マナーうんちく話90≪懐紙の優雅な使い方≫
マナーうんちく話83《食前感謝と食後感謝》
食事のマナー8、『頂きます』と『ご馳走様』の意味と意義
私たちは、食事をする時に、「頂きます」と声を発しますが、この頂きますとは、一体全体、何を頂くのでしょうか?
以前、このコラムで、日本には「もったいない」という、世界に誇る精神文化が存在し、その素晴らしい文化は、日本人が世界に向けて発信したのではなく、ノーベル平和賞を受賞した、ケニアの環境副大臣マータイ博士により広められたと述べました。
「いただきます」の言葉もそれに近いような気がします。
前回、「ミシュランガイド」が、日本は世界屈指の美食の国だと認めてくれ、その要因は、「和食の幅広い専門性」にあると申しましたが、それに加えて、日本人が、「食前と食後に発する感謝の言葉」も評価されたようです。
「勿体ない」にせよ、「頂きます」「ご馳走様」という言葉にせよ、英語にもフランス語にもドイツ語にも存在しない、日本独特の言葉です。
人間は、自分の命を長らえるために、魚・鶏、牛、豚、羊、卵、野菜等などを食します。すなわち、「人間の命を長らえるために、魚や動物や野菜の命を頂くわけ」ですね。従ってこの「頂きます」という意味には、魚や動物や野菜に対し、「申し訳ないです」という意味と共に、「感謝」の意味が込められています。だから食事をする時には、出されたものを、美味しく、食べ残すことなく、キレイに、姿勢を正して、食べる必要があるわけです。
次に、「ご馳走様」の意味についてです。
「ご」と「様」は敬語ですが、「馳走」という意味は、「走り回る」という意味があります。昔は、兎や鹿や猪等を、走り回って捉えて、それを食していました。だからこの意味には、「働いて食べさせてくれてありがとう」「料理作って食べさせてくれてありがとう」という意味があります。
纏めです。
頂きます⇒「食材に感謝する言葉」です。
ご馳走様⇒「料理を作ってくれた人に感謝する言葉」です。
他の国の言葉では言い表せない、とても素晴らしい言葉で、大人が子供に是非教えたいものです。小学生に英語を教えるのも、大切なことなのでしょうが、その前に、先ずこのような言葉の意味や、箸の持ち方を、きちんと教えるべきだと、私はいつも思います。
「勿体ない」「頂きます」「ご馳走様」にせよ、日本人が育んできた素晴らしい精神文化が、日本人ではなく、それ以外の国で認められたことは、嬉しいことですが、少し歯がゆい気持ちがします。折角のこのような文化を、もっともっと、世界に向けて、積極的に発信すべきではないでしょうか?
福島第一原発の事故で、多くの魚や酪農製品や野菜が出荷停止になっています。
風評被害も相変わらずのようです。
多くの、魚や動物や野菜にも命が宿っています。漁師、酪農家、農家の皆さんは、さぞかし、やるせない思いだと感じます。
魚も酪農製品も野菜も、「頂きます」、「ご馳走様」、「漁師さん、酪農家さん、お百姓さん、ありがとう」、の言葉が何ら発せられないまま処分されます。誠に痛ましいことです。
昔の人にとっては、まさに想定外ですね。
余談事ですが、最近何かと「エコ」とか、「環境に優しい」という言葉が好まれますが、私は、これはおかしいと思います。日本はもともと、自然との調和を重んじてきました。ここが西洋諸国とは異なります。だから「頂きます」「ご馳走様」という言葉が存在するのだと思います。
「人間が環境に優しい」のではなく、「人間が環境に、優しくしていただいている」と、私は思います。
「エコ」「環境に優しい」等という言葉と、「勿体ない」「頂きます」「ご馳走様」ということばは、本来の意味が大きく異なると思っています。
今回の原発事故は、食に対しても、大きな問題提議を投げかけたようです。
「いただきます」「ご馳走様」の言葉を、心を込めて発することにより、単に栄養を補給するばかりではなく、「今、目の前に存在する、一つ一つの食事には、そこに行きつくまでに、実に多くの尊い犠牲と恵みがある」ということを、再認識することができます。
そのことにより、人として、「本来あるべき姿」が見えてくるのではないでしょうか?