貴女があなたらしく生きる
その飲み会の帰り道、なぜか妙に疲れている。
そんな夜が続いていた時期がありました。同じ部署の仲間と居酒屋に集まっても、話題は上司の悪口と同僚の陰口。ひとしきり終われば、今度は会社への愚痴です。私は相槌を打ちながら、ただ聴いているだけでした。
飲み会そのものが嫌だったわけではありません。楽しい時間もありました。ただ、半分はやはり付き合いです。ここで断れば付き合いが悪いと思われる気がして、行かないという選択肢は、当時の私にはありませんでした。楽しくないわけではない。けれど、心から楽しいわけでもない。その居心地の悪さを、うまく言葉にできずにいました。
コーチングの現場でも、似たような悩みをよく聞きます。「なんとなく人付き合いが疲れる」「その場では合わせているのに、あとから嫌な気持ちが残る」。多くの方が、自分でも何が嫌なのかを掴めずにいます。
そんなとき私がお伝えしているのが、記憶を俯瞰して観る、という方法です。
やり方はシンプルです。疲れた飲み会の場面を思い浮かべたら、自分の視点を体からそっと抜いて、天井のあたりから全員を見下ろすように眺めます。自分も含めて、その場にいた人たちを上から観るのです。
俯瞰すると、客観的な、少し冷めた目線でその場を見られるようになります。自分の目線のままだと、私たちはどうしても感情を再生してしまいます。けれど視点を外に移すと、評価する立場から、ただ観察する立場に切り替わるのです。
これは、私が協会で行っているビジュアルコーチングと同じ原理です。セッションでは、モノや絵を、クライアントと私のちょうど真ん中に置きます。悩みを自分の内側に抱えたままにせず、いったん外に出して眺める。そうすることで、人は自分のことを驚くほど客観的に見られるようになります。
私自身、あの居酒屋の景色を初めて俯瞰して眺めたときのことは、今もはっきり残っています。自分の目線のままだと、記憶は「悪口ばかりで気疲れした席」で止まっていました。ところが天井から観ると、黙って相槌を打っている自分の姿が画に入ってきたのです。そして、誰ひとり心から楽しそうにしていないことに気づきました。
その瞬間、蓋をしていた本音が声になりました。「本当は、心から楽しめる場所に行きたい」。視点が相手から自分に移ると、見える景色が変わります。「あいつらの悪口が嫌だ」という不満が、「自分はこういう時間を過ごしたい」という願いに変わっていく。
あの日から、私は行きたくない席に無理をして座るのを、少しずつやめました。心から笑える相手と過ごす時間が増えるほど、仕事も暮らしも軽くなっていったのを覚えています。セッションを受けた方からも、「何が嫌だったのか、やっと言葉になった」「人との時間の選び方が変わった」という声をいただきます。
以前、人間関係にくたびれていたある方と、その場面を一枚の絵にして、二人で真ん中に置いて眺めたことがあります。ご自身を外から見たその方は、しばらくして、「私、ずっと笑顔をつくっていたんですね」とつぶやきました。内側にいるときには決して見えなかった一言です。
愚痴や悪口で生まれる仲間意識は、その場は盛り上がっても、いずれカタチを変えて自分に返ってきます。だからこそ、モヤモヤした席の記憶ほど、そのままにしないでほしいのです。
今度、気の進まない飲み会があったら、その帰り道にでも試してみてください。目を閉じて、天井からその景色を眺め直す。ほんの数十秒で、あなたの本音が顔を出すはずです。


