自分でやった方が早い」が口癖だった経営者が、3ヶ月で別人になった話

小橋広市

小橋広市

テーマ:ビジネスに応用する脳科学

「もう限界です」
そう肩を落として相談に来られたのは、社員10名ほどの建築関連会社を経営するAさん(50代)でした。仕事の依頼は順調に増えているのに、自分が現場から離れられない。気がつけば夜中までメール対応、休日も資料作成。家族との会話も減り、些細なことで部下を怒鳴ってしまう自分が嫌でたまらない、と打ち明けてくれました。

私はAさんに、ひとつだけ質問しました。
「部下に任せられないのは、申し訳ないからですか? それとも、悔しいからですか?」
少し沈黙のあと、Aさんは「悔しい、ですね」と答えました。
「自分が抜けると質が落ちる気がして。任せた瞬間に、自分の力不足を認めるようで悔しいんです」
ストレスと本
抱え込んでしまう人の心理は、私のコーチングの現場では大きく二つに分かれます。「自分が逃げているようで申し訳ない」という罪悪感型と、「能力不足を認めるようで悔しい」という自尊心型。介護や家庭の問題を抱える方は前者に、仕事で行き詰まる経営者やリーダーは後者に偏る傾向があります。Aさんは典型的な後者でした。

この違いに気づいてから、私はまず相手がどちらに傾いているかを丁寧に聞き分けるようになりました。なぜなら、効く言葉が真逆になるからです。罪悪感型の方に「任せるのは戦力を増やすことです」と伝えても響きません。「任せることは相手への信頼です」と言わなければ、肩の力は抜けないのです。

Aさんに私がお願いしたのは、たった一つ。「任せる=悔しい」を「任せる=戦力を増やす」に書き換え、紙に書いてデスクに貼ること。それだけでした。

最初の2週間、Aさんは何度も口にしながら、見積もり作成や顧客対応を部下に振っていきました。出来上がりは確かに自分の8割程度。けれどAさんは、ある日ふと気づいたそうです。「8割を3人分回せるなら、合計2.4人分の仕事が回る。自分一人で完璧にやるより、組織として動く量は明らかに増える」と。

ここまで来るのに、ひと月もかかりませんでした。
3ヶ月後、Aさんは別の相談で来られました。
「次は新規事業を立ち上げたいんです。今度はどう人に頼ればいいですか」

声のトーンも、表情も、最初に会ったときとは別人のようでした。
抱え込みは、性格の問題ではありません。「頼る」「任せる」という言葉に、自分がどんな意味を貼り付けているか。ただそれだけのことです。意味さえ書き換えれば、人は驚くほど動けるようになります。

もしあなたが今、ひとりで限界を感じているなら、まずノートを開いて、自分が「頼る」「任せる」をどんな言葉で定義しているかを書き出してみてください。そこから、すべては始まります。

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小橋広市(講師)

一般社団法人Self&Lifeコンディショニング協会

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