青春の彷徨、新宿ゴールデン街―無頼に生きる、がテーマだったあの頃―Ⅰ
アントニオ猪木とモハメド・アリの異種格闘技戦。
渋々リングに上がったモハメド・アリ・・・・・
ところが実際に試合が始まって、パンチを当ててみたアリは、自ら4オンスで殴ることの恐ろしさに改めて気づいたのではないでしょうか。
アントニオ猪木は試合後のインタビューの中で
「一発目に額にもらったジャブはすごい衝撃で、あくる日たんこぶになっていた。」
と、話していたのです。
軽く放ったジャブがその威力です。
返しのストレートがまともに当たったらどんなことになるか!
アリはその恐ろしさにまざまざと気付いたのではないか、と思ったのです。
試合展開にその心情がありありと見て取れる気がしました。
明らかにパンチを出せる場面でも出さないのです。
「4オンスのグロ-ブでぶん殴って、相手を再起不能に陥らせたところで自分には何の得にもならない。
かえって、いやな記憶と記録が残るだけだ。
散々蹴られている足も痛いし、とにかく早くこの試合、終わらないかな!」
モハメド・アリはそう苛立っているように私には見えました。
15ラウンドの長丁場の中で、アリが放ったパンチはジャブが2発か3発だけだったのです。
いくらやりにくいといっても、ボクサーでもない相手に、世界チャンピオン彼が、たったこれだけのパンチしか繰り出せない、ということはないだろうと思ったのです。
これに対して、アントニオ猪木の方は
「格闘技世界一の称号を得たい。
それは自分やプロレスにとって大変なステイタスになるはずだ。」
の、やる気満々でかかってきます。
どうあれ、どうして拳(こぶし)が殺人兵器に変わるような4オンスグローブで臨んだのだろう?という疑問はやはり残ります。
が、それにしても私にはアリの戸惑いをつぶさに見るような試合の映像であった。
この一連の経過を見ていて、私はふと思いました。
モハメド・アリという男、本当はとんでもないお人好しだったのかも知れない、と・・・・
おしまい