【刑事事件】逮捕された交際相手から「示談金を立て替えて」と頼まれたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際相手が逮捕され、面会の場や弁護人を通じて「示談金を立て替えてほしい」と頼まれることがあります。大切な相手の力になりたいという気持ちと、まとまったお金を出すことへの不安の間で、すぐには答えを出せない方も多いのではないでしょうか。

 この記事では、交際相手の立場で示談金の立て替えを頼まれたときに、応じる義務があるのか、頼まれ方として注意したい点は何か、立て替える場合・断る場合にそれぞれ何を確かめておくとよいかを整理します。

本記事は、2026年11月時点の法令と一般的な実務の運用をもとにしています。個別の事件での扱いは、事件の内容や手続の段階によって異なります。


交際相手に、示談金を立て替える法律上の義務はない

 示談金は、罪を犯したとされる本人が、被害者に生じた損害や精神的な苦痛に対して支払うお金です。支払う責任を負うのはあくまで本人であり、交際相手が代わりに支払わなければならないという決まりはありません。
 民法は夫婦や一定の親族の間に扶養の義務を定めていますが、交際関係はこれに含まれません。また、扶養の義務は生活を支える義務であって、本人が他人に負う賠償を肩代わりする義務とは性質が異なります。結婚していない交際相手が、示談金を出すかどうかを自分で決めてよいことに変わりはありません。
 一方で、本人以外の人がお金を用意して示談をまとめること自体は、実務上めずらしいことではありません。親や配偶者が示談金を負担する例は多く、交際相手が用意することも考えられます。義務はないけれど、応じることもできる。この前提に立って、落ち着いて判断することが大切です。

まず確かめたいのは「誰から、どのように頼まれたか」

 立て替えの話がどこから来たのかによって、最初にすべきことは変わります。

警察署から本人が電話をかけてくることはない

 逮捕・勾留されている人は、留置施設から自由に電話をかけることができません。また、逮捕から勾留が決まるまでの間は、家族や交際相手であっても面会できないのが一般的で、勾留後も接見禁止がついていれば面会はできません。面会できるかどうかの見分け方は、【刑事事件】逮捕された家族に今日会えるか|接見禁止の見分け方で解説しています。
 そのため、「本人を名乗る人から電話があり、示談金を今日中に振り込んでほしいと言われた」といった連絡には注意が必要です。「逮捕されて示談金が必要になった」という筋書きは、金融機関などが特殊詐欺の典型的な手口として注意を呼びかけているものの一つです。

弁護士を名乗る人から連絡が来た場合

 本人の弁護人から交際相手に連絡が入ることはあります。ただ、電話をかけてきた人が本当に弁護士かどうかは、その場では分かりません。名乗られた氏名と所属事務所を控えたうえで、日本弁護士連合会の弁護士情報検索などで登録を確かめ、事務所の代表番号にかけ直して話を続ける方法が考えられます。
 振込先として個人名義の口座を指定された、現金を受け取りに来ると言われた、今日中でないと示談がまとまらないと急がされた、といった事情があれば、いったん支払いを止めて確認を重ねたほうが安全です。

面会で本人から直接頼まれた場合

 面会で本人から頼まれたのであれば、依頼そのものは本人の意思によるものと考えてよいでしょう。ただし、面会の時間は限られ、警察官が立ち会うこともあるため、金額や見通しを十分に話し合える場ではありません。その場で約束はせず、「弁護士の先生から詳しく聞いてから決める」と伝えておくことも一つの方法です。

立て替える前に、弁護人から確認しておきたいこと

 示談の交渉は、通常、本人の弁護人が被害者側と行います。被害者の連絡先は加害者側に直接は伝えられないことが多く、交際相手が被害者と直接やり取りする場面はほとんどありません。そのため、お金を出すかどうかを決める前に、少なくとも次の点を弁護人から直接聞いておくとよいでしょう。

  • 示談金の金額と、その金額になった理由は何か。
  • 示談がまとまる見込みはどの程度か。
  • 示談がまとまらなかった場合、用意したお金はどう扱われるか。
  • お金の受け渡しはどの方法で行い、受領を示す書面は出るか。
  • 示談金とは別に、弁護士費用や保釈保証金の負担も求められているか。


 示談が成立しても、それだけで不起訴が約束されるわけではありません。事件の内容によっては、示談が成立したうえで起訴されることもあります。示談金は被害者に支払うお金であり、処分の結果にかかわらず戻ってくるものではないため、この点を理解したうえで判断することが大切です。示談と処分の関係については、示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で詳しく解説しています。
 お金の渡し方も確認しておきたい点です。被害者に直接渡すのではなく、弁護人の預り金口座に振り込み、弁護人から被害者側に支払われる流れが一般的です。誰がいくら出したのかが後から分かるよう、振込の控えや弁護人からの受領書を残しておきましょう。残しておきたい書面については、示談金の渡し方|振込名義・領収・受領証で残すべきものもあわせてご覧ください。

立て替えるなら「貸した」ことを書面に残す

 立て替えたお金を後で返してもらうつもりであれば、そのことを書面にしておくことが重要です。口頭だけの約束では、後になって「もらったものだと思っていた」「交際中にしてくれた援助だ」と言われ、返済をめぐって争いになることがあります。書面には、次のような事項を入れておくとよいでしょう。

  • 貸した日と金額。
  • 示談金に充てるためのお金であること。
  • 返済の方法(一括か分割か、分割の場合は毎月の金額)と期限。
  • 貸した側と借りた側の署名。


 本人が勾留されている間は、署名をもらう方法が限られます。郵送や面会時の差入れで書面を届け、署名したものを返送してもらうといった方法が考えられます。このとき注意したいのは、本人の弁護人は本人の弁護をする立場であり、立て替える側の代理人ではないという点です。返済条件について自分の側の利益を守りたい場合には、別の弁護士に相談することも検討に値します。
 また、自分も手元にお金がないからと、消費者金融などから借りて用意することは慎重に考えてください。本人からの返済が滞っても、自分が借りた分の返済と利息の負担は続きます。自分の生活が立ち行かなくなるほどの金額であれば、出さないという判断も十分に合理的です。
 なお、交際関係が終わったからといって、貸したお金を返さなくてよくなるわけではありません。返済を求めるときの考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。

断るときは、示談をあきらめる以外の道もあると知っておく

 立て替えを断ることは、交際相手を見捨てることと同じではありません。自分の生活や貯蓄に照らして無理があると感じたら、断ってよいのです。
 示談金を一度に用意できない場合でも、被害者側に分割での支払いを打診する、本人の収入や財産から用意できる範囲で被害弁償を申し出る、被害者が示談に応じない場合には贖罪寄付を検討するなど、弁護人が取れる手段はほかにもあります。詳しくは、示談金を一括で用意できないとき|分割・減額・被害弁償という選択肢や贖罪寄付の申込み方と領収書の扱いをご覧ください。
 断る際は、責める言葉を重ねるよりも、「金額が大きく、自分の生活を考えると出せない」と理由を短く伝えるほうが、その後の関係にも響きにくいでしょう。面会で直接伝えにくい場合は、弁護人を通じて本人に伝えてもらう方法もあります。
 お金を出さなくても、面会や手紙で本人を支える、裁判になった場合に情状証人として出廷するなど、交際相手としてできることはあります。交際相手の立場でできることの全体像は、【刑事事件】交際相手が逮捕された|交際相手の立場でできることで整理しています。

よくあるご質問


示談金を立て替えると、自分も事件に関わったことになる?

 弁護人を通じて被害者への賠償に充てるお金を出すことで、事件に関与したと扱われることは通常ありません。ただし、立て替えを理由に被害者へ直接連絡を取ることは、本人の不利に働いたり新たなトラブルを招いたりするおそれがあります。被害者とのやり取りは弁護人に任せましょう。

保釈保証金も一緒に出してほしいと言われた

 保釈保証金は、起訴された後に保釈が認められた場合に裁判所に納めるお金で、示談金とは別のものです。保釈の条件を守って裁判が終われば原則として返還されますが、条件に違反すると没取されるおそれがあります。返ってくる可能性がある点で示談金とは性格が異なるため、分けて考えることが大切です。詳しくは、保釈保証金は何で決まるのか|返ってくる条件と返ってこない場合をご覧ください。

示談金ではなく、弁護士費用の立て替えを頼まれた場合は?

 私選弁護人の費用も本人が負担するのが原則で、交際相手に支払う義務はありません。国選弁護人であれば、本人に資力がないなど一定の要件のもとで国の費用により弁護人が選ばれる仕組みがあり、私選に切り替えるかどうかで必要なお金は大きく変わります。違いについては、国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのかをご覧ください。考え方は示談金と同じで、金額と内訳を弁護士から直接確かめ、貸すのであれば書面に残しておくことが基本になります。

立て替えた後に別れた場合、返してもらえる?

 貸したお金であれば、別れた後も返済を求めることができます。ただし、貸したのか、あげたのかで争いになると、やり取りの記録や書面の有無が重要になります。立て替えの時点で書面を作れなかった場合でも、返済を約束するメッセージや振込の記録は消さずに残しておきましょう。

 交際相手が逮捕されたときは、気持ちが揺れる中で大きなお金の判断を迫られがちです。誰からの依頼なのか、お金がどう使われ、戻ってくる見込みがあるのかを一つずつ確かめれば、応じる場合も断る場合も、後悔の少ない選び方に近づきます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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