【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令・通知に基づいて記載しています。介護保険の運用には自治体ごとの差がありますので、実際の取扱いはお住まいの市区町村の窓口にご確認ください。


ひきこもりの状態にある子と同居したまま、親の側が年齢を重ねていく。この形の家庭では、親が要介護の状態になった時点で、それまで家庭の中に収まっていた問題が、まとめて表に出てくることがあります。

 介護が必要になること自体は、どの家庭にも起こり得ることです。ただ、成人した子が同居し、その子の生活費も親の年金から出ていた家庭では、介護保険の利用が始まる局面で、家計・家事・住まいの三つが同時に揺らぎます。

 ここでは、親が要介護になったときに同居の子の生活に何が起きるのかを、介護保険の仕組みに沿って整理します。

介護保険の利用が始まると、家庭に第三者が入る

 介護保険のサービスを使うには、まず市区町村に要介護認定を申請するところから始まります。

申請から利用開始までの流れ


  1. 市区町村の窓口または地域包括支援センターに、要介護認定を申請します。
  2. 認定調査員が自宅を訪問して心身の状況を調査し、あわせて主治医の意見書が作成されます。
  3. 介護認定審査会の判定を経て、要支援・要介護の区分が通知されます。申請に対する処分は、原則として申請のあった日から30日以内に行うものとされています(介護保険法27条11項)。
  4. ケアマネジャーが居宅サービス計画を作成し、サービス担当者会議で提供するサービスの内容を確認します。


 地域包括支援センターは、介護保険法115条の46に根拠を持つ地域の相談窓口で、高齢者本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。

家を見る人が増えるということ

 認定調査員、ケアマネジャー、訪問介護の担当者、地域包括支援センターの職員と、家に入る人の数は着実に増えます。家庭の中だけで保たれてきた状態が、外から見える状態に変わるということでもあります。

 同居している子の存在を伏せたままサービスを組み立てることは、現実には難しくなります。ケアプランを作る側は、家族が家事をどこまで担えるかを前提に計画を立てるため、同居者の有無と状況は必ず確認されるからです。この局面で、長く続いてきた家庭の状況が初めて第三者の目に触れる、というご家庭は少なくありません。

介護保険は親のための制度であり、同居の子の生活は対象外

 ここが最も誤解の生じやすいところです。訪問介護には、身体に直接触れて行う「身体介護」と、掃除・洗濯・調理などの「生活援助」がありますが、いずれも介護を必要とする本人に対するサービスです。同居する子の生活を支える制度ではありません。

生活援助の範囲に含まれない行為


区分具体例
生活援助に含まれるもの本人の居室の掃除、本人の洗濯、本人のための一般的な調理、本人の日用品の買い物
生活援助に含まれないもの本人以外の家族に係る洗濯・調理・買い物、主として本人が使用する居室等以外の掃除、来客の応接
日常生活の援助に当たらないもの草むしり、ペットの世話、大掃除や窓ガラス磨き、家具の移動や模様替え


 この区分は、厚生労働省の通知(平成12年老振第76号の別紙)で「一般的に介護保険の生活援助の範囲に含まれないと考えられる事例」として示されているものです。主として家族の利便に供する行為や、家族が行うことが適当と判断される行為は、給付の対象から外れます。

 つまり、これまで親が担ってきた子の分の食事や洗濯は、ヘルパーが引き継ぐ仕事ではありません。親が動けなくなった分の家事を誰かが引き取ってくれるわけではなく、その部分は家庭の中に残ります。

同居家族がいる場合の生活援助の扱い

 生活援助は、利用者が単身であるか、同居している家族等の障害・疾病等の理由により、本人または家族が家事を行うことが困難である場合に行われるものとされています(平成12年厚生省告示第19号)。障害や疾病がない場合でも、同様のやむを得ない事情があれば対象になり得るとされています(平成12年老企第36号)。

 厚生労働省は、同居家族等がいることのみを判断基準として、一律機械的に支給の可否を決めないよう市町村に周知を求めています(平成19年12月20日 老健局振興課事務連絡)。自治体の運用でも、家族関係に修復が難しい深刻な問題があって援助が期待できない場合などを、やむを得ない事情の一つとして挙げている例があります。

 ただし、これは「同居の子がいても親への生活援助が認められる場合がある」という話であって、子の生活を支えるサービスが出るという意味ではありません。判断はケアマネジャーのアセスメントとサービス担当者会議を経て行われます。

親の収入で成り立っていた家計に、介護費用が乗る

 介護保険のサービスには、所得に応じて1割から3割の自己負担があります。施設に入所する場合は、これに加えて居住費と食費が原則として自己負担となります。いずれも、親の年金や預貯金から支出されるものです。

 同居の子の生活費が親の年金から出ていた家庭では、同じ財布から介護費用が先に引かれる形になります。収入は変わらないまま支出が増える形になります。

 ここで押さえておきたいのは、親の年金は親の財産だという点です。子の生活費に充てることが直ちに違法になるわけではありませんが、介護費用の支払いが優先される場面では、これまでどおりの金額を子に渡し続けることは難しくなります。

 低所得の世帯を対象に、施設の居住費・食費の負担を軽くする仕組み(負担限度額の認定)もありますが、判定には世帯の状況や預貯金額が関係します。世帯分離を含め、制度ごとに「世帯」の意味が異なるため、思いつきで住民票を動かす前に、市区町村の窓口で影響を確認しておくことをおすすめします。

親が入院・入所したとき、家に何が残るのか

 親が入院したり施設に入所したりすると、家には子だけが残ります。このとき問題になるのは、その家に住み続けられるかどうかです。

 持ち家であれば、名義は多くの場合が親です。固定資産税、火災保険料、水道光熱費の名義と引き落とし口座も、親のままになっていることが少なくありません。賃貸であれば、契約者が親で、家賃の支払いが親の口座から続いているという形が典型です。

 親が家を離れた後も支払いは発生し続けますが、それを誰がどの口座から払うのかが決まっていないまま滞納に至るケースがあります。介護そのものの手配に意識が向きがちですが、住まいに関わる固定費の支払い経路を確認しておくことは、子の生活の土台を守るうえで意味があります。

 なお、親が亡くなった後は相続の問題に移ります。子が住み続けられるかどうかは遺産の分け方と他の相続人の意向によって変わるため、親が元気なうちに方向性を決めておけるかどうかで選べる手立てが変わります。

支援者が入ることで、家庭内の状況が表に出る

 介護の関係者が定期的に家に入るようになると、これまで家族だけが知っていた状況が把握されるようになります。子から親への暴力や、金銭をめぐるやり取りが続いている家庭では、その点も例外ではありません。

虐待として扱われる可能性のある行為

 高齢者虐待防止法は、養護者による高齢者虐待として、身体的虐待、介護の放棄、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の五つを定めています。このうち経済的虐待は、養護者または高齢者の親族が高齢者の財産を不当に処分することや、高齢者から不当に財産上の利益を得ることを指します(同法2条4項2号)。

 親の年金や預貯金を子が管理し、親自身が必要な支出に使えない状態になっている場合、この類型に当たると判断されることがあります。生活費として受け取ってきた経緯があっても、介護が必要な親本人の生活が損なわれていると見られれば、評価は変わり得ます。

 ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員が虐待を受けたと思われる高齢者を発見したときは、市区町村への通報が求められます。通報を受けた市区町村がどのように動くのかは、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで整理しています。子からの暴力が続いている場合の初期対応については、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録もあわせてご覧ください。

 逆に、介護をしている側の行為が虐待と受け取られる場面もあります。その線引きは、介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任で扱っています。

親が判断できなくなると、相談できる人が変わる

 親子の問題について弁護士に依頼する場合、これまでは親自身が相談者であり依頼者でした。ところが、親が要介護の状態になり、認知機能の低下が進むと、親が自分で方針を決め、委任することが難しくなる場面が出てきます。

 この段階で検討されるのが、成年後見制度など、本人の判断を補う仕組みです。手続を本人が理解しきれない場合に家族がどこまで支えられるかについては、本人が高齢で手続を理解しきれない|家族が支えられる範囲をご覧ください。

 また、親が動けなくなったことをきっかけに、別居しているきょうだいが相談に来られることがあります。きょうだいが窓口になる場合にできること・できないことは、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで整理しています。そもそも成人した子を養う義務がどこまであるのかについては、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかが参考になります。

介護が始まる前後にしておきたいこと

 この局面で慌てずに済むかどうかは、事前の整理にかかっています。次の点は、介護保険の申請と前後して確認しておく価値があります。

  • 親の収入と支出を一覧にし、そのうち子の生活に充てている金額を把握しておきます。
  • 住まいの名義、固定資産税や光熱費の引き落とし口座、賃貸であれば契約者を確認しておきます。
  • 親の預貯金の出入りについて、誰がいつ何のために引き出したのかが後から分かる記録を残しておきます。
  • ケアマネジャーや地域包括支援センターに対して、同居の子がいることと、その生活状況を正確に伝えておきます。
  • 親の介護と子の自立は別の課題であることを、家族の間で共有しておきます。


 特に最後の点は見落とされがちです。介護が始まると家庭の関心は親の側に集まりますが、子の生活をどう組み立て直すかは、それとは別に検討しなければ前に進みません。どの窓口が何を担当するのかについては、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

よくあるご質問


ヘルパーに、同居している子の分の食事もお願いできますか

 介護保険の生活援助として行うことはできません。本人以外の家族に係る調理や洗濯、買い物は、生活援助の範囲に含まれないものとして通知に明示されています。保険外の自費サービスや民間の家事代行を別に手配する形になります。

同居の子がいることを伝えると、サービスが使えなくなりませんか

 同居家族がいることのみを理由に、一律機械的に支給の可否を決めないよう、国から市町村へ周知がなされています。家族が家事を行うことが困難な事情があれば、それを踏まえて判断されます。実情を伏せたまま計画を立てると、かえって実態に合わないケアプランになり、後から組み直す必要が生じます。

親の年金から子の生活費を出してきました。これは問題になりますか

 これまでの経緯だけで直ちに違法と評価されるわけではありません。ただし、親が要介護になった後も同じ金額が子に渡り続け、親本人の介護や生活に必要な支出ができなくなっている場合には、経済的虐待として扱われる可能性があります。金額と使途を記録に残し、親の生活に必要な費用を先に確保する形に組み替えておくことが現実的です。

ご相談をお考えの方へ

 親が要介護になる局面は、家庭の状況が外から見える形になる局面でもあります。介護保険の手続は親のために進みますが、同居する子の生活をどう立て直すかは、その枠組みの外に残された課題です。当事務所では、親側の代理人として子と向き合いながら、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、親と子の双方が生活を組み立て直せるように取り組んでいます。取り組みの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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