【親子問題】親が施設に入る費用を、同居の子が出し渋る場合は?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

親が介護施設への入所を考えはじめたとき、同居している子が費用の話になると首を縦に振らない、というご相談は少なくありません。「親の年金や貯金を施設に回すと自分の生活が立ち行かなくなる」「家を手放すことになるのではないか」など、子の側にも言い分がある場合が多く、話し合いが平行線のまま入所の時期だけが近づいてしまうこともあります。

 この記事では、施設の費用を誰がどこから出すのが原則なのかを整理したうえで、同居の子が出し渋る場面ごとに、親やほかの家族がとれる対応を解説します。

介護保険の負担軽減制度の要件や金額は改定されることがあり、自治体によって運用が異なる部分もあります。この記事は2026年11月時点の一般的な内容をまとめたものです。具体的な金額や手続は、お住まいの市区町村や地域包括支援センターでご確認ください。


「出し渋る」の中身を3つに分けて考える

 同じ「出し渋る」でも、何を出さないのかによって、使える手立ては大きく変わります。まずは、いまの状況がどれに近いかを確かめるところから始めます。

  • 子が管理している親名義の預貯金や年金を、施設の費用に回すことを拒んでいる場合。
  • 子自身の収入や貯金から費用を出すよう求められて、子が断っている場合。
  • 費用の問題を理由に、子が施設への入所そのものに反対している場合。


 1つ目は親自身の財産の問題、2つ目は扶養義務の問題、3つ目は親本人の意思決定の問題です。実際には複数が重なっていることも多いため、順に見ていきます。

施設の費用は、まず親自身の財産から支払うのが原則

 施設に入るのは親本人であり、入所契約の当事者も原則として親本人です。費用は親の年金や預貯金、不動産などの財産から支払うのが基本で、子が自分の財産から当然に負担しなければならないものではありません。

 裏を返せば、親名義のお金を施設の費用に使うかどうかを決めるのは、判断能力がある限り親本人です。同居の子が「そのお金は生活費に必要だ」と考えていたとしても、親の財産の使い道を子が決める権限があるわけではありません。

子が親の通帳やカードを預かっている場合

 親が子に通帳やキャッシュカードの管理を任せていた場合、それは親から子への依頼(委任)にあたると考えられます。委任はいつでも終わらせることができ(民法651条1項)、管理を任されていた子は、そのために受け取っていた物を親に引き渡す必要があります(民法646条1項)。

 返してもらえないときは、金融機関に事情を伝えて、カードの利用停止や通帳・カードの再発行を相談する方法もあります。具体的な対応は【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応で解説しています。親名義の口座から説明のつかない引き出しがある場合は、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道もあわせてご覧ください。

親の判断能力が落ちてきている場合

 認知症などで親の判断能力が低下していると、親自身が入所契約を結んだり、子に管理の終了を求めたりすること自体が難しくなります。この場合は、家庭裁判所に成年後見人などの選任を申し立てることが選択肢になります。後見人が選ばれれば、後見人が親の財産を管理し、施設の契約や費用の支払いを親のために行います。

 申立てができるのは本人、配偶者、4親等内の親族などで、同居していない子やきょうだいからも申し立てることができます。親族の協力が得られない事情があるときは、市区町村長が申し立てる仕組みもあります。判断能力が保たれているうちであれば、信頼できる人と任意後見契約を結んでおく方法も考えられます。

子自身のお金は、どこまで求められるのか

 民法は、直系血族は互いに扶養する義務があると定めています(民法877条1項)。成人した子も、親に対して扶養義務を負います。

 ただし、成人した子が親に対して負う扶養義務は、一般に、自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で援助すれば足りるもの(生活扶助義務)と理解されています。子自身や子の家族の生活を切り詰めてまで施設の費用を出す義務までは、通常は認められません。同居しているかどうかで、この義務の程度が当然に変わるわけでもありません。

場面子に負担を求められるか考え方
親の年金・預貯金で費用がまかなえる求める必要は乏しいまず親の財産から支払うのが原則
親の財産では足りず、子に十分な収入がある余力の範囲で求められる余地がある金額や方法は話し合いで決め、まとまらなければ家庭裁判所が定める
子自身の生活に余裕がない求めるのは難しいことが多い公的な負担軽減制度などの検討が中心になる


 扶養の程度や方法について当事者の話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所が事情を考慮して定めます(民法879条)。実際には、親や親を支える家族が家庭裁判所に扶養請求の調停を申し立て、子の収入や生活状況を踏まえて話し合う流れになります。きょうだいが複数いる場合は、同居の子だけでなく、ほかのきょうだいの負担も含めて調整されます。扶養義務の考え方は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかでも解説しています。

出し渋りの背景にある事情に目を向ける

 同居の子が費用を出し渋る背景には、お金以外の事情が隠れていることがあります。よく見られるのは次のような事情です。

  • 親の年金を自分の生活費にあてており、入所後の暮らしの見通しが立たないこと。
  • 親が入所すると、住んでいる家を売却されたり、出ていくよう求められたりするのではないかという不安。
  • 将来の相続で受け取る財産が減ることへの懸念。
  • 親を施設に預けることへの気持ちのうえでの抵抗。


 とくに子が親の年金に頼って暮らしている場合、施設の費用の話は子にとって自分の生活の問題でもあります。費用の話だけを進めると反発が強まるおそれがあるため、入所後に子の生活をどう組み立てるかを並行して考えることが欠かせません。この点は【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計や【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのかも参考になります。

親のお金を使わせないことが、虐待にあたる場合もある

 同居して親の世話をしている子が、親の年金や預貯金を親のために使わせず、必要な介護や施設入所を妨げている場合、高齢者虐待防止法でいう経済的虐待や、世話の放棄にあたる可能性があります(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律2条4項)。

 このような状況では、市区町村の高齢者福祉の窓口や地域包括支援センターに相談することができます。行政が事実を確認し、必要に応じて親の保護や成年後見の申立てにつなげることもあります。行政の動き方は【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。きょうだいの一人が親の財産を使っている疑いがある場合は、【親子問題】親が高齢で、きょうだいの一人が親の財産を使っているもご覧ください。

費用の負担を軽くする制度も確かめておく

 費用をめぐる対立は、負担そのものが軽くなることで和らぐこともあります。施設の種類によって使える制度が異なるため、次のような制度の対象になるかを確かめておくとよいでしょう。

  • 特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)。特別養護老人ホームなどの介護保険施設で、所得や預貯金が一定以下の方の食費・居住費の負担を軽くする制度。
  • 高額介護サービス費。1か月の介護サービスの自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度。
  • 高額医療・高額介護合算療養費制度。1年間の医療と介護の自己負担の合計が基準額を超えた場合に、超えた分が支給される制度。


 補足給付の判定では、本人と同じ世帯の人が住民税非課税かどうかも考慮されます。施設に入所して住民票を施設に移すと、同居していた子とは別の世帯として扱われるため、判定の結果が変わることがあります。ただし、配偶者の所得は世帯が分かれていても考慮されます。また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は補足給付の対象外です。住民票と世帯の考え方は【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いでも解説しています。

家を売って費用にあてたいが、子が住んでいる場合

 親名義の自宅を売却して施設の費用にあてたいのに、同居の子が住み続けていて売却を進められない、というご相談もあります。成人した子が親の家に家賃を払わずに住んでいる場合、法的には使用貸借(無償で物を借りる契約)と整理されることが多く、事情によっては親の側から終了を求められる余地があります。

 ただし、同居に至った経緯や子の生活状況によっては、すぐに退去を求めることが難しい場合もあり、退去後の住まいの手当ても必要になります。親が施設に入った後の実家の扱いについては、【親子問題】親が施設に入った後も実家に子が住み続けている|誰が退去を求められるのかで詳しく解説しています。

話し合いの前に、親の側で整えておきたいこと

 同居の子と費用の話をする前に、次のような準備をしておくと、話し合いが感情的な言い合いになりにくくなります。

  1. 年金額、預貯金、不動産など、施設の費用にあてられる親の財産を一覧にすること。
  2. 入所を考えている施設の種類と、入所時・毎月の費用の見込みを確かめること。
  3. 負担軽減制度の対象になるかを、市区町村や地域包括支援センターに確認すること。
  4. 親の財産で足りない額と期間を見積もり、子やきょうだいに求める範囲を具体的にすること。
  5. 入所後に同居の子がどこで、どのように暮らすかの見通しを立てること。


 親が一人で子と向き合うのが難しい場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員など、第三者に話し合いへ同席してもらうことも考えられます。

弁護士が親の代理人として間に入るという選択

 費用の問題が、子が親の通帳を手放さない、話し合いを持ちかけると強く反発するといった形で、親子関係そのものの問題になっている場合、家族だけで解決するのは難しいこともあります。

 当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、通帳などの返還や施設入所に向けた調整、成年後見の申立ての検討などを進めることがあります。あわせて自立支援カウンセラーと連携し、親の入所後に子が一人で暮らしていくための住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポートなども含めて支援しています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

 施設の費用をめぐる対立は、お金の問題に見えて、実際には入所後の親と子それぞれの暮らしをどう組み立てるかという問題であることが多くあります。親の財産、子の扶養義務、公的な制度を一つずつ確かめながら、親子のどちらの生活も立ち行く形を探っていくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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