マナーうんちく話935《おめでたい時には、なぜ鯛の「オカシラツキ」なの?》
最近は昔と違って男女とも高等教育を受ける人が増加したので、社会に巣立つ人の年齢もかなり高くなりましたが、昔は10代前半から仕事に就く人が多かったようです。
平均寿命も短く、女性も男性も早婚だったので、当然と言えば当然なのですが・・・。
その働き方は今と異なり、一定の年齢に差し掛かると、職人や商売人の家に住み込みで働くことが前提の、いわゆる「丁稚奉公(でっちぼうこう)」が主です。昔は貧しい家が多く、子どもも沢山いたので、家の事情で早くから住み込みで働く人も珍しくなかったようです。
前回「児童労働」のお話をしましたが、日本とて、これと無縁ではなかったわけですね。
住み込みで働く利点は、衣食住は全て雇い主(親方)から面倒見てもらえますが、その代わり決まった給料は殆どありません。
一日長時間に渡り一生懸命働き、現場での実践を通じ、腕を磨き礼節を身につけ、やがて一人前になると「暖簾分け(のれんわけ)」してもらい、一人前になるケースが多かったようです。
若い時からそれなりの苦労や努力を経験し、社会性やスキルや知識も身につけて一人前になるわけですから、理想的といえば理想的だと思います。
昔は、このようにして一人前になるまでは故郷には帰れないので、「就職祝い」をしてもらうどころか、「故郷に錦を飾る」のような不退転の意気込みで仕事をしたわけです。
結婚する時の心構えもしかりです。
そして、自分が一人前になったら、今度は親方として新たな丁稚奉公人を受け、その人を一人前に育てて行く、というような実にすばらしい循環が有ったようです。
ちなみに、この丁稚奉公は江戸時代から戦後間もない頃まで約200年間続いています。
明治時代になると日本の教育はさらに充実し尋常小学校への入学率はほぼ100パーセントになりました。その背景には、「働くに当たり、しっかりした教養や知識を修得しなければ!」いう考えが高まっていたのだと思います。
これが今の日本の繁栄の基になったのではないでしょうか。
今でも、丁稚奉公から身を起こし、日本を代表する経営者や指導者になられた方は大変多く存在します。このような方の言葉には、何とも言えない重みが感じられます。
ところで、最近では若者の就職が難しくなり「就活」といわれる言葉が生まれ、苦労している学生が多いのが現実です。それだけに就職が決まった時の喜びはひとしおでしょうね。私も以前、岡山県教育委員会の「キャリア教育支援員」として、高校生の就職指導に係わっただけに他人事ではありません。
就職祝いとしての贈り物は、できれば本人の希望を聴いてあげるのがお勧めです。
もし自分で選びたいのであれば、社会人としてこれから必要な腕時計とか名刺入とか鞄等もお勧めです。勿論本人の好みのデザインも有りますが、「大切な人からの心の込もった贈り物」となれば、喜んで使用してくれると思います。また「商品券」等もお勧めです。
また、贈るタイミングは、卒業後から就職前です。
お金を贈る場合は、赤白の蝶結びの水引に熨斗つきで、表書きは「祝御就職」「御祝」「御就職御祝」等がいいでしょう。
家族揃ってレストランなどに行くのも良いですね。
喜びの食卓は笑顔が良くお似合いです。堅苦しい雰囲気にならないように注意しながら、親として社会人の心構えをしっかり教えて下さい。
最後に、新入社員・職員を迎える側ですが、「良好な人間関係」を築いてあげて下さい。
率先して、挨拶するとか言葉をかけるとか、笑顔で優しく接するとかが何より大切です。
「入社(入所)おめでとう!」の言葉も、もったいぶらずに、どんどん発して下さい。
そもそも、「おめでとう」の意味は、「新しい命の誕生と息吹」を表現する祝いの言葉で、漢字で書くと「お芽出度う」です。
この言葉は、言われた方も、発する方も、周囲で聴く人にも好感を与える言葉ですから、何度発しても良いのです。
就職祝いは、品物ばかりが贈り物ではありません。
「入社おめでとう!」の「言葉の贈り物」もまた格別です。
すでに何度も言いましたが、この言葉を発する時には、「相手の目を見て」「笑顔で」がポイントです。ぜひ実行して下さい。
今、若者の「離職率」が大変増え大きな社会問題になっています。大半は当事者の人間関係構築能力の低さに有ります。また昔の人みたいに不退転の決意も持ち合わせておりません。さらに、現代社会特有の職場での人間関係の希薄化があります。
従って、迎え入れる先輩の在り方はとても大切です。どうか、率先していろいろと働きかけて下さい。これが何よりの就職祝いだと思います。