【親子問題】子の問題を親がSNSで発信するのは、問題になる?
子にまとまったお金を渡してきた親御さんから、「将来の相続のときに、あのお金を前渡しとして数えてもらえるのか」というご相談を受けることがあります。生活費の援助、借金の肩代わり、たびたびの無心に応じた送金など、渡した経緯はご家庭ごとに異なります。ほかにきょうだいがいる場合は、相続のときに不公平にならないかという心配も重なりやすいところです。
子に渡したお金は、一定の条件を満たすと、相続の場面で「特別受益」として相続分の計算に組み込まれることがあります。ただし、渡したお金のすべてが対象になるわけではなく、扶養の範囲にとどまる援助は外れるのが一般的です。また、親が生前にできる手当てと、相続が始まってから相続人どうしで決まることとは、分けて考える必要があります。本記事では、民法上の扱いを中心に、税金面の注意点と、今のうちに残しておきたい記録について整理します。
本記事は、2026年10月時点の民法(2023年4月1日施行の改正を含む)にもとづく一般的な説明です。贈与税・相続税の具体的な計算や申告については、税理士にご確認ください。
「生前贈与として扱う」には二つの意味がある
「生前贈与として扱えるか」という問いには、民法(相続)上の問題と、税金上の問題の二つが含まれています。両者は判断の基準も、判断する立場も異なります。
| 観点 | 主な問題 | 判断する立場 |
|---|---|---|
| 民法(相続) | 相続分の計算で前渡しとして数えるか(特別受益) | 相続人どうしの協議。まとまらなければ家庭裁判所 |
| 税金 | 贈与税がかかるか、相続税の計算に足し戻されるか | 税務署(申告は本人) |
同じ送金でも、税金のうえでは贈与とされる一方、相続分の計算では扶養の範囲として数えられない、ということも起こり得ます。ご相談の多くは「ほかのきょうだいとの公平」に関わるものなので、以下では民法上の扱いから先に見ていきます。
相続で「前渡し」として数えられるお金の範囲
民法903条1項は、相続人が被相続人から受けた遺贈と、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」受けた贈与の額を、相続開始時の財産に加えたうえで各相続人の相続分を計算すると定めています。この仕組みを「持戻し」と呼びます。
たとえば、遺産が預貯金3,000万円、相続人が子2人で、そのうち1人が生前に1,000万円の特別受益を受けていたとします。計算上の財産は4,000万円となり、各自の相続分は2,000万円です。前渡しを受けた子は、すでに受け取った1,000万円を差し引いて、遺産から1,000万円を取得する計算になります。
扶養の範囲を超えているかが分かれ目
親子の間では、親族としての扶養や援助がもともと予定されているため、子に渡したお金がすべて「生計の資本」とされるわけではありません。一般には、生活の基盤づくりに役立つ給付であって、扶養の範囲を超えるものが特別受益にあたると考えられています。扶養の範囲は、親と子それぞれの資産や生活の状況によって変わります。
生活費の送金について、東京家庭裁判所の平成21年1月30日の審判は、月10万円程度を超える部分を特別受益とする判断を示したことで知られています。ただし、これはその事案の事情を前提にした数字であり、どの家庭にもあてはまる基準ではありません。
親子問題で渡すことの多いお金の見え方
ご家庭の状況によって評価は変わりますが、相談の場面でよく出てくるお金について、争点になりやすい点をまとめます。
| 渡したお金 | 争点になりやすい点 |
|---|---|
| 毎月の生活費の援助 | 扶養の範囲にとどまるか。金額と期間 |
| 子の借金の肩代わり | 親が子に返済を求めない前提だったか |
| 独立時の敷金・家賃・家具代 | 生活の基盤づくりのための援助といえるか |
| 車の購入資金・ローンの支払い | 使い道と金額、子の生活との関係 |
| 起業や事業の資金 | 生計の資本として渡したのか、貸付だったのか |
| 遊興費や浪費のための送金 | 生活の基盤に役立ったといえるか |
子の借金を親が代わりに返した場合、親は本来、子に返済を求められる立場にあります。それを求めない前提で支払ったのであれば、実質的には子への贈与として評価され、特別受益にあたるとされることがあります。一方、ギャンブルや遊興のためにたびたび渡したお金は、「生計の資本」といえるかが争われやすく、金額や頻度、使い道の分かる資料によって結論が分かれます。
親の側で、今のうちにできること
特別受益にあたるかどうかは、最終的には相続が始まった後に、相続人どうしの話し合い、まとまらなければ家庭裁判所の調停や審判で判断されます。親が「これは前渡しだ」と書き残しても、それだけで結論が決まるわけではありません。それでも、親が存命のうちにできることはいくつかあります。なお、子から新たに生前贈与を求められている場面については、【親子問題】生前贈与を迫られている|断り方と記録の残し方で扱っています。
遺言で遺産の分け方そのものを決めておく
特別受益は、親が何も言わなくても持戻しをするのが原則です。ただ、相続が始まってから「渡した」「もらっていない」と言い合いになると、金額の証明に時間がかかります。
親の意図をより直接に反映させる方法は、遺言で相続分や遺産の分け方を指定しておくことです(民法902条、908条1項)。生前に渡した額を考慮したうえで遺産の配分を決め、その理由として渡したお金の内訳を付記しておくと、ほかの相続人にとっても経緯が分かりやすくなります。ただし、子には遺留分があるため、遺言だけで取り分をなくすことには限界があります。暴力を続ける子への対応として検討されることのある相続廃除については、【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件で解説しています。
「数えなくてよい」と決めることもできる
反対に、特定の子への援助を相続分の計算に入れたくない場合は、遺言などで持戻しを免除する意思を示すことができます(民法903条3項)。たとえば、病気や障害のある子の生活を支えるための援助は、ほかの子との計算に入れないでほしい、という場合です。もっとも、免除の意思を示しても、遺留分の計算では贈与が考慮されることがあります。
「貸した」お金として扱いたいとき
渡したお金を贈与ではなく貸付として扱う場合、相続が始まった後は、親が子に対して持っていた貸金の債権が遺産に含まれ、子は相続人として返済の問題と向き合うことになります。ただし、返済期限の取り決めや返済の実績がないと、後から「もらったものだ」と主張されやすくなります。貸したお金の返還を求める場面については、【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方で詳しく扱っています。
相続開始から「10年」という期限
2023年4月1日に施行された改正民法により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を考慮せず、法定相続分(遺言で指定があればその相続分)で分けることになりました(民法904条の3)。10年が経過する前に家庭裁判所に遺産分割を請求した場合などの例外があり、施行前に始まった相続には猶予期間が設けられています。
また、遺留分を計算するときに加えられる相続人への贈与は、原則として相続開始前の10年間にされた、婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本としての贈与に限られます(民法1044条3項)。古い援助ほど、どの場面で考慮されるかが変わってくる点に注意が必要です。
渡した記録をどう残しておくか
相続の場面で争いになりやすいのは、法律の解釈よりも、いつ、いくら、何のために渡したかという事実の部分です。次のような記録を、日付順にまとめておくことをおすすめします。
- 渡した日付と金額。
- 渡した方法(振込の控え、通帳の記載など)。
- 子から求められた内容と、渡した目的が分かるメッセージや手紙、親のメモ。
- 返済の約束の有無と、その内容。
- 借金の肩代わりの場合は、返済先と返済額の分かる書類。
現金の手渡しは記録に残りにくいため、できれば振込を使い、通帳に記載が残るようにしておくと後から確認しやすくなります。金銭の要求に応じてきた経緯の記録がどのような場面で役立つかは、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかもあわせてご覧ください。
一方で、子に「これは相続の前渡しである」という書面への署名を求めることは、家庭によっては関係をさらに悪化させるきっかけになります。暴力や強い金銭要求がある場合は、書面づくりよりも安全の確保を優先し、第三者を通して進めることも検討してください。親子間で書面を作る意味と限界については、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で整理しています。
税金の面で気をつけたいこと
税金の扱いは、民法とは別の基準で判断されます。主な点は次のとおりです。
- 暦年課税の贈与税には、受け取った人ごとに年110万円の基礎控除があります。
- 扶養義務者から生活費や教育費として受け取り、通常必要と認められる範囲でそのまま充てたお金には、贈与税がかからないものとされています(相続税法21条の3第1項2号)。
- 子の借金を親が肩代わりし、返済を求めない場合は、その分の贈与があったものとみなされることがあります(相続税法8条)。
- 相続などで財産を取得した人が亡くなる前の一定期間に受けた贈与は、相続税の計算に足し戻されます。この期間は、2024年1月1日以後の贈与から段階的に3年から7年へ延長されています。
民法上は扶養の範囲として特別受益にあたらない援助でも、税金上の扱いは別に検討が必要です。子の返済能力の有無などによって扱いが変わる場合もあるため、具体的な判断や申告は税理士にご相談ください。
よくあるご質問
口約束で渡したお金も、生前贈与として扱われますか
書面がなくても贈与は成立します(民法549条)。特別受益にあたるかどうかも、書面の有無ではなく、実際に渡したことと、その目的や金額で判断されます。ただし、書面や振込の記録がないと、相続の場面で渡した事実そのものを示しにくくなります。
子に「もらっていない」と言われたらどうなりますか
特別受益を主張する側が、渡した事実と金額を示す必要があります。通帳の記載や振込の控え、子とのやり取りが手がかりになります。親が存命のうちに記録を整理しておくことで、相続人どうしの争いを小さくできることがあります。
渡したお金を、今から返してもらうことはできますか
贈与であった場合、書面によらない贈与でも、すでに渡し終えた部分は原則として解除できません(民法550条)。返還を求められるのは、貸付だった場合などに限られます。金銭の要求が今も続いている場合の考え方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。
当事務所がお手伝いできること
当事務所では、子からの金銭の要求や家庭内暴力に悩む親御さんの代理人として、子との間に入る取り組みを続けてきました。これまでに渡したお金の経緯を一緒に整理し、今後のお金のやり取りの窓口を弁護士に移すことで、親御さんが直接要求を受け続ける状態を変えられることがあります。親御さんが亡くなった後の子の生活まで見据えた備えについては、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもあわせてご覧ください。
子に渡したお金を相続でどう扱うかは、渡した目的や金額、ほかのきょうだいとの関係によって答えが変わります。記録が手元に残っているうちに整理しておくことが、親御さんご自身とほかのご家族を守ることにもつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
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