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岸井謙児

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岸井謙児(きしいけんじ)

カウンセリング・オフィス岸井

コラム

発達障害の無垢で純粋な世界。ピーター・セラーズの 「チャンス」

発達障害を考える

2014年8月22日 / 2018年9月27日更新

ある程度の年齢の方なら、ピンクパンサーのクルーゾー警部でおなじみのピーター・セラーズが演じたのが、どうやら知的障害を伴う自閉症のチャンスという名の男性(と、言うのは映画の中でそのことは触れられていないのですが、その障害が逆に映画のポイントなのです)です。

自閉スペクトラム症の人たちの特徴のひとつに、物事の背後にある「暗黙のルール」や目の前の人の気持ちを察することの苦手さ、と言うのがあります。
つまり、物事の奥行きとでも言うか、背後の世界を推し量ると言うことが苦手なわけです。

この特性が思わぬ展開を見せてくれるのがこの「チャンス」という映画です。


「相手の気持ちを読めない」ことは無垢なことでもある

それは見方を変えれば、非常に純粋で無垢な世界に住んでいると言えます。実際、知的障害の子供たちや自閉症スペクトラムの子供たちと接していると、いかに定型発達を遂げている私たちの方が、嘘をついたり相手の気持ちを読むことで要領よくあしらったりしているか、いかに心を簡単に許せない世界に住んでいるのか思い知らされます。

一番典型的なのは政治の世界でしょうね。政治の世界は「一瞬先は闇」「今日の友は明日の敵」、相手の発言の裏読みばかりをしている世界と言われます。今世間を騒がせている政治の諸問題なんて、本当に表面だけを信じていたら大変な目に合いそうな問題だらけですね。「裏の裏」まで読んで、「次の次」まで想定をして判断することが求められる時代です。
そういう「疑心暗鬼」の世の中では、相手の気持ちの裏を読めない能力(?)はある意味とても無垢で誠実なことなのかもしれません。

さて、映画ではそこのところのギャップを使ってコミカルにストーリーをつなげていきます。
たとえば主人公のチャンスは、もともとあるお屋敷の庭師(ガーデナー)だったのです。そして「お前は何者だ?」と聞かれ、それをそのまま素直に「チャンス。ガーデナー(庭師)」言っただけなのに、いつの間にか「チャンシー・ガードナー」という名前だろうと相手に勝手に思われてしまいます。

また、彼としてはただただ普通に庭師としての仕事の話をしているだけなのに、相手の人、特にたまたま知り合った経済界の重鎮や政府の政治家からはその言葉の裏に何か意味があるだろうと深読みをされてしまいます。

勝手に「裏読み」された結果、チャンスは・・・

その結果チャンスは、なんと大統領の相談役みたいな立場になり、たとえば「冬には葉を落とし枯れたようになっている木も、春になると芽を吹き、いずれ花が咲き実をもたらす」と自然の様子を言っただけなのに、それを「今の経済政策は確かに冬のように不況の風にさらされているが、このまま耐えていけばきっと経済は上向きになるだろう」と言うような深読みのアドバイスだと思われてしまうのです。

まぁ、なんと定型発達者のこざかしいこと。言葉の裏しか読まない浅はかさが、チャンスの超然とした態度によって浮かび上がらされていくと言うシニカルでコミカルなストーリー。英語のタイトルは「BEING THERE」。

でもこれって実際ありますよね。私たちの普段の生活でも。相手の人は何にも考えずにふと口にした言葉に、嫌味や皮肉を勝手に感じて一人で苦しむなんてこと。誤解が誤解を呼び、結局もつれ合い絡み合った人間関係になってしまう。他人事ではありません。

結局、自閉スペクトラム症と言われる障害に限らず、「障害」と言うものは数の上でマイノリティの立場にあることを意味しているのだと思わされます。生き方そのもので言えば、彼ら彼女らの方が、ずっと純粋で無垢な存在なのですから。

このチャンスを演じている時のピーター・セラーズの、超然とした、見ようによっては高貴な、純粋そのものの表情が本当の彼らの姿を現しているような気がしてなりません。

機会があれば「チャンス」見てみて下さい。

読んでくださって ありがとう

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