ブレない自分をつくる
前回は論文を読むということに焦点を当てましたが、今回は、本全般を読むコツです。最近、村上春樹氏の最新の小説を読みました。私は通常は小説は読まないのですが、『騎士団長殺し』はどことなく題名に惹かれるところもあり、つい手にとってしまい、つい開いてしまい、つい、読みふけってしまうという類でした。故あって、最近、病院に行くことが多く、また電車で仕事に行くことも多かったせいもあります。さすがに文芸です。読者(私)の手を、本を閉じるようには動かさないのです。ものすごく感情が揺さぶられるわけでもなく、ハラハラドキドキでもなく、たまに「イデア」が活躍するくらいが、ファンタジーですが、でも、目を切ることができないのです。その技術に感動するような、コントロールされているような、不思議な感覚になります。これは村上氏の小説全般に言えることだと思います。失礼ながら、パターン(プロットと言え、と言われそうですが)がある程度決まっていますので、似たような話は多く、たまにあだち充氏の漫画群を思わされることもあるのですが、毎回、一気に読ませてくれ、それでいて感想が言いにくい・・・とにかく読んで見てくれ、と感想を聞いてきた人に言ってしまいます。これも村上氏の戦略でしょうか。とは言え、作者の戦略に予定調和として乗っかると、ある種気持ちよく読めます。
読書をすることについて、人によって様々な見解があろうかと思います。例えば、小説が好きな人もいれば、エッセイやノンフィクションなどが好きな人もいると思います。文書には様々なジャンルがあり、すべてを網羅するのはちょっと難しいので、自分の好きなジャンルをある程度設定しておいた方が良いと思います。その方が情報が身体に入って来やすくなります。ジャンル選定は読書をするにあたって非常に大切なことです。それをすることによって、自分の傾向もわかってきますし、たくさん情報が入って来ることによって、自分の分野が確定してくるようになります。一度自分の分野が確定してくると、そこから徐々に幅が広がったり、また新しい分野が確定したりして、つながりができたりもします。そうなると、自分に不必要だと感じる情報が減ってくるのが感じられます。
ジャンルが認識できたとして、いざ,本を手に取って、文章を読んで情報を摂取するには(しかも早く正確に)、作者が作った文章構造、とりわけプロットを読み取ることが必要です。小説には小説の枠組みがあります。小説は基本的には作者独自の世界観(アナザーワールド)の設定をイメージして読むと理解しやすいと思います。作家の中には自分の世界観を文章化する前にジオラマで作ってみる人もいます。そういった綿密に世界観を組み立てた上でストーリーを構成します。だから小説が映画化されると、それを見た人は自分のイメージと映画の映像と照らし合わせてみて、一致したり、しなかったりするところに楽しさを見出だすこともできます。また文章を読んでいた時には気づかなかったような細かい仕掛けにきづくと、尚面白いと思えます。
一方、前回触れた論文など論理的な文章を読む時にも、構成を考える必要があります。書く側の立場になってみるとどういう論理構成が最も説得力があるかを考えて書きます。簡単に言えば、パーツ取り付けの順番と考えてもらえれば良いと思います。多くの書き手は自分の問題を早い位置に持ってきます。その回答については先に持ってくる人と後に持ってくる人と両方います。問題は証拠や情報ですが、この出し方が難しく、書き手も苦労するところです。ですから読み手もこの根拠の部分を正確に読み取り、その証拠で書き手が何を証明しようとしたか、できたか、できなかったかを考えながら読むと、より深い理解ができるようになると思います。
私は良い本の判断基準の一つに目次と索引が充実しているものとしています。その理由としては、本文以外の部分で力が入れられているものは、出版前に他者の目に触れられている可能性が高いからです。そのように手の入っている書籍は本文のチェックも行き届いている可能性が高く、また目次も何度も練り直されており、目次が練られているということは、構成もよく練られているということも意味しており、いいことずくめです。逆から言うと、目次と索引が充実していない本は急いで作ったことがありありと出ている場合が多いのです。やはり、突貫工事で作った本は誤植も多く、文章もこなれていない場合が多く見受けられます。
目次と索引をよく見ることで、本全体の構成や、どんな順序でストーリーが展開するのか、どんな手順で証明がなされるのかもよくわかります。学術書など、内容に無駄がなく、深いものは、読むのに時間がかかるのは自明です。より正確に内容を理解するには、流し読みでは難しく、メモを取りながら、読むのが妥当です。取ったメモはパソコンなどに保存しておくと便利です。最近はタブレットにメモができるのが便利です。私たちが大学生のころはパソコンは今ほど普及はしておらず、カードに情報を保存するのがオーソドックスでした。今はなんでもパソコンですが、後からメモを見る時に便利です。大事なのはメモの取り方です。メモを取るポイントは、論文の場合、まず著者の持っている疑問です。著者がどのような経緯でどのような疑問を持ったかを正確に抜き出せるようになると、その周辺の重要事項も見えてくるようになるのです。
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