【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るか
親が認知症と診断されると、日々の支払いや通院・介護の費用をどうするかが、すぐに現実の問題になります。同居している子が通帳やキャッシュカードを預かり、家計をまとめて回すようになるご家庭は少なくありません。一方で、「家族なのだから使ってよいのか」「後からきょうだいに何か言われないか」と不安を抱える方や、反対に、同居の子にお金を任せてよいのか迷っている親御さん・ご家族からのご相談もあります。
成年後見制度については、2026年6月に「民法等の一部を改正する法律」が成立・公布され、施行後は現在の「後見」「保佐」が廃止されて「補助」を基本とする仕組みに改められます。ただし、改正部分は本記事の公開時点ではまだ施行されておらず、施行日は今後政令で定められます。本記事は現行の制度を前提に説明しています。
この記事では、親が認知症になった後に同居の子がお金を管理することについて、法律上どのように考えられているのか、どのような方法で管理の形を整えられるのか、管理を担う場合に何に気をつけるとよいのかを順に整理します。
同居しているだけでは、親のお金を管理する権限は生まれない
まず押さえておきたいのは、親名義の預貯金や年金は、親子であっても親本人の財産だという点です。同居している、介護を担っている、生活費を出し合っているといった事情があっても、それだけで子が親の財産を管理・処分する法的な権限を持つことにはなりません。他人の財産を本人に代わって扱うには、本人から任されているか、家庭裁判所の手続などによって代理権が与えられているか、いずれかの根拠が必要になるのが原則です。
キャッシュカードを預かっていて暗証番号を知っているという状態は、事実としてお金を動かせるというだけで、引き出した後の使い道まで正当化するものではありません。実際には、親の承諾のもとで家族が日々の買い物や支払いを代行していることは多く、それ自体がただちに問題になるわけではありませんが、後で使い道を説明できる形にしておくことが大切です。
「認知症」と「判断能力がない」は同じではない
認知症と診断されたからといって、直ちに財産のことを何も決められなくなるわけではありません。症状の程度は人によって大きく異なり、軽度の段階であれば、自分のお金を誰にどう任せるかを理解して決められる場合もあります。どの方法を使えるかは、親の判断能力がどの程度残っているかによって変わります。
| 親の状態 | 主に検討できる方法 |
|---|---|
| 管理を任せる内容を自分で理解し、決められる | 金融機関の代理人登録、財産管理委任契約、任意後見契約、家族信託 |
| 日常の金銭管理に不安はあるが、支援の内容は理解できる | 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業 |
| 判断能力が低下し、契約の内容を理解することが難しい | 法定後見(後見・保佐・補助)、金融機関の限定的な対応 |
判断能力の見極めは家族だけでは難しいため、かかりつけ医などに相談し、診断書や医師の見解を手元に残しておくと、後の手続でも役立ちます。
親の判断能力が残っているうちに整えられる方法
金融機関の代理人登録・代理人カード
多くの金融機関では、本人が手続をすることで家族を代理人として登録し、代理人用のキャッシュカードを発行する仕組みを設けています。本人の届出によるものなので、判断能力が残っている段階で、本人と一緒に窓口で手続をすることが前提になります。取り扱いの有無や条件は金融機関ごとに異なるため、口座のある金融機関に事前に確認しておくとよいでしょう。
財産管理委任契約と任意後見契約
財産管理委任契約は、親が子に対して、預貯金の出し入れや各種の支払いなどの財産管理を任せる契約です。任意後見契約は、将来判断能力が低下したときに備えて、誰に何を任せるかをあらかじめ決めておく契約で、公正証書で作成する必要があります。任意後見は、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が生じ、監督人のもとで管理が行われます。
両者を組み合わせ、判断能力があるうちは財産管理委任契約で、低下した後は任意後見契約で管理を続けるという形がとられることもあります。いずれも、親自身が内容を理解したうえで結ぶことが前提です。
家族信託
家族信託は、親が自分の財産の一部を子に託し、子がその財産を親のために管理・運用する仕組みです。信託した財産については、親の判断能力が低下した後も、契約で定めた範囲で子が管理を続けられます。ただし、対象は信託した財産に限られ、設計によっては税務や相続の面での検討も必要になります。こちらも、親の判断能力が十分にあるうちでなければ結ぶことはできません。
判断能力が低下した後に使える方法
法定後見制度
親の判断能力が低下した後に、親に代わって財産を管理する権限を得るには、家庭裁判所に法定後見の開始を申し立てるのが基本の方法です。現行制度では、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれ、家庭裁判所が医師の意見などをもとに判断します。
申立ては本人、配偶者、四親等内の親族などができ、同居の子も申立人になれます。後見人等の候補者として子を挙げることもできますが、誰を選ぶかは家庭裁判所が決めるため、財産の状況や親族の意見によっては、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあります。子が後見人等に選ばれた場合は、親の財産を自分の財産と分けて管理し、家庭裁判所に定期的に報告することが求められます。また、親が住んでいる自宅を売却したり貸したりするには、別に家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。
金融機関の限定的な対応
後見人等がいない状態で親の預金を引き出そうとしても、本人の意思が確認できないとして、金融機関が応じないことがあります。全国銀行協会は2021年2月に、成年後見制度の利用を基本としつつ、本人の判断能力が失われていることや、医療費・介護費など本人のための支払いであることが確認できる場合には、極めて限定的に親族からの払出しに応じるという考え方を示しました。もっとも、実際にどこまで対応するかは金融機関ごとの判断であり、継続的に財産を管理する手段としては限界があります。
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業
市区町村の社会福祉協議会では、判断能力に不安のある方を対象に、福祉サービスの利用手続や日常的な金銭管理を手伝う事業を行っています。利用には本人が契約の内容を理解できる程度の判断能力が必要で、財産全体を管理する制度ではありませんが、家族だけで抱え込まずに第三者が関わる手段のひとつです。
同居の子が管理するときに問題になりやすい場面
親のための支出と、子自身のための支出の線引き
管理を任された子が使えるのは、原則として親本人の生活、医療、介護のための支出です。同居している場合、食費や光熱費などの家計が一緒になっていることが多く、どこまでが親の分なのかが曖昧になりがちです。親の財産から子自身の生活費や借金の返済、趣味や交際の費用を出すことは、親の同意が確認できない限り、後で問題にされるおそれがあります。
親から子への贈与
「親がくれると言った」という説明は、親族間でよく聞かれます。しかし、贈与も契約ですので、贈与の時点で親が内容を理解できていなかったと判断されれば、無効とされる可能性があります。判断能力の低下後にまとまった金額が子に移っていると、相続の場面で他のきょうだいから問題にされやすくなります。贈与を求められた側の考え方は、【親子問題】生前贈与を迫られている|断り方と記録の残し方でも整理しています。
きょうだいから使い込みを疑われる
親の財産を管理していた子が、親の死亡後に他の相続人から「使い込んだ分を返してほしい」と求められることがあります。法的には、不当利得の返還や不法行為による損害賠償として請求されるのが一般的です。管理していた側は、引き出したお金が親のために使われたことを説明できるかが問われやすく、領収書や記録が残っていなければ、正当な支出だったとしても説明に苦労することになります。反対に、きょうだいの一人が親の財産を使っているのではないかと心配している方は、【親子問題】親が高齢で、きょうだいの一人が親の財産を使っているもあわせてご覧ください。
刑事責任と行政の関わり
親の財産を子が無断で引き出したり使ったりした場合、窃盗罪や横領罪にあたる行為であっても、直系血族の間では刑が免除される特例があります(刑法244条1項、255条)。ただし、家庭裁判所に選任された後見人として管理していた財産を横領した場合には、親族であってもこの特例は適用されないとされています(最高裁平成24年10月9日決定)。また、刑が免除される場合でも、民事上の返還義務がなくなるわけではありません。
さらに、高齢者虐待防止法では、養護者や親族が高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産上の利益を得たりすることを「経済的虐待」と位置づけ、市町村が事実の確認や対応にあたる仕組みを設けています(同法2条4項2号)。家族の中の問題は外から見えにくいものですが、行政が関わる経路があることは知っておいてよいでしょう。行政の対応については、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで説明しています。
管理を担うなら整えておきたいこと
同居の子が親のお金を管理すること自体は、多くの家庭で現実に行われています。後で家族の間に疑いを残さず、管理を担う自分自身を守るためにも、次のような点を意識しておくと安心です。
- 親の口座と自分の口座を分け、親のお金を自分名義の口座に移さないこと。
- 引き出した日・金額・使い道を、家計簿やノートに記録しておくこと。
- レシートや領収書、介護サービスや施設の請求書を保管しておくこと。
- 同居の生活費を親と分担する場合は、分け方を決めて記録しておくこと。
- 通帳の写しなどを定期的に他のきょうだいと共有すること。
- まとまった支出や贈与にあたるものは、事前に家族で話し合っておくこと。
判断能力が残っているうちであれば、親自身に「誰に何を任せるか」を決めてもらい、その内容を書面にしておくことが、家族の間の行き違いを防ぐうえでも役に立ちます。
同居の子に任せてよいか迷うとき
ご相談の中には、同居の子に仕事がなく、親の年金や預貯金に生活を頼っている、あるいは以前から金銭の要求が続いていたという事情の中で、親が認知症になり、子が「自分が管理する」と言い出したという場面もあります。このような場合、子が管理を始めることで、親の生活や介護に必要なお金が確保されにくくなるおそれがあります。
任せる前に、親の判断能力が残っているうちに管理の範囲を書面で決めておく、任意後見や法定後見、社会福祉協議会の事業など第三者が関わる仕組みを検討する、すでに通帳やカードを持ち出されている場合は金融機関に相談する、といった対応が考えられます。年金の管理を求められている場面については【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこと、通帳やカードを取り上げられた場面については【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応で整理しています。
当事務所では、親の側の代理人として子との間に入り、お金の問題を整理するご相談もお受けしています。子が親の財産に頼る状態を変えていくには、お金の管理だけでなく、子の生活の自立をどう進めるかもあわせて考える必要があります。取り組みの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
親が認知症になる前に、子に通帳を預けておけば十分ですか
通帳やカードを預かっていても、それだけで管理の権限がはっきりするわけではありません。親の判断能力があるうちに、金融機関の代理人登録や財産管理委任契約、任意後見契約など、任された内容が確認できる形にしておくことが望ましいといえます。
後見人がつくと、子は親のお金に関われなくなりますか
専門職が後見人に選ばれた場合、財産の管理は後見人が行いますが、家族が親の生活や介護について意見を伝えたり、必要な支出について後見人と相談したりすることはできます。子が後見人に選ばれる場合もあり、その際は家庭裁判所への報告などの務めを果たしながら管理することになります。
成年後見制度の改正を待ってから申し立てたほうがよいですか
改正法の施行日はまだ決まっておらず、施行までの間は現行の制度で手続が進みます。親の生活費や介護費用の支払いに支障が出ている場合は、施行を待たずに現行制度の利用を検討することになるでしょう。どちらがよいかは事情によって異なるため、家族の状況をふまえて専門家に相談することをおすすめします。
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親が認知症になった後のお金の管理は、家族の善意だけで続けていると、後になって使い道を説明できずに困ったり、きょうだいの間で対立が生まれたりすることがあります。管理を担う側も、任せる側も、どの段階でどの方法を使えるのかを早めに確かめておくことが、親の生活と家族の関係の両方を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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