マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
マナーうんちく話71《八十八夜とお茶のマナー》
四季の美しい国日本では、このコラムで毎回取り上げている、移りゆく季節を正しく示すために作られた「二十四節季」の他に、古くから生活の中に溶け込んでいる年中行事や農作業に照らし合わせて作られた「雑節」が存在します。
5月2日は、雑節の一つである「八十八夜」です。
ところで、日本人なら老若男女誰にもなじみの深い、「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る・・・」という文部省唱歌があります。
皆さんもよくご存知だと思います。
では、この曲の曲名をご存知でしょうか?
風薫る5月の始めは、「八十八夜」と「お茶」についてのお話です。
八十八夜は、立春から数えて八十八日目に当たり、春から夏に移行する節目です。
そして、八十八夜が過ぎれば間もなく「立夏」で、霜が降りるのも、この頃までとされております。このことを「八十八夜の別れ霜」といいます。
従って、私なんかもそうですが、八十八夜を過ぎてから茄子、ピーマン、トマト、カボチャなどの苗を移植するのがいいようです。
しかし、たまに八十八夜を過ぎても、霜が降りて野菜が被害に遭い、泣きを見ることがあります。私も何度か経験しました。これを「八十八夜の泣き霜」と呼んでおります。
さらに、もう大丈夫だろうと思っていても、ごく稀に5月中旬の頃にも霜が降り、泣いても泣ききれない大事になる時があります。「九十九夜の泣き霜」です。
どうやら、雑節は「節分」「彼岸」「入梅」「土用」「二百十日」などもそうですが、いずれも農業に従事する人に、注意を促すために作られたような気がします。
そして日本には、「この日に摘んだお茶を飲んだら長生きする」という言い伝えがあり、お茶の産地では、赤いたすきに絣(かすり)姿の娘さん(?)たちが茶摘みをするイベントは、すっかり「初夏の風物詩」になっています。
余談事ですが、江戸時代には、「初モノ」を食べれば75日長生きするといわれており、初モノは大変重宝されていたようです。中でも「初鰹」は「勝男」と当て時を書くので、特に人気が高かったようです。しかし初鰹は非常に高値だったので、そう簡単には口に入らないので、「女房を質に入れても食いたい初鰹」という川柳があるほどです。
ところで、不老長寿の縁起物として重宝された新茶ですが、この他にも多くの効能があります。カテキン、カフェイン、アミノ酸、ミネラルなどの成分が含まれ、何かと健康にもいいのは御承知の通りです。
またお茶の歴史は古く、中国の唐に渡った最澄、空海が日本に持ち帰ったとされております。ただ当時は薬として一部の特権階級の人達が飲んでいたようです。
そして、安土桃山時代に入ると、信長、秀吉、利休等が登場し、お茶を広く広めます。
その後、江戸時代には一般庶民もお茶を楽しむようになり、それに伴いお茶の生産も盛んにおこなわれるようになってきました。
ところで世界中には、飲み方や種類は多々ありますが、お茶を飲まない民族はないそうです。お茶の文化も実に多種多様です。
そしてそれらのいずれもが、陶器・磁気・漆器文化、更に礼儀・作法が加味され、「もてなしの文化」へと発展したようです。
茶を通じて発信される、伴侶・家族・友人・知人等との交流。
「茶を共に楽しむ相手」がいることは、それだけで幸せを感じられます。
日本の茶の文化も、アメリカのコーヒー文化も、イギリスの紅茶文化も、世界中で飲まれている全てのお茶には、単に喉を潤すだけの飲み物ではなく、共通のもてなしの文化がありますね。
他家を訪問して、美味しいお茶をご馳走になると、そこの奥さんやご主人の人柄を察することができます。
他社を訪ねて、美味しいお茶を、笑顔でだされると、その会社の経営理念が解ります。
家庭にせよ、会社にせよ、毎日のお茶に常に気配りをしているところは安心感が漂います。
八十八夜を機に、「人と人との絆づくり」のために、改めてお茶の意義を考えてみたいものです。
折しも、愛らしいスズランの季節でもあります。
スズランは「思いやりの心」を育てる花だといわれております。
可憐なスズランと共に、大切な人との美味しいお茶タイムもお勧めです。
最後になりましたが、「夏も近づく八十八夜・・・」の歌の曲名は「茶摘み」でした。