【親子問題】精神科の訪問看護を子に頼むことはできる?
本記事は2026年11月時点の制度をもとにしています。成年後見制度を見直す民法等の改正法が2026年6月に成立・公布され、2029年6月までに段階的に施行される予定です。任意後見についても一部見直しが含まれているため、手続を進める際は最新の取扱いをご確認ください。
「子には介護で苦労をかけたくない」「子に頼ると、かえってお金や住まいのことで揉めそうだ」。こうした理由から、介護を子に頼らずに老後を迎えたいと考える方は少なくありません。ただ、気持ちとして決めているだけでは、判断能力が衰えた後に希望どおり進まないことがあります。この記事では、子に介護を頼まないと決めた方が元気なうちに決めておきたいことと、その残し方を整理します。成人した子との関係に悩みを抱えるご家庭で、特に気をつけたい点にも触れます。
子に介護を頼まないことは、法律上問題になるのか
民法877条1項は、直系血族は互いに扶養をする義務があると定めています。親子は直系血族にあたるため、子には親を扶養する義務があります。もっとも、ここでいう扶養は生活に困ったときの経済的な援助が中心と理解されており、子が同居して身体の介護をすることまで義務づけるものではないと一般に考えられています。
そのため、親の側から「介護は子に頼まず、自分の年金や預貯金と介護サービスでまかなう」と決めることに、法律上の妨げはありません。問題になりやすいのは、決めたことが形になっていない場合です。介護が必要になってから話し合おうとすると、本人の判断能力が衰えていたり、同居している子や近くに住む子が成り行きで担うことになったりして、当初の希望とは違う形で進むことがあります。
扶養義務の考え方については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかでも説明しています。
元気なうちに決めておきたい5つのこと
どこで介護を受けるか、費用を何でまかなうか
まず決めておきたいのは、介護が必要になったときに自宅で暮らし続けるのか、施設への入居を考えるのかという大まかな方針です。自宅の場合は、介護保険の訪問介護やデイサービスなどを組み合わせることになります。介護保険のサービスを使うには、市区町村の窓口や地域包括支援センターで要介護認定を申請し、認定後にケアマネジャーがケアプランを作成するのが一般的な流れです。
あわせて、費用を自分の年金と預貯金からまかなう、自宅を売却して入居費用に充てるといった資金の出どころも決めておくと、子に負担を求める場面を減らせます。希望する施設の種類や、入居を考え始める目安(一人での入浴が難しくなったら、など)を書き留めておくのも一つの方法です。
お金の管理を誰に任せるか
介護そのものを子に頼まなくても、預貯金の出し入れや施設との契約、介護費用の支払いなど、お金の管理は誰かが担う必要があります。子に任せないのであれば、次のような契約で第三者に託す方法があります。
- 財産管理等委任契約:判断能力があるうちから、通帳の管理や各種の支払いなどを任せる契約。
- 任意後見契約:判断能力が不十分になったときに備えて、財産管理や介護・施設に関する契約を任せる人をあらかじめ決めておく契約。
- 見守り契約:任意後見が始まるまでの間、定期的な連絡や訪問で生活の様子を確認してもらう契約。
任意後見契約は公正証書で結ぶ必要があり(任意後見契約に関する法律3条)、判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が生じます。受任者は子に限らず、弁護士などの専門職や法人を選ぶこともできます。子は将来の相続人でもあるため、親のためにお金を使う場面で親と子の利益がぶつかりやすいという点も、受任者を選ぶ際の判断材料になります。
入院や施設入所の手続を誰に頼むか
入院や施設への入居の際には、身元保証人や緊急連絡先を求められることがあります。子に頼まない場合は、身元保証などのサービスを行う民間事業者と契約する方法もあります。こうした事業者については、2024年6月に国の関係省庁が「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を公表しており、契約内容や費用、預かり金の管理方法などを確認する際の目安になります。
なお、手術などの医療行為への同意は、任意後見人の権限には含まれないと一般に考えられています。延命治療や療養の場所についての希望は書面に残し、医師や信頼できる人と共有しておくことが大切です。
亡くなった後のことを誰に任せるか
任意後見契約は本人が亡くなると終了します。葬儀や納骨、施設利用料の精算、住まいの明け渡しといった死後の手続を子に頼まないのであれば、死後事務委任契約を結んでおく方法があります。ただし、財産を誰にどう分けるかは死後事務委任契約では決められないため、遺言と組み合わせて考えることになります。
子に何を、どこまで伝えるか
子に介護を頼まないと決めても、子との連絡を断つ必要はありません。「お金の管理は専門家と契約した」「介護が必要になったら施設に入るつもりでいる」といった方針だけでも伝えておくと、いざというときに子が戸惑ったり、契約した第三者と子との間で行き違いが起きたりするのを防ぎやすくなります。伝える範囲や時期は、子との関係に合わせて決めてかまいません。
成人した子との関係に悩みがある場合に気をつけたいこと
当事務所には、ひきこもりや家庭内暴力、お金の無心など、成人した子との関係に悩む親御さんからのご相談が寄せられます。こうしたご家庭では、介護をきっかけに問題が大きくなることがあります。
たとえば、働いていない子が「親の介護をする」と言って同居を続けようとしたり、介護費用の管理を理由に通帳や年金の受け取り口座を渡すよう求めたりする場面です。介護を担う人がお金の管理も握る形になると、親の側から使い道を確かめにくくなります。高齢者虐待防止法は、養護者や親族が高齢者の財産を不当に処分することも虐待にあたると定めており、状況によっては市区町村が対応に入ることもあります。
お金の管理を求められている場合は【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこと、高齢の親が被害を受けている場合の行政の動きについては【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで詳しく説明しています。親が要介護になった後の同居の子の生活については、【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのかもあわせてご覧ください。
このようなご家庭では、親が元気なうちに介護とお金の管理を子以外の第三者に託す形を整えておくことが、親自身の生活を守ることにつながります。一方で、親が亡くなった後に子の生活が立ち行かなくなるおそれもあるため、子の自立に向けた準備を並行して考えておきたいところです。この点は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで取り上げています。
決めたことの残し方
| 決めておくこと | 主な残し方 | 確認しておきたい点 |
|---|---|---|
| 介護の場所・費用の方針 | エンディングノート、家族あての書面 | 法的な拘束力はないが、本人の意思を伝える手がかりになる |
| お金の管理 | 財産管理等委任契約、任意後見契約 | 任意後見契約は公正証書で作成する |
| 入院・入所時の保証 | 身元保証などを行う事業者との契約 | 契約内容・費用・預かり金の管理方法 |
| 医療についての希望 | 書面に残し、医師や支援者と共有 | 体調や考えの変化に応じて見直す |
| 死後の手続 | 死後事務委任契約 | 必要な費用の預け方 |
| 財産の分け方 | 遺言 | 子には遺留分があること |
エンディングノートには法的な効力はありませんが、本人の考えを周囲に伝える手がかりになります。一方で、お金の管理や財産の分け方のように、第三者や子との関係で効力をもたせたいことは、契約や遺言の形にしておく必要があります。
弁護士に相談できること
弁護士には、財産管理等委任契約や任意後見契約、死後事務委任契約、遺言の内容を、ご本人の希望に合わせて組み立てる段階から相談できます。弁護士がこれらの契約の受任者となることもあります。
また、成人した子との間でお金や同居をめぐる対立がある場合には、弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、金銭の要求などに対応することもできます。当事務所では、自立支援カウンセラーと連携して子の自立を支える取り組みも行っています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
介護を頼まないなら、子に財産を残さなくてもよいのでしょうか
遺言で子以外の人に財産を残すことはできます。ただし、子には遺留分という最低限の取り分が認められており、遺言の内容によっては、子から遺留分に相当する金銭を請求されることがあります(民法1042条以下)。暴力などを理由に相続人から外す相続廃除という制度もありますが、認められる場面は限られています。詳しくは【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件をご覧ください。
すでに物忘れが出てきていますが、今から契約できますか
任意後見契約などを結ぶには、契約の内容を理解できる判断能力が必要です。物忘れがあっても契約できる場合はありますが、症状が進むと契約は難しくなり、家庭裁判所への申立てによる法定後見の利用を検討することになります。迷っている段階でも、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
子が「自分が介護する」と言って聞かない場合はどうすればよいですか
介護を誰に頼むかは、本人が決めることです。子の申し出を受け入れない場合でも、介護サービスや施設の利用、お金の管理を第三者に託す契約を先に整えておけば、本人の意思を形にしておけます。子との話し合いが難しい場合や、申し出の背景に金銭の要求がうかがえる場合は、弁護士を間に入れることも検討してください。
子に介護を頼まないという選択は、子を突き放すことではなく、親と子がそれぞれの生活を守るための準備でもあります。どの方法が合うかは財産の状況や子との関係によって異なりますので、元気なうちに一つずつ形にしていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


