顧客ニーズとウォンツについて―顕在化した需要と潜在的需要について考える―Ⅲ
マーケティングが、目先の売上を意識するあまり消費者ニーズのみを追いかけていたら、おそらく世の中はつまらない商品だらけになってしまうでしょう。マーケティングというのは、潜在的なニーズ、まだ人々が意識すらしていない潜在的需要すなわち「ウォンツ」を見つけ出す必要があるのです。ここに、マーケティング本来の醍醐味があります。
例えば、お笑いタレントを思い浮かべてみるとよくわかります。テレビ局は取聴率を取りたいために、人気の高い旬のタレントを多用します。するとどのチャンネルをひねっても同じような顔ぶれの似たような番組だけになり、やがて飽きられ聴取率が取れなくなってきたところで次の人気タレントに取って代わられ、また同じようなことが繰り返されています。その結果、だんだんテレビがつまらなくなります。実際そうなっています。
マーケティングだけを表層的に追いかけているとこのような弊害が出てくるのです。それでは、「ウォンツ」を見つけ出す、というのはどういうことなのでしょうか。
これは、例えばオーディオの歴史を振り返ってみればよくわかります。
昔、我々はLPレコードというのを聞いていました。直径30センチくらいの、随分かさばる代物でしたが、それを当り前と思って使用していました。当然、レコードを再生するオーディオ機器もそれなりの大きさがあり、コンパクトなものなど存在しなかったのです。また、その音質についても、ノイズや音飛びなど普通にありましたが、「こんなもの」と思い込んでいて、格別不満を持っていたわけではなかったのです。レコードには繰り返し聞いていると「擦り切れる」という形の寿命がやってきます。この点についても当たり前と捉えていました。更に、レコードは通常ダイアモンド針という小さな針の先から音を拾って再生する構造になっていました。ところが、このレコード針は結構高価でしかも消耗品でした。このように、音楽を再生して聞くというのは、結構面倒な作業だったのです。
そんなオーディオ環境を当り前と思っていた我々は、やがて、CDが登場した時、大きな衝撃を受けました。まずその大きさに驚きました。小さい!こんなコンパクトな円盤の中にLPレコード裏表分の楽曲が入るのだ、と思いました。しかも極めて軽い。また、音質の良さにもぶったまげました。極めてクリアで、音にほとんど濁りがありません。更に、デジタル再生なので、消耗品である「レコード針」がいらない、というのも大きな衝撃でした。つまり、質(音質)、量(大きさ)ともに、まさに天変地異ともいうべき変化だったのです。
つづく