憲法記念日

井上博文

井上博文

テーマ:雑感

憲法記念日です。
前回のコラムについて、いろいろな人からいろいろ質問を受けましたが、この国の低学歴化は、やはり深刻な問題で、私の願いを書きました。
憲法は、戦争に負けた日本人が願いを書いたものだと私は理解しています(素晴らしいなどとは思っていません)。だからある部分で「現実離れ」したところもあります。しかし、どこの憲法もそこは似たようなもので、権力者の暴走が、人間の普通に生活したいという願いを壊すのは、いつの世も同じですから、それに辟易した人々が、人権や平和という美辞的言葉を織り込みながら願いを書いたのだと思っています。それでも現実にプーチンは発生し、ウクライナの人の願いなど、ないかのごとく踏みにじっています。知る術もありませんが、ロシアの人が何を願っているのかは、全くわかりません。ロシアやプーチンを許すとか許さないとかの議論は、結局誰にもできないのです。許せないとして、何ができるのか?と問われて、数学の正解のような解答を出せる人などこの世にいません。仮にプーチンが何らかの形でいなくなったら、それで万事めでたしと思うほどおめでたい頭の持ち主は少ないでしょう。イラクでフセインを怖がっていた連中が、フセインなきあと、どれほど暴走したかは記憶に新しいはずです。プーチンなきあとのロシアの現実を描ききる人などいません。
人々の願いが文言になると、果たしてそれが現実離れしているかどうかは、一考の余地があります。仏教には本願という言葉があり、本願寺があります。文字通り願いですが、阿弥陀仏の願いです。阿弥陀仏の前の生涯で、法蔵菩薩は願いを立てて修行します。四十八願と言います。それらがかなわないなら、私は阿弥陀仏にならないと誓ったそうです。有名なのは十八願で、大雑把に言えば、どの人も自分の国土(浄土)に救おうという願いです。結果から言えば、阿弥陀仏になっているわけですから、その四十八願はかなっている。したがって、どの人も救われることは決定しているという理屈です。この理屈を無条件で信じ抜くことを親鸞は、現実生活の中で実践し続けました。そして、鎌倉時代というケンカのチャンピオンが総理大臣になるという漫画みたいな時代を90歳まで生き抜いたのです。願いがかなっているなどという理屈は、「現実離れしている」という人もいると思います。しかし、一方で、二千年ほど前にインドで生まれた『無量寿経』という経典が典拠になっているのですが、今よりもはるかに洗練されていない、古代インド、しかも文化混交地域のガンダーラ近辺で、この経典は生まれたと考えられていますが、ガンダーラは、とにかく争いの多い地域です。血で血を洗うという表現がぴったりの地域です。クリミア半島とも似ています。そんな場所で、「どの人も救われることが最初から決定している」と説く経典が生まれたことを、「現実離れ」という言葉で一蹴するのは、無知のなせる技でしょう。
血で血を洗うアホの権力者がそこにいるという現実はどうしようもありませんが、そこに平和や安定や普通の生活を願う人がいる(いた)という現実も同じだけあり、彼らの願いが、そんな経典を生み出したことも間違いありません。

プーチンのような漫画にしか出てこないような、非現実的な現実もあれば、同じ場所、同じ時代に、一見現実離れしたと言われる人々の願いが存在することも現実なのです。千羽鶴を無駄と一蹴しようとするアホもいますが、金以外の現実を見る目を持つ能力のなさと、そこに込められた願いに目を向けられない想像力のなさを恥じるべきでしょう。

プーチンの存在と阿弥陀仏の願いは、どちらも非現実的に見えたとしても、どちらも現実に根ざしているのです。



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