【刑事事件】元恋人に感情的なメッセージを送ってしまった、脅迫になる?
デートの途中で、いつもなら酔わない量なのに急に強い眠気が来た、体が思うように動かなかった、気がついたら記憶が途切れていた。こうした経験の後で「飲み物に何か入れられたのではないか」と不安になる方は少なくありません。一方で「自分が飲みすぎただけかもしれない」「大ごとにしたくない」と考えて、誰にも話さないまま時間が過ぎてしまうこともあります。この記事では、飲み物に薬などを入れられた疑いがあるときに、当日から数日のうちにしておきたいこと、相談先、問題になり得る罪、その後の手続の流れを整理します。
この記事は、2023年7月施行の刑法改正(不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の新設)と、2025年6月施行の拘禁刑の導入を反映した内容で記載しています。個別の事情によって取れる手段は変わりますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
「何か入れられたかもしれない」と感じるのはどんなときか
内閣府男女共同参画局は、睡眠薬などを飲み物や食べ物に混ぜて相手の意識をもうろうとさせ、抵抗できない状態にして性的な行為に及ぶ被害が起きていることを注意喚起しています。そのうえで、被害の後に振り返ったとき、次のような「いつもと違う」感覚があったかどうかを確かめるよう呼びかけています。
- いつもなら酔わない量なのに、酔いの回りがとても早かった。
- 急に耐えられないほどの眠気が来た。
- 体が思うように動かず、だるさや気持ち悪さがあった。
- 意識がもうろうとした。
- 記憶がない、または途切れ途切れであいまいだ。
- 記憶はないが、普段はしないような行動をしていたようだ。
薬の影響による場合、体は普通に動いて会話もできているのに、後から記憶が抜け落ちていることがあると言われています。そのため、本人は「お酒のせいだ」と考えて自分を責めてしまいがちです。しかし、相手が抵抗できない状態を作り出し、あるいはその状態に乗じて性的な行為をすることは、性別を問わず刑法の処罰の対象となり得ます。お酒を飲んでいたことは、被害を相談できない理由にはなりません。
当日から数日のうちにしておきたいこと
まず安全な場所に移り、体調を優先する
相手と一緒にいる場合は、トイレや店のスタッフ、友人への連絡などを使って、まず相手から離れることを考えてください。強いふらつきや吐き気、呼吸の異常などがあるときは、証拠のことよりも先に医療機関を受診することが優先です。内閣府も、場合によっては生命にかかわる健康障害を引き起こすおそれがあるとして、早めの受診を勧めています。受診の際には、普段と違う症状があること、飲み物に何か入れられた可能性があることをそのまま伝えると、必要な検査につながりやすくなります。
検査はできるだけ早く受ける
薬物によっては、摂取から数時間から数日(3日前後)で体の外に出てしまうとされています。尿や血液から成分を確認できるかどうかは、検査までの時間に大きく左右されます。後で警察に相談するかどうかを決めていない段階でも、検体だけは早めに確保しておくという考え方があります。警察や、後で紹介するワンストップ支援センターでは、検査について相談できるほか、一人で行くのが不安な場合に同行してもらえることもあります。
妊娠の心配がある場合は、被害から72時間以内であれば緊急避妊薬で多くの場合に望まない妊娠を防げるとされています。性感染症の検査も含めて、医療機関に早めに相談してください。
手元に残しておきたいもの
証拠になり得るものは、時間が経つと失われたり、気づかないうちに処分してしまったりします。次のものは、できる範囲で手を付けずに残しておくことが勧められています。
- 飲んだもの・食べたものの残り(グラスや食器は洗わない)。
- 当日着ていた衣服や下着(洗わずに袋に入れて保管する)。
- 店のレシートやカードの利用明細、交通系ICカードの履歴。
- 相手とのメッセージや通話の履歴(削除せず、画面の写真も残す)。
- 当日の行動を思い出せる範囲で書いたメモ(時刻・場所・覚えている会話)。
- 店名や場所、同席していた人の名前や連絡先。
飲食店や駅の防犯カメラの映像は、比較的短い期間で上書きされることがあります。ただし、映像の保全を個人で店に求めても応じてもらえないことが多いため、警察に相談したうえで捜査として確保してもらうのが現実的です。マッチングアプリで知り合った相手の場合は、退会やブロックの前にやり取りを保存しておくことも大切です。保存の順序については【男女トラブル・マッチングアプリ】退会するとやり取りは消えるのか|証拠を残す順序、運営会社に残るデータについては【男女トラブル・マッチングアプリ】アプリ内のメッセージは後から取り寄せられるのか|保存期間と開示の限界で解説しています。
相談できる窓口
| 窓口 | 連絡方法 | 主に相談できること |
|---|---|---|
| 警察の性犯罪被害相談電話 | #8103(全国共通) | 被害の相談、検査、医療機関の紹介、医療費の公費負担などの制度の案内 |
| 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター | #8891(全国共通) | 医療・検査への同行や紹介、心理的な支援、弁護士への相談の紹介 |
| 性暴力に関するSNS相談「Cure time」 | 内閣府のウェブサイトから利用 | 文字で相談したい場合、夜間・休日の相談 |
| 医療機関(救急・産婦人科など) | 直接受診 | 体調の確認と処置、検査、緊急避妊、性感染症の検査 |
| 弁護士 | 法律事務所へ連絡 | 被害届・告訴の進め方、相手方とのやり取りの窓口、損害賠償の請求 |
警察に連絡すると、すぐに相手を処罰する手続が始まってしまうのではないかと心配される方もいます。実際には、相談の段階で被害届を出すかどうかを決めなければならないわけではなく、まずは状況を話して検査や今後の進め方について説明を受けることができます。相談・被害届・告訴・立件の違いは事件は『いつ』始まるのか|相談・被害届・告訴・立件の違いで整理しています。
飲み物に薬を入れる行為はどの罪にあたり得るか
どの罪が問題になるかは、何が入れられたか、その後に何が起きたか、相手の目的が何だったかによって変わります。代表的な場面を整理すると、次のようになります。
| 起きたこと | 問題になり得る罪 | 主な条文 |
|---|---|---|
| 眠らせた・意識をもうろうとさせた | 傷害罪 | 刑法204条 |
| 意識がもうろうとした状態で性交等をされた | 不同意性交等罪 | 刑法177条 |
| 意識がもうろうとした状態で体を触られた | 不同意わいせつ罪 | 刑法176条 |
| 意識がない間に裸などを撮影された | 性的姿態等撮影罪 | 性的姿態撮影等処罰法2条 |
| 眠っている間に財布や現金を取られた | 昏睡強盗罪 | 刑法239条 |
眠らせること自体が「傷害」と評価されることがある
睡眠薬などを飲ませて数時間にわたる意識障害を生じさせた行為について、最高裁判所は、人の生理的機能を害したものとして傷害罪にあたるという判断を示しています(最高裁平成24年1月30日決定)。そのため、性的な被害や金銭の被害がなかったとしても、眠らされたこと自体が罪として扱われる可能性があります。傷害罪の法定刑は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
性的な被害がある場合は不同意性交等罪・不同意わいせつ罪
2023年の刑法改正により、従来の準強制性交等罪・準強制わいせつ罪は、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に整理されました。新しい条文では、「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」によって、同意しない意思を形成・表明・全うすることが難しい状態にさせ、またはその状態に乗じて性的な行為をすることが処罰の対象として明記されています。相手が自分で薬を入れたかどうかがはっきりしない場合でも、薬物やアルコールの影響がある状態に乗じた行為であれば対象になり得ます。
法定刑は、不同意性交等罪が5年以上の有期拘禁刑、不同意わいせつ罪が6月以上10年以下の拘禁刑です。また、この改正で公訴時効も延長され、不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年とされています。条文の8つの要因の読み方はどの類型で立件されているのか|不同意性交等罪の8つの要因の読み方で解説しています。
飲む前に気づいた・何も起きなかった場合
飲み物の色や味がおかしいと気づいて口にしなかった場合や、体調の変化はあったものの何も被害がなかったと考えられる場合でも、相談すること自体は可能です。どの罪にあたるか、立件できるかは混入されたものの種類や行為の目的によって判断が分かれますが、相手が同じことを繰り返している可能性もあります。残っている飲み物があれば、捨てずに容器ごと保管して警察に相談することを検討してください。
警察に相談した後の流れ
被害を申告する方法には、被害の事実を届け出る「被害届」と、犯人の処罰を求める意思を示す「告訴」があります。性犯罪では、被害者の意思を確認しながら捜査が進められるのが一般的です。告訴をする場合は、いつ・どこで・何があったかを時系列で整理した書面を作っておくと、記憶があいまいな部分とはっきりしている部分を分けて伝えやすくなります。書き方の考え方は告訴状はどう書くのか|受理されやすい書き方と添付資料をご覧ください。
記憶がないことや証拠が少ないことを理由に、すぐには受理されないこともあります。その場合でも、検査結果や時系列のメモ、メッセージの履歴を整えて改めて相談することで、対応が変わることがあります。受理されなかったときの考え方は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることで解説しています。
相手が起訴された場合、被害者には、一定の範囲で公判に出席して意見を述べたり質問をしたりできる被害者参加制度や、刑事裁判の手続の中で損害賠償を求める損害賠償命令制度があります。詳しくは被害者参加制度|法廷でできることとできないことと損害賠償命令制度|刑事裁判の中で賠償を求める方法をご覧ください。
相手への対応で気をつけたいこと
「本当に入れたのか確かめたい」という気持ちから、相手に直接問いただしたくなることもあると思います。ただ、問い詰める連絡をすると、相手がメッセージを消したり口裏を合わせたりして、後の確認が難しくなるおそれがあります。また、相手が逆に「言いがかりをつけられた」と主張してくることも考えられます。相手への連絡は、警察や弁護士に相談してからにするほうが安全です。
被害を申告した後、相手やその弁護士から「謝罪したい」「示談をしたい」と連絡が来ることがあります。示談に応じるかどうか、どのような条件にするかは被害者が決めることで、すぐに返事をする必要はありません。ご自身で直接やり取りをすることに不安がある場合は、弁護士を窓口にすることで、相手と顔を合わせずに話を進めることができます。被害の後も連絡やつきまといが続く場合は、【ストーカートラブル】マッチングアプリで一度会った相手が付きまとう|交際していなくても使える手段と、相手の情報が少ないときの進め方も参考にしてください。
民事で求められること
刑事手続とは別に、相手に対して不法行為に基づく損害賠償を求めることができます。対象になり得るのは、治療費や検査費、通院のための交通費、仕事を休んだことによる減収、精神的な苦痛に対する慰謝料などです。撮影された画像や動画がある場合は、その削除や拡散しないことの約束を求めることも考えられます。
損害賠償の請求には期限があり、損害と加害者を知った時から一定の期間が経つと請求できなくなります。被害の内容によって期間の考え方が異なるため、時間が経っている場合は早めに確認しておくことをお勧めします。
よくあるご質問
自分もお酒をかなり飲んでいました。それでも相談できますか
相談できます。飲酒していたかどうかにかかわらず、薬物やアルコールの影響がある状態に乗じた性的な行為は処罰の対象になり得ます。普段の飲酒量や、その日に飲んだ量をできる範囲で伝えると、検査結果と照らし合わせて状況を判断する材料になります。
検査で違法な薬物が出たら、自分が罪に問われませんか
薬物の使用罪は、薬物であることを認識して使ったことが前提になります。知らないうちに飲まされた場合には、通常は罪に問われる場面ではありません。事情をありのまま説明することが大切です。知らずに摂取した場合の考え方は【刑事事件】指定薬物と知らずに使った|知らなかったことはどう評価されるかでも解説しています。
数日以上たってしまいました。もう遅いでしょうか
検査で成分を確認するのは難しくなることがありますが、相談できなくなるわけではありません。メッセージの履歴や店の利用記録、周囲の人の話など、時間が経っても残っている材料はあります。内閣府も、証拠が残っていない場合や72時間以上たった場合でも相談を諦めないよう呼びかけています。
警察に届けるか決めていませんが、弁護士に相談してもいいですか
問題ありません。警察に届けた場合に何が起きるのか、届けない場合にどのような手段が残るのかを聞いたうえで判断することができます。相談したことが相手に伝わることはありません。
弁護士に相談するということ
飲み物に何かを入れられたかもしれないという出来事は、記憶があいまいなことも多く、何から手を付ければよいか分からなくなるのが自然です。弁護士に相談すると、手元の材料で何が言えるかの整理、被害届や告訴の準備、警察とのやり取りの調整、相手方からの示談の申入れへの対応、損害賠償の請求などを、状況に合わせて進めることができます。医療や心理的な支援はワンストップ支援センターなどの専門機関と分担しながら、法的な手続の部分を担うという関わり方もあります。
体調と安全を最優先にしながら、検査と記録の確保をできるだけ早く進めること、そして一人で抱え込まずに相談することが、後の選択肢を残すことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


