万引きで警察を呼ばれる前に店から示談を求められた
この記事は、2023年7月施行の改正刑法(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)と、2026年1月13日に運用が始まった犯罪被害者等支援弁護士制度を前提にしています。相談窓口の受付時間や制度の細かな運用は変わることがあるため、利用の際は各窓口の案内もあわせてご確認ください。
マッチングアプリで知り合った相手と会った際に、望まない性的な行為をされたというご相談は、決して珍しいものではありません。「自分から会いに行ったのだから」「お酒を飲んでいたから」と、ご自身を責めてしまい、誰にも話せないまま時間が過ぎてしまう方も少なくありません。
しかし、同意のない性的な行為は、出会いのきっかけが何であっても、刑事上・民事上の問題になり得ます。相談先はひとつではなく、体のこと、気持ちのこと、警察への届出、相手への請求と、目的に応じて窓口が分かれています。この記事では、どこに何を相談できるのかを順に整理し、マッチングアプリならではの記録の残し方についても解説します。
まず身の安全と体のことを優先する
被害に遭った直後は、何をすべきか考えられないのが自然です。法的な手続よりも先に、今いる場所が安全かどうか、けがや体調の変化がないかを確かめてください。相手が近くにいる、自宅を知られていて不安があるといった場合は、ためらわずに110番通報をしてかまいません。
体のことについては、時間との関係で選べる手段が変わります。緊急避妊薬は服用までの時間に限りがあり、性感染症の検査や、体に残った痕跡の採取も、早い段階のほうが行いやすいとされています。どの病院に行けばよいか分からない場合は、次に紹介するワンストップ支援センターに連絡すると、受診先の案内や付き添いを受けられることがあります。
なお、警察に相談した場合には、初診料や緊急避妊、性感染症検査などの費用を公費で負担する仕組みが設けられています。対象となる費用の範囲は都道府県警察によって異なることがあるため、相談の際に確認するとよいでしょう。
主な相談先と、それぞれにできること
| 相談先 | 主にできること | 連絡方法 |
|---|---|---|
| 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター | 医療機関の案内、心理的な支援、警察への同行、弁護士の紹介など | 全国共通番号「#8891」 |
| 警察の性犯罪被害相談電話 | 被害の相談、被害届・告訴の手続の案内、捜査 | 全国共通番号「#8103」 |
| 警察(緊急時) | 今まさに危険がある場合の対応 | 110番 |
| 性暴力に関するSNS相談「Cure time」 | 電話で話しにくい方のチャット相談 | 内閣府のウェブサイトから |
| 法テラス犯罪被害者支援ダイヤル | 犯罪被害者等支援弁護士制度の案内、弁護士の紹介 | 0120-079714 |
| 弁護士(法律事務所) | 相手方との交渉、被害届・告訴の準備、損害賠償の請求 | 各事務所の窓口 |
どこに相談すればよいか迷ったら
最初の窓口としては、ワンストップ支援センターが使いやすいでしょう。医療・心理・法律の支援を一か所でつなぐことを目的としており、警察に届け出るかどうかを決めていない段階でも相談できます。「#8891」に電話をかけると、最寄りのセンターにつながります。
警察に相談するとき
警察の性犯罪被害相談電話「#8103」は、発信した地域を管轄する都道府県警察の窓口につながります。相談したからといって、すぐに被害届の提出を求められるわけではありません。まずは事情を伝え、手続の見通しを聞いたうえで、届け出るかどうかを考えることもできます。
届出には被害届と告訴があり、告訴は処罰を求める意思を明確に示すものです。両者の違いや、手続がどの段階で動き始めるかについては、事件は『いつ』始まるのか|相談・被害届・告訴・立件の違いで詳しく解説しています。
弁護士に相談するとき
弁護士に相談すると、警察への届出を考えている場合はその準備や事情聴取への同行を、届出を考えていない場合でも、相手方に対する慰謝料などの請求を検討できます。2026年1月13日からは、一定の性犯罪の被害を受けた方を対象に、法テラスが費用を負担して弁護士が継続的に支援する「犯罪被害者等支援弁護士制度」の運用が始まりました。資力の要件などがあるため、利用できるかどうかは法テラスに確認してください。
マッチングアプリならではの記録の残し方
マッチングアプリで知り合った相手の場合、相手の本名や住所が分からず、手がかりがアプリの中にしかないことがよくあります。そのため、アプリ上の情報を早めに保存しておくことが、その後の手続で意味を持ちます。
- 相手のプロフィール画面(表示名、写真、年齢、職業などの記載)のスクリーンショット。
- 会う前後のメッセージのやり取りの全体。
- LINEなど別の連絡手段に移った場合は、そのやり取りと相手のアカウント情報。
- 会った日時・場所、利用した店やホテルの名前、支払いの記録。
- 当日の交通系ICカードの利用履歴や、位置情報の記録。
- 被害の直後に家族や友人へ送ったメッセージ。
- 医療機関を受診した記録や、診断書。
特に注意したいのは、アプリの退会や相手のブロックです。相手がブロックや退会をすると、それまでのやり取りが見られなくなることがあります。ご自身が退会する前に、残せるものを保存しておくことをおすすめします。保存の順序については、【男女トラブル・マッチングアプリ】退会するとやり取りは消えるのか|証拠を残す順序もご参照ください。
また、当日に着ていた衣類などは、洗わずに袋に入れて保管しておくと、後で証拠として扱われることがあります。すでに洗ってしまった、メッセージを消してしまったという場合でも、相談をあきらめる必要はありません。残っている記録から何ができるかを一緒に考えることができます。
相手の本名や連絡先が分からないとき
相手について分かるのがアプリ上の表示名だけ、という状況でも相談は可能です。警察が捜査として扱う場合には、運営会社への照会などを通じて相手が特定されることがあります。
民事で請求を考える場合には、弁護士会照会などの手続で相手の情報を確認できる場面があります。もっとも、運営会社がどこまで情報を保存し、開示に応じるかは事情によって異なり、必ず特定できるとは限りません。アプリ内の記録を取り寄せる際の限界については、【男女トラブル・マッチングアプリ】アプリ内のメッセージは後から取り寄せられるのか|保存期間と開示の限界で解説しています。
運営会社への通報は、同じ相手による被害が他の利用者に広がるのを防ぐうえでも意味があります。ただし、通報をきっかけに相手のアカウントが削除され、記録がたどりにくくなることもあるため、通報の前に手元の記録を保存しておくとよいでしょう。
刑事の手続と民事の請求は、分けて考えられる
性被害への対応には、相手の処罰を求める刑事の手続と、慰謝料などを求める民事の請求があります。この2つはどちらか一方を選ぶものではなく、並行して進めることも、刑事の手続はとらずに民事の請求だけを考えることもできます。
刑事の手続を進めた場合、相手方の弁護士から示談の申入れが届くことがあります。示談に応じるかどうか、どのような条件にするかは被害を受けた方が決めることで、急いで返事をする必要はありません。起訴された後には、刑事裁判に参加する制度や、刑事裁判の中で賠償を求める制度もあります。詳しくは、被害者参加制度|法廷でできることとできないことと損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法をご覧ください。
時間の制限について
2023年の改正で、性犯罪の公訴時効は延長されました。たとえば不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年とされ、被害を受けたときに18歳未満だった場合は、18歳になるまでの期間がさらに加算されます。
一方、民事の損害賠償請求には、損害と加害者を知った時から一定の期間が経つと請求できなくなる時効があります。相手が誰か分かっているかどうかで数え方が変わることもあるため、時間が経っている場合は早めに確認しておくと安心です。
よくあるご質問
自分から会いに行ったり、ホテルに入ったりしていても相談できますか
相談できます。不同意性交等罪では、同意しない意思を示したり貫いたりすることが難しい状態だったかどうかが問題になります。会うことやホテルに入ることに応じていたとしても、その後の性的な行為にまで同意したことにはなりません。交際相手や知人との間でも成立する点については、恋人間の不同意・性的強要|交際相手でも成立する不同意性交等罪で解説しています。
お酒を飲んでいて、記憶があいまいです
記憶がはっきりしない部分があっても、相談はできます。覚えていることと覚えていないことを分けて伝えていただければ十分です。店の会計記録や移動の記録など、記憶以外の材料で経緯を補える場合もあります。
被害の後も、相手と普段どおりにやり取りしてしまいました
被害の後に相手と普通に連絡を取ってしまうことは、恐怖や混乱から起こり得る反応として知られています。そのやり取りがあることだけで、相談や届出ができなくなるわけではありません。消さずにそのまま残しておいてください。
相手から「同意があった」「虚偽の告訴だ」と言われたらどうすればよいですか
相手方がそのように主張してくることは、手続の中では珍しくありません。直接言い返したり、ご自身で交渉したりすると、やり取りが記録として不利に使われるおそれもあります。相手方から連絡が来た段階で、弁護士を窓口にすることを検討してください。
被害から何か月も経っていますが、今からでも相談できますか
相談できます。時間が経つと残っている記録は少なくなりますが、上で述べたとおり公訴時効は長く設けられており、民事の請求ができる場合もあります。何が残っているかを確認するところから始めることができます。
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ひとりで抱え込まずに、まず話せる窓口へ
マッチングアプリで会った相手からの性被害は、どこに相談すればよいかが分かりにくく、相談すること自体に迷いが生じやすいものです。体のことはワンストップ支援センターや医療機関、届出については警察、相手方への請求や交渉については弁護士と、目的に応じて窓口を選べます。当事務所でも、被害を受けた方からのご相談をお受けしており、記録の整理から相手方とのやり取りまで、状況に合わせた進め方を一緒に検討します。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


