部下を「決めつける」前に、見えていない事情を「観る」

小橋広市

小橋広市

テーマ:ビジネスに応用する脳科学

頼んでいた仕事が、期限に間に合わなかった。報告もどこか素っ気ない。そんなとき、「やる気がないな」「詰めが甘い」と、つい結論を出してしまう。管理職であれば、誰もが経験のある場面ではないでしょうか。

けれど、その判断はあなたが「見えている部分」だけで下したものかもしれません。
アイデア女性

「決めつけ」は、見えている行動だけで起こる

私たちは、出来事そのものを見ているようでいて、実は自分のフィルターを通して相手を見ています。これまでの経験、思い込み、先入観、固定観念。それらの色眼鏡を通して、「きっとこういう人だ」と相手を判断してしまうのです。

NLPでは、この「自分の地図」を通してしか世界を見られないことを前提に置きます。同じ「報告が遅れた」という事実でも、上司の地図では「怠慢」、部下の地図では「他案件で手一杯だった」と、まるで違う意味になっていることがあります。

問題は、一度「こういう人だ」と決めつけた瞬間、私たちはそれ以上、その人を観察しなくなる
ことです。遅れの裏にあったかもしれない事情――別の急ぎの依頼、伝わりきっていなかった指示、本人にしかわからない負荷――それらは、決めつけた時点で視界から消えてしまいます。見えている結果だけで、その人の全体を評価してしまうのです。

そして厄介なことに、決めつけは態度ににじみます。「どうせこの人は」という前提で接すれば、口調も、任せ方も、自然とそれに引きずられる。すると相手も身構え、本来出せたはずの力を出しにくくなる。決めつけが、決めつけたとおりの結果を呼び込んでしまう――そんな悪循環に、リーダー自身が気づかないまま陥っていることが少なくありません。

「観る」視点を持つリーダーが、信頼を集める

ここで役立つのが、自分の判断から一歩離れて眺める「ディソシエイト」の視点です。「やる気がない」と決めつけそうになった自分に気づき、ひと呼吸おく。そして、「他にどんな見方ができるだろう」と問い直してみる。

たったこれだけで、対応は変わります。叱責の前に、「何かあった?」の一言が出てくる。事実を確認してから、必要な手を打てる。部下の側からすれば、「結果だけで決めつけられた」のではなく、「ちゃんと事情を観てもらえた」という感覚が残ります。

人は、自分を決めつけてくる相手にではなく、自分を観ようとしてくれる相手に心を開きます。短期的には、決めつけて指示を飛ばすほうが速いかもしれません。けれど長い目で見れば、決めつけずに観られるリーダーのもとにこそ、人は安心して本音を持ち寄り、信頼が静かに積み上がっていきます。

部下を動かす技術より、まず一歩離れて「観る」視点を持つこと。それが、長く慕われるリーダーの土台になるのではないでしょうか。

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小橋広市(講師)

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