとともに、自然との調和を保つのが上手だったのでしょうね。
稲作の生産性を挙げるには、水の供給を効率的に高めることが必要です。
だからみんな協力し合い、知恵を出し合いました。
何よりも「和」を保ち、仲良く取り組むことが不可欠です。
日本の「しきたり」はまさにここから生まれたわけです。
さらに、自然とも仲良く付き合い、自然から知恵を授かり、自然と共生することを学び、自然の恵みをコンスタントに収穫できる環境を整えてきたのだと思います。
加えて、自然の中に神の存在を認め、お祭りに見受けられるように、神様に感謝するとともに、地域が発展する仕組みを作ってきました。
そして田んぼから収穫した米は、やがて日本人の主食の地位を保ち、日本人の食生活には切っても切れない関係を築いてきたのは承知の通りです。
もともと米は他の作物と違って、その生産性が極めて高く、栄養価や保存性にも優れ、しかも美味しくて申し分ない食べ物ですが、連作が可能なのが大きなメリットです。
また米の副産物である「わら」は、「ござ」や「畳」、さらに「屋根拭き」にもなるし、年神様の里帰りの行事である正月には欠かせません。
日本酒とも切っても切れない関係にあります。
このように、時代の経過と共に、食料としてだけではなく、大きな経済的価値を持つようになり、国の規模を図るようになってきた。
「○○万石の城下町」と表現されるようになったり、税金の代わりに年貢米を納めたり、香典の代わりに米を持参したのがいい例です。
しかし、今のように何もかも機械化された時代とは異なり、稲作は大変な労力を要したわけですね。米の字を分解したら「八十八」になりますが、米作りには88の手間暇を要したと言われます。
だから日本人なら誰でもコメを大変大切に扱い、「勿体ない精神」を根付かせたわけです。今でも和食のお膳には、ご飯は必ず左に置かれますが、これは「左上位の原則」によるものです。
国の農業政策が変わったり、専業農家が減少したり、農業に携わる人が高齢化したり、米の需要が減少したり等など、米を取り巻く環境は厳しいモノが有りますが、米は日本人にとってかけがいのない食料であることは確かです。
芒種の頃、もう一度、そのありがたさをかみしめたいものです。
米の穂を改めて、よく観察されることをお勧めします。