打合せを重ねたのに、住みにくい家ができる理由

小橋広市

小橋広市

テーマ:住環境習慣コンディショニング

「リフォームしたけど、妻が文句ばかり言うのでどうにかならないか」
イエツムリ
友人からそう相談されたことがあります。奥さんに事情を聞くと、原因はキッチンでした。今回のリフォームで一番力を入れた場所だっただけに、落胆も大きかったようです。

洗い物をしていると腰が痛くなる。今まで二度手間などしたことがなかったのに、新しいキッチンになってから二度手間ばかり。最初は慣れの問題だと思っていたそうですが、1ヶ月以上経っても変わらない。

具体的に聞くと、4つ出てきました。システムキッチンの高さが高い。冷蔵庫の扉の開き勝手が逆。キッチンと食器棚の間が広すぎる。使う器具と使わない器具の収納バランスが悪い。どれも図面の上では何の問題もない計画です。

誤解のないように言うと、この家は打合せが少なかったわけではありません。むしろ十分に重ねています。双方が了解した上での工事なので、クレームの対象にすらなりません。抜け落ちていたのは、打合せの回数ではなく工程です。奥さんの生活習慣を引き出す工程が、どこにもなかった。

計画段階で見るのは図面と3次元パースです。専門家は空間を頭の中で立ち上げられますが、一般の方にそれを求めるのは無理があります。イメージはできても、体感はできません。

奥さんにとってキッチンは職場です。人間工学と習慣に合わない空間では、作業効率が落ちるだけでは済まない。悪習慣によるストレスが身体に出ます。実際、腰痛という形で出ました。

同じことが、家族の関係にも起こります。

玄関から子ども部屋まで、リビングを通らずに行ける間取りかどうか。それだけで、家族が一日に言葉を交わす回数は変わります。使い勝手と同様に、これも図面の上では問題として現れません。

建築の専門家は、ハードの専門家ではあってもソフトの専門家ではありません。だから打合せに、使う人の価値観と習慣を引き出す工程を組み込む必要があります。

引き出すときに有効なのは、要望を聞くことではなく、今の暮らしを実況してもらうこと。一日のうちで家族が一番長くいる場所はどこか。子どもが帰宅してから夕食までを順番に。家事で一番面倒だと感じる瞬間はいつか。

「どんな家にしたいですか」と聞くと、たいていの方は雑誌やモデルルームで見た像を答えます。それは希望であって習慣ではありません。習慣は、今の暮らしの中にしかない。

1960年代までの私の田舎では、代々世話になっている大工さんに増改築を任せるのが当たり前でした。連絡手段が電話しかない時代です。それでも成り立っていたのは、付き合いが長く、家族構成も価値観も既に知られていたからでした。台風で建物が傷めば、すぐに業者を手配してくれる。地域に密着しているからできることです。

新築やリフォームのトラブルで最も多い原因は、技術の不足ではありません。専門家とお施主様の関係が希薄で、信頼が積み上がっていないことです。当時の大工さんが担っていたのは、施工ではなく関係の継続でした。

それを仕組みとして再現しようとしているのが、私の言う住環境習慣コンディショニングです。住環境、家族の生活習慣、関係性や価値観を、世代が代わっても継続して見ていく。

これから新築やリフォームを考えている方に、ひとつだけお願いがあります。間取りの希望を書き出す前に、今の家族の生活習慣と価値観を全部ノートに書き出してください。誰がどこで何をしているか、それだけで構いません。

順番を逆にすると、目の前の図面に引きずられます。図面は説得力が強すぎるのです。書き出したノートを持って打合せに行けば、専門家はそれを読み取ってくれます。読み取ろうとしない相手なら、その時点で分かります。

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小橋広市
専門家

小橋広市(講師)

一般社団法人Self&Lifeコンディショニング協会

なりたい自分になる勉強会やセミナーの開催及び、居心地が良い環境の中で、生きやすくなるための講座や相互交流ができる「心ホッとコミュ」というコミュニティを開放しています。

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