「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界
鍵に関する道具や工具を持っていたところ、警察官から声をかけられ、その場で説明を求められた。何かをしたわけではないのに、なぜ持っているだけで問題になるのか。そう感じてご相談に来られる方は少なくありません。
特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(平成15年法律第65号。ピッキング防止法と呼ばれることもあります)は、道具を持っている段階そのものを規制の対象としています。何かに使ったかどうかではなく、その道具を持っていた状況をどう説明できるかが問われる場面が出てきます。
この記事では、この法律が何を禁じているのか、どこで線が引かれているのか、そして「業務その他正当な理由」がどのように判断されるのかを、警察庁の通達(平成15年8月1日付け)が示している考え方も踏まえて整理します。
こうした場面でのご相談が寄せられます
次のような状況で、ご本人やご家族からご相談をいただくことがあります。
・深夜に車で移動していたところ職務質問を受け、車内に積んでいた工具について説明を求められた
・趣味や好奇心から通販でピッキング用の道具を購入し、自宅に届いた後で規制の存在を知った
・仕事で使う工具を鞄に入れたまま私用で出歩いていて、持ち物の確認を受けた
・別の事件について事情を聴かれている中で、所持していた道具についても質問が及んだ
軽犯罪法では届かなかった部分を埋めるためにできた法律
侵入に使われる道具の携帯は、この法律ができる前から軽犯罪法1条3号が規制していました。正当な理由がなくて、合かぎ、のみ、ガラス切りその他他人の邸宅または建物に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯する行為です。ただし、この罪の法定刑は拘留または科料にとどまります。
警察庁の通達は、この点について、法定刑が拘留または科料にとどまるため刑罰の威嚇力による抑止の効果が十分ではなく、加えて刑事訴訟法上も被疑者の逮捕および勾留に制約があり、取締りを行ううえでも十分ではなかったと説明しています。そこで、侵入に結び付く危険性が特に高い道具を切り出し、独立した法律で規制することになりました。
この法律は、軽犯罪法では届かなかった部分、すなわち法定刑の軽さと、身体拘束を伴う手続に乗せにくい構造を埋めるために作られています。「持っていただけ」の段階で捜査の対象になり得ることは、立法の時点から想定されていた枠組みだといえます。
二つの禁止は同じ形をしていない
この法律の中心にあるのは3条と4条ですが、禁じている行為の形が異なります。
| 条文 | 禁止される行為 | 対象となる物・罰則 |
|---|---|---|
| 3条 | 所持すること | 特殊開錠用具(ピッキング用具など4種類) |
| 4条 | 隠して携帯すること | 指定侵入工具(ドライバー・バール・ドリル) |
| 16条 | 3条・4条に違反した場合 | 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
分かれ目は、対象となる物の性質にあります。特殊開錠用具は日常生活での用途が想定しにくいため、所持それ自体が禁じられています。これに対して指定侵入工具は日用品でもあるため、「隠して携帯する」という態様に絞って規制されています。手元に置いていること自体が禁じられているわけではありません。
なお、令和7年6月1日から懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されました。それ以前に書かれた解説では「1年以下の懲役」と表記されていることがありますが、指している刑の重さは同じです。
特殊開錠用具として挙げられている四種類
施行令1条は、特殊開錠用具として次の四つを挙げています。
・ピッキング用具
・破壊用シリンダー回し
・ホールソーのシリンダー用軸
・サムターン回し
いずれも「専ら……するための器具」という形で定義されています。通達によれば、これは、そうすることを目的として設計され、製造されたという意味です。結果的にシリンダーを回転させられるというだけでは足りず、その用途に向けた大きさ・形状・構造を備えていることが必要とされます。
一方で、市販品に限られるわけではありません。手製の道具も少なくないため、対象に当たるかどうかは、錠取扱業者の協力を得て実際に開錠できるかを確かめる形で判断されることもあります。
「所持」は持ち歩くことに限らない
3条の「所持」について、通達は、ある人が物を事実上支配していると認められる状態を指し、現実に携帯している必要はないとしています。家屋内に保管している場合も、他人に預けて保管させている場合も所持に当たります。
準備行為として製造したり入手したりすれば、その時点で所持が成立するとされています。通販で購入して受け取り、自宅に置いたままにしている状態も、3条が対象とする所持に当たり得ます。
なお、4条の「携帯」は所持の一態様であり、所持に包含される関係にあります。
指定侵入工具は寸法で線が引かれている
施行令2条は、指定侵入工具を三種類挙げ、それぞれ規格を定めています。
| 工具 | 規格 |
|---|---|
| ドライバー | 先端部が平らで、その幅が0.5センチメートル以上、かつ長さが15センチメートル以上のもの |
| バール | 作用する部分のいずれかの幅が2センチメートル以上、かつ長さが24センチメートル以上のもの |
| ドリル | 直径1センチメートル以上の刃が附属するもの |
先端部が平らなドライバー、いわゆるマイナスドライバーが対象で、プラスドライバーはここに含まれません。幅は、作用する部分の最も先端の部分の幅を指します。バールには、かじややL字型のくぎ抜きも含まれます。バールの幅は作用する部分の最も広い部分で測り、長さは最も長い直線状の部分の方向に沿った両端部間の距離で測るため、屈曲に沿わせて測るわけではありません。
分解して持っていれば規格から外れる、というものでもありません。小型のドライバーと専用の柄を別々に携帯していても、柄を取り付けたときの全体の長さが15センチメートル以上であれば規格を満たします。ドリルについても、刃を本体に取り付けずに別に携帯している場合が「刃が附属する」に当たるとされています。
「隠して」「携帯」とはどのような状態を指すのか
通達は、「隠して」を、他人が通常の方法で観察した場合にその視野に入ってこないような状態に置くことと説明しています。服のポケットの中、上着の内側、鞄や袋の中に入れている場合が挙げられています。
「携帯」については、直ちに使用できるような状態で自己の支配下に置いていれば足りるとされています。工具を入れた鞄を自動車の後部座席に載せて運転している場合や、仲間に持たせて同道している場合も含まれます。これは、銃砲刀剣類所持等取締法の「携帯」について、自宅ないし居室以外の場所において身辺に置くことをいうとした東京高裁昭和31年7月18日判決の考え方と同様に解されています。
「業務その他正当な理由」はどう判断されるのか
3条も4条も、「業務その他正当な理由による場合を除いては」という限定が付いています。通達は、それぞれについて例を挙げています。
3条の例としては、特殊開錠用具の製造・輸入・販売業者が業務のために所持する場合、建物錠の製造・輸入業者が防犯性能の試験研究のために所持する場合、錠取扱業者が業務のために所持する場合、裁判所の執行官が強制執行の際に錠取扱業者に開錠を行わせる場合が挙げられています。
4条の例としては、大工が業務のために工具箱に入れて持ち歩く場合、自動車の修理に用いるため工具入れに入れて運転する場合、機械の修理や引越しのために携帯する場合が挙げられています。
判断は、職業や所持の状況といった客観的な要素と、認識・動機・目的といった主観的な要素を総合的に勘案して行われます。書面が一枚あれば足りるという性質のものではなく、その日その場面で持っていたことの説明が筋の通ったものかどうかが見られる、と理解しておくのが実際に近いといえます。
説明はどのように確かめられるのか
通達は、正当な理由の有無を判断する際の着眼点として、次の点を挙げています。
1. 共に携帯している物品
2. 職業
3. 時間的・場所的な合理性
4. その他の言動や周囲の状況
具体例として通達が挙げているのは、次のような場面です。
・パソコンの修理に向かうと説明しながら、バール、軍手、懐中電灯を併せて持っている
・錠取扱業者だと説明しながら、建物錠のストックやカタログを持っていない
・営業所から不自然に遠く離れた場所で所持している
・氏名や住所について事実と異なる申立てをする
職業は有力な判断材料の一つですが、決定打ではないとされています。錠取扱業者であっても、業務と無関係な所持であれば3条違反を構成し得ますし、そうした職業でなくても正当な理由が認められる場合はあります。
持っていただけで逮捕されることはあるのか
刑事訴訟法199条1項ただし書と217条は、30万円以下の罰金、拘留または科料に当たる罪について、逮捕や現行犯逮捕に制約を設けています。軽犯罪法1条3号は拘留または科料ですから、この制約が及ぶ範囲にあります。
これに対して、この法律の16条は1年以下の拘禁刑を選択刑に含むため、その制約は及びません。持っていた事実を理由に、通常の身体拘束を伴う手続に進む余地があります。もっとも、逮捕は集められた資料に基づく判断として行われるものであり、道具の規格や所持の態様、その場での説明の内容によって扱いは変わります。
なお通達は、この法律の規定が職務質問の要件を緩和したり、許容される範囲を広げたりするものではなく、警察官職務執行法2条の規定に則り、相手方の任意の協力を得て行うべきことも述べています。
侵入や窃盗が問題になっている場合との関係
この法律の罪は、侵入犯罪の予備罪という位置づけではありません。そのため、侵入犯罪が成立したとしても、そこに吸収されるわけではないとされています。ピッキング用具を用いて建物に侵入し、窃盗に及んだ場合には、3条違反と窃盗罪の双方が成立し、併合罪として扱われます。侵入事件で被疑者が検挙された際に、余罪として道具の所持が立件されることも視野に入れられています。
捜査が道具の点だけで終わらないことも多く、関係する場所の捜索差押え、余罪の追及、共犯者の割り出し、入手先の追及へと及ぶことがあります。事情を知りながら販売や授与をした側については15条があり、こちらは2年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科です。
目的は成立の要件ではないが、処分の見通しは目的で分かれる
通達は、4条について、犯罪の用に供する目的があることは犯罪の成立の要件とはされていないが、その目的の有無は被疑者の処分に大きく影響するので捜査を十分に行うように、と述べています。
つまり、成立するかどうかの場面と、どのような処分になるかの場面とで、目的の位置づけが異なります。取調べで用途や入手の経緯、当日の行動が細かく聞かれるのはこのためです。この段階で事実と異なる説明をしてしまうと、後から訂正するのが難しくなり、目的の有無をめぐる評価にも影響します。
相談の前に整理しておきたいこと
ご相談をいただく際、次の点が整理されていると、見通しを立てやすくなります。
1. どの道具を、いつ、どこで入手したか(購入履歴や配送記録が残っていれば併せて)
2. 持っていた場所と状況(鞄の中か車内か、ほかに何を持っていたか)
3. 仕事や趣味との結び付き(業務の内容、資格、依頼や作業の記録)
4. 警察官にどのように説明したか、その場で書面に署名したか
5. 押収された物と、その際に受け取った書面
弁護士に相談する意味
この類型は、持っていた道具が規格に当たるのか、所持や携帯の態様がどう評価されるのか、正当な理由の説明が客観的な事情と噛み合っているのか、という当てはめの積み重ねで結論が動きます。取調べで作成される供述調書の内容、押収された物の取扱い、ご家族への連絡、侵入や窃盗の疑いが併せて向けられている場合の対応など、早い段階で確認しておきたい点も重なります。判断に迷う場面があれば、事実関係を整理したうえで弁護士に相談することをご検討ください。
まとめ
・特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律は、軽犯罪法1条3号では届かなかった部分を埋めるために作られた
・3条は特殊開錠用具の所持を、4条は指定侵入工具を隠して携帯することを禁じている
・違反した場合の法定刑は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
・「所持」は持ち歩くことに限らず、自宅での保管や入手した時点でも成立し得る
・指定侵入工具は寸法で線が引かれており、分解して持っていても規格を満たすことがある
・「業務その他正当な理由」は、客観的な要素と主観的な要素を総合して判断される
・16条には逮捕の制約が及ばないため、所持の段階で身体拘束を伴う手続に進む余地がある
・犯罪に使う目的は成立の要件ではないが、処分の見通しには影響する
道具そのものは市販されているものも多く、規制の存在を知らないまま手元に置いていたという経緯も実際にあります。ご自身の状況が法律のどこに当たるのかを早い段階で整理しておくことは、その後のやり取りの見通しを立てるうえで意味を持ちます。


