謝罪や訂正の投稿をした|示談・処分にどう影響するか
犯罪の被害に遭ったとき、加害者が起訴されて刑事裁判が始まっても、それだけで被害者に賠償金が支払われるわけではありません。刑事裁判は、国が被告人の刑事責任を明らかにするための手続だからです。治療費や慰謝料といった賠償を求める民事の問題は、原則として別の手続で解決することになります。
この二つの手続を近づけるために設けられているのが、損害賠償命令制度です。一定の犯罪について、刑事裁判を担当している裁判所に賠償を求める申立てをしておくと、有罪判決の言渡しの後、同じ裁判官が刑事裁判の記録を用いて賠償の審理を行い、被告人に支払を命じる決定をすることができます。
この記事では、損害賠償命令制度の対象となる事件、申立ての時期と申立書の書き方、審理の進み方、決定の効力、通常の民事訴訟に移る場面までを、条文に沿って整理します。申し立てられた被告人側から見た手続にも触れます。
この記事で扱うことと扱わないこと
この記事では、次の点を中心に説明します。
- 損害賠償命令制度の対象となる犯罪と、対象から外れる犯罪。
- 申立てができる時期と、申立書に記載できる事項。
- 有罪判決の後に行われる審理の進み方と、決定の効力。
- 通常の民事訴訟に移る場面と、そのときの手続。
一方、個別の事件で賠償額がいくらになるかという見通し、示談交渉の具体的な進め方、加害者の量刑の見通しについては扱いません。以下は一般的な制度の説明であり、実際の事件の進み方は、罪名、起訴された事実の内容、当事者の状況などによって変わります。
損害賠償命令制度とはどのような制度か
損害賠償命令制度は、刑事裁判を担当した裁判所が、有罪の言渡しをした後、引き続き同じ事件についての損害賠償請求の審理を行い、被告人に賠償を命じることができる制度です。根拠となる法律は刑事訴訟法ではなく、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」(以下「犯罪被害者保護法」といいます)で、平成20年12月から運用されています。
刑事の裁判所が民事の判断も行う
日本の裁判制度では、刑事責任と民事責任は別の手続で扱うのが原則です。そのため被害者が賠償を求めるには、自分で証拠を集めて民事訴訟を起こし、加害行為があったこと、それによって損害が生じたことを一から主張・立証するのが本来の形になります。
損害賠償命令制度では、刑事裁判の訴訟記録がそのまま証拠として取り調べられるため、この負担が軽くなります。事件の内容をすでに把握している裁判官が引き続き担当することもあり、審理は損害額を中心としたものになりやすい仕組みです。
「刑事裁判の中で」といっても、審理が始まるのは判決の後
この制度は刑事裁判に付随する手続ですが、賠償の審理そのものが刑事裁判と並行して進むわけではありません。申立ては刑事裁判の途中に行いますが、審理が始まるのは有罪判決の言渡しの後です(犯罪被害者保護法31条1項)。刑事裁判が続いている間に賠償の中身が審理されることはなく、この点を取り違えると申立ての時期を誤ることがあります。
賠償を求める方法の中での位置づけ
被害者が賠償を受ける方法は、損害賠償命令だけではありません。手続の場所と、支払われなかったときに強制執行ができるかどうかで整理すると、違いが分かりやすくなります。
| 方法 | 手続の場所 | 成立の仕方 | 支払がない場合の強制執行 |
|---|---|---|---|
| 示談(裁判外の合意) | 当事者間の交渉 | 当事者双方の合意 | 合意書だけでは直ちにはできない |
| 刑事和解 | 刑事裁判の公判 | 合意の内容を公判調書に記載してもらう | 裁判上の和解と同一の効力があるためできる |
| 損害賠償命令 | 刑事裁判を担当した裁判所 | 裁判所の決定 | 確定判決と同一の効力が生じればできる |
| 通常の民事訴訟 | 民事の裁判所 | 判決または訴訟上の和解 | 確定した判決などに基づいてできる |
刑事和解は、被告人と被害者との間で裁判外の合意が成立している場合に、共同で申し立てて公判調書に記載してもらう手続です。対象となる罪名の限定がない一方、合意ができていることが前提になります。損害賠償命令は、合意ができていない場合でも裁判所の判断を求められる点が異なります。
対象となる事件
損害賠償命令の申立てができるのは、犯罪被害者保護法24条1項が挙げる罪に係る刑事被告事件に限られます。
| 号 | 対象となる罪 |
|---|---|
| 1号 | 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪(殺人、傷害、傷害致死、強盗致死傷など) |
| 2号イ | 刑法176条(不同意わいせつ)、177条(不同意性交等)、179条(監護者わいせつ及び監護者性交等)の罪又はその未遂罪 |
| 2号ロ | 刑法220条(逮捕及び監禁)の罪又はその未遂罪 |
| 2号ハ | 刑法224条から227条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪又はその未遂罪 |
| 2号ニ | イからハに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(1号に掲げる罪を除く) |
過失による事件は対象に含まれない
挙げられているのはいずれも故意犯です。そのため、過失運転致死傷罪や業務上過失致死傷罪は対象に含まれず、交通事故の多くはこの制度を使えません。刑事裁判への参加を認める被害者参加制度が過失犯も対象としているのとは、この点で範囲が異なります。
過失犯が外された背景としては、過失の割合をめぐる主張が持ち出されて審理が長引きやすく、簡易迅速な解決という制度の趣旨になじみにくいことが指摘されています。交通事故については、自動車損害賠償責任保険や任意保険を含めた別の解決の枠組みが整っていることも関係します。
財産犯や暴行・盗撮などは対象外
人の死傷や自由の侵害に関わる罪が中心であるため、詐欺、窃盗、器物損壊といった財産犯は対象になりません。けがに至らない暴行罪、撮影に関する罪、名誉毀損罪なども同様です。これらの被害については、示談、刑事和解、通常の民事訴訟といった方法を検討することになります。
判断の基準になるのは起訴された事実
損害賠償命令は、その刑事事件の訴因として特定された事実を原因とする不法行為についての賠償を命じる手続です。したがって、起訴されていない余罪による被害や、起訴された事実とは別の行為による被害は、この手続の対象にはなりません。それらについて賠償を求める場合は、通常の民事訴訟などを別に検討することになります。
申立てができる人と、申立ての相手方
申立てができるのは、対象となる犯罪の被害者本人と、その一般承継人です。一般承継人とは、被害者が亡くなった場合の相続人が典型例です。刑事裁判に被害者参加をしているかどうかは要件ではなく、参加していなくても申立てはできます。
注意が必要なのは相手方の範囲です。損害賠償命令の相手方は、その刑事事件の被告人に限られます。民事上は賠償責任を負う可能性がある相手であっても、起訴されていない共犯者、被告人の勤務先や使用者、被告人の親などを相手方として申立てをすることはできません。これらの相手に請求する場合は、通常の民事訴訟によることになります。
申立ての時期と手続の流れ
申立ては、刑事事件が起訴された後、その事件の第一審の弁論が終結するまでの間に行う必要があります。申立先は、事件が係属している裁判所で、地方裁判所に限られます。
弁論の終結とは、検察官の論告・求刑と弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述が終わった時点です。判決の言渡し前であっても、弁論が終結した後の申立ては認められません。刑事裁判の期日は事件によって進み方が異なるため、起訴の連絡を受けた段階から時期を意識しておくことになります。
- 起訴後、弁論終結までに、地方裁判所へ損害賠償命令の申立てをする。
- 申立書が被告人に送達される。
- 刑事裁判で有罪の言渡しがあると、直ちに第一回の審理期日が開かれる。
- 刑事裁判の訴訟記録が取り調べられ、原則として4回以内の審理期日で審理が終結する。
- 裁判所が損害賠償命令の申立てについての決定をする。
- 決定の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てがなければ、決定が確定判決と同一の効力を持つ。
申立書に記載できる事項が限られている理由
損害賠償命令の申立書には、当事者と法定代理人、請求の趣旨、刑事被告事件の訴因として特定された事実、その他請求を特定するに足りる事実を記載します(犯罪被害者保護法24条2項)。そのうえで、これら以外の事項を記載してはならないと定められています(同条3項)。
この制限には理由があります。申立ては刑事裁判の判決前に行われ、申立書は刑事事件を担当する裁判所に提出されます。もしそこに被害感情や事件の背景に関する詳細な記述が書き込まれると、判決前の裁判官に証拠によらない予断を与えかねません。刑事裁判の公正さを保つために、記載できる事項があらかじめ絞られているのです。
損害の中身や金額の根拠を詳しく主張するのは、有罪判決の後に始まる審理の段階です。申立ての段階で書き過ぎないという点は、実務では見落とされやすい部分といえます。
有罪判決の後に行われる審理
判決の直後に第一回の期日が開かれる
刑事事件について有罪の言渡しがあり、その罪が対象となる罪に当たる場合、裁判所は直ちに審理期日を開かなければならないとされています。直ちに開くことが相当でないと認めるときは、裁判長が速やかに最初の期日を定めます。実務上は、判決が言い渡されたその日のうちに第一回の期日が開かれることが多い手続です。
刑事裁判の記録が取り調べられる
裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならないとされています。供述調書や実況見分調書、診断書といった刑事裁判で提出された資料を、被害者側が改めて集め直す必要がない点が、この制度の中心的な特徴です。
原則として4回以内で終結する
審理は、特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日で終結しなければならないとされています。通常の民事訴訟が1か月から2か月に1回程度の期日を重ねていくのと比べると、短い期間で結論に至ることが想定された設計です。
口頭弁論を開かずに進めることができる
損害賠償命令の裁判は口頭弁論を経ないですることができ、その場合、裁判所は当事者を審尋することができます。審尋は公開の法廷で行う手続ではないため、傍聴人のいる場で被害の内容を述べることを避けやすい点は、性犯罪の事件などで意味を持つことがあります。刑事裁判の判決言渡しに続いて審理に入る場面では、傍聴人が退廷したうえで手続が進められます。
決定とその効力
審理が終わると、裁判所は損害賠償命令の申立てについての決定をします。請求に理由があると判断されれば、被告人に対して一定額の支払を命じる内容になります。
この決定に対しては、送達などを受けた日から2週間の不変期間内に、当事者が異議を申し立てることができます。適法な異議の申立てがないときは、決定は確定判決と同一の効力を有します。支払がされない場合には、この決定に基づいて給与や預金の差押えといった強制執行を求めることが可能になります。
なお、決定には仮執行の宣言が付されることがあります。仮執行宣言が付された部分は、適法な異議の申立てがあっても効力を失わず、強制執行の手続を進める余地が残ります。
もっとも、決定が出ることと、実際に金銭を回収できることは同じではありません。相手方に見るべき財産がない場合、決定を得ても回収に至らないことがあります。強制執行の見通しについては、財産の把握が可能かどうかを含めて、早い段階で検討しておく必要があります。
通常の民事訴訟に移る場面
損害賠償命令の手続は、途中で通常の民事訴訟に移ることがあります。主な場面は次のとおりです。
| 場面 | きっかけ | その後の扱い |
|---|---|---|
| 異議の申立て | 決定の送達などを受けた日から2週間以内に、当事者のいずれかが異議を申し立てた | 損害賠償命令の申立てをした時に訴えの提起があったものとみなされる |
| 裁判所の判断 | 4回以内で審理を終える見込みがないなど、この手続で審理を続けることが相当でないと認められた | 通常の民事訴訟の手続に移る |
異議によって訴えの提起があったものとみなされた場合でも、被害者側の負担がそのまま元に戻るわけではありません。審理に必要な刑事事件の記録は民事の裁判所に送付されるため、記録を改めて謄写して提出する手間は省かれます。損害賠償命令の申立書は訴状として扱われ、その申立ての時に訴えが提起されたものとみなされます。
一方で、通常の民事訴訟に移ると、請求額に応じた手数料を追加で納める必要が生じます。この点は、あらかじめ見込んでおきたい部分です。
申立てが却下される場合
次のような場合、裁判所は決定で申立てを却下します。
- 申立て自体が不適法であると認められるとき。
- 刑事被告事件が、地方裁判所以外の裁判所で審理されることになったとき。
- 刑事被告事件について、無罪、免訴、公訴棄却、管轄違いの判決などがあったとき。
- 有罪の言渡しがあったものの、その罪が対象となる罪に当たらないとき。
最後の場合は実務上注意が必要です。たとえば傷害罪で起訴されたものの、審理の結果として暴行罪の限度で有罪とされたようなときは、有罪判決であっても対象となる罪ではないため、申立ては却下されます。
却下されても、賠償請求そのものができなくなるわけではありません。改めて通常の民事訴訟を提起することはできます。ただし時効との関係では、却下の告知を受けた時から6か月以内に裁判上の請求などを行う必要があるとされているため、その後の対応を早めに決めておくことになります。なお、申立てが不適法であることを理由とする却下の決定に対しては即時抗告ができますが、それ以外の理由による却下の決定に対しては、不服を申し立てることができません。
申し立てられた被告人側から見た手続
この制度は被害者の負担軽減を目的としたものですが、申立てを受けた被告人の側にも対応が必要になります。
まず、刑事裁判ですでに有罪の言渡しがあることが前提になるため、加害行為があったこと自体を争うのは現実的ではありません。実際に争点となりやすいのは、損害の範囲と金額です。治療費や休業損害の裏付け、慰謝料の算定、過失や素因に関する主張などについて、答弁書や準備書面で反論することになります。
もっとも、この手続は簡易迅速な解決を重視した設計であり、本格的に争うことは想定されていません。詳細な立証を行いたい場合には、審理期日でその旨を述べる、あるいは決定に対して異議を申し立てて通常の民事訴訟で主張するという選択肢があります。異議を申し立てるかどうかは、争点の大きさ、仮執行宣言の有無、手数料の負担、解決までの期間を比べて判断することになります。
なお、刑事裁判の段階で示談が成立し、刑事和解として公判調書に記載されている場合や、賠償が済んでいる場合には、その事情も審理で示すことになります。刑事手続の中でどのように賠償を進めておくかは、後の民事手続にも影響します。
費用と利用できる支援
損害賠償命令の申立手数料は2000円です。請求額に応じて手数料が変わる通常の民事訴訟と比べると、申立ての段階での負担は抑えられています。ただし前述のとおり、通常の民事訴訟に移った場合には差額の手数料を納めることになります。このほか、書類の送達に使う郵便費用の予納が必要です。
弁護士に依頼する場合の費用については、収入や資産が一定の基準を下回る場合に、法テラスの民事法律扶助を利用できることがあります。刑事裁判に被害者参加する際の国選の制度とは枠組みが異なるため、どの制度を使えるかは個別に確認することになります。
また、加害者からの賠償とは別に、国が給付を行う犯罪被害者等給付金制度があります。損害賠償命令の結果とは要件も手続も異なる制度ですので、両方を視野に入れて検討する場面もあります。
誤解されやすい点
- 刑事裁判の中で賠償額まで審理されるわけではなく、賠償の審理が始まるのは有罪判決の言渡しの後です。
- 刑事裁判で被告人が有罪になっても、申立てをしていなければ賠償が命じられることはありません。
- 被害者参加をしていなくても申立てはできます。逆に、被害者参加をしていれば自動的に賠償が命じられるわけでもありません。
- 申立ての期限は判決の日ではなく、弁論が終結する日です。
- 申立てができるのは地方裁判所に係属している事件に限られます。
- 相手方は被告人に限られ、勤務先や共犯者を相手にすることはできません。
- 決定が確定しても、相手方に資力がなければ回収できないことがあります。
まとめ
- 損害賠償命令制度は、刑事裁判を担当した裁判所が有罪判決の後に賠償の審理を行い、被告人に支払を命じる制度です。
- 対象は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、不同意わいせつ・不同意性交等の罪、逮捕監禁の罪、略取誘拐・人身売買の罪などに限られます。
- 過失犯は対象外で、交通事故の多くは利用できません。財産犯や暴行罪も対象になりません。
- 申立ては、起訴後から第一審の弁論終結までの間に、地方裁判所に対して行います。
- 申立書には請求の趣旨と訴因として特定された事実などのみを記載し、それ以外の事項は書けません。
- 有罪判決の後、刑事裁判の記録が取り調べられ、原則として4回以内の審理期日で終結します。
- 決定に対して2週間以内に適法な異議がなければ、確定判決と同一の効力が生じ、強制執行の根拠になります。
- 異議が出た場合や、この手続で審理を続けることが相当でないと判断された場合は、通常の民事訴訟に移ります。
- 申立手数料は2000円で、資力によっては法テラスの民事法律扶助を利用できることがあります。
損害賠償命令制度は、刑事手続の成果を賠償の実現につなげるための仕組みですが、申立ての時期、対象となる罪名、記載できる事項に細かい条件があり、時期を逃すと利用できません。刑事事件の進行と並行して判断する場面が多いため、起訴の連絡を受けた段階で見通しを立てておくと選択の幅が広がります。
当事務所では、被害に遭われた方からのご相談と、申立てを受けた側からのご相談の双方をお受けしています。損害賠償命令を使うべき事案なのか、示談や刑事和解、通常の民事訴訟のほうが適しているのかは、事件の内容と相手方の状況によって変わります。判断に迷われた際は、お早めにご相談ください。


