相談内容は誰にも知られないのか|守秘義務の範囲と例外の考え方

若井亮

若井亮

テーマ:一般

「例外がある」と聞いて、かえって不安になった方へ


 弁護士への相談を考えて調べているうちに、「守秘義務には例外がある」という説明を見て、話す前から迷いが強くなってしまった。そういう方は少なくありません。誰にも言えないことだからこそ弁護士に相談しようとしているのに、その入口に「例外」という言葉が置かれていると、どこまで話してよいのか分からなくなります。

 先に結論を書きます。相談した内容が弁護士の側から外に出ることは、原則としてありません。そして、例外として語られている場面の多くは、相談した本人の承諾を起点にしています。外から突然やってくるものではなく、本人が範囲を決められるものが大半だ、という点がこの記事のいちばんの要点です。

「例外」という言葉が、実際より広く受け取られている


 守秘義務の解説では、「正当な理由があれば例外になる」という書き方がよく使われます。この一文だけを読むと、誰かの判断でいつ解かれるか分からない制度のように見えてしまいます。

 ただ、例外と呼ばれているものの中には、性質のまったく異なるものが混ざっています。そこを分けないまま一括りにして説明されていることが、不安の一因になっています。

この記事で整理すること


 まず、守秘義務が何を、いつから、いつまで守るのかを確認します。そのうえで、「例外」と呼ばれているものを三つの層に分けて整理し、最後に、相談する側が相談の入口で決められることをまとめます。

何が、いつから、いつまで守られるのか


 守秘義務は、弁護士法と、日本弁護士連合会が定める弁護士職務基本規程の両方に根拠があります。細かい条文の話に入る前に、範囲を四つの問いで押さえておくと見通しがよくなります。

問い考え方
いつから守られるか相談を申し込み、事情を話した時点から対象になります
何が守られるか話した内容、相談したという事実、弁護士が調べて分かったことなど
誰が守るのか担当した弁護士のほか、同じ事務所の弁護士も同様の立場に立ちます
いつまで守られるか事件が終わった後も、その人が弁護士でなくなった後も続きます


依頼していなくても対象になります


 守秘義務が生じるのは、委任契約を結んだ後からではありません。受任に至らなかった相談、無料の相談、結果として断られた相談も、同じように対象になると解されています。「依頼するかどうか決めていないので、まだ守られないのではないか」という心配は要りません。

「相談したという事実」も含まれます


 守られるのは話の中身だけではありません。その人が弁護士に相談したかどうか、依頼しているかどうかという事実そのものも、対象に含まれるとされています。家族や職場から事務所に問い合わせがあった場合に、相談の有無自体を答えないのが基本的な扱いです。

秘密の判断は、本人の受け止めも考慮されます


 守秘義務の対象になる「秘密」は、一般的にみて他人に知られたくない事柄だけを指すのではなく、本人が特に伏せておきたいと考えている事柄も含むと考えられています。他人から見れば些細に思える事情でも、伏せておきたいと伝えておくことに意味があります。

「例外」と呼ばれるものは、三つの層に分かれます


 ここからが本題です。世の中の解説で「例外」と呼ばれているものを並べてみると、次の三つがまったく違う性質のものであることが分かります。

中身の例情報が動く起点
第一の層 そもそも対象外自分が別の場所で話したこと、相手方がもともと持っている情報自分または第三者の行動
第二の層 例外ではない扱い事務所内での共有、利益相反の確認、記録の保管事件を処理する仕組みそのもの
第三の層 本当の例外本人の承諾、弁護士自身の防御、法律に別段の定め多くは本人の意思


 不安の中身は、この三つのどれに当たるかで変わります。第一の層は自分の行動で調整できるもの、第二の層はそもそも心配する対象ではないもの、第三の層は範囲を決められるものです。順番に見ていきます。

第一の層:そもそも守秘義務では守れない情報


 守秘義務は「弁護士が話さない」という義務です。世の中の誰にも知られないことを約束する制度ではありません。この違いを最初に押さえておくと、対策の立て方が変わります。

自分が別の場所で話したこと


 友人や同僚に打ち明けた話、SNSに書いた内容、相手方に送ったメッセージは、弁護士の守秘義務とは関係のないところに存在しています。弁護士に相談したからといって、すでに外に出た情報が回収されるわけではありません。

相手方や第三者がもともと持っている情報


 相手方が保存している記録、勤務先に残っている資料、店舗や施設の記録なども同じです。これらは相手方の側の情報であり、弁護士の守秘義務が及ぶ範囲の外にあります。

 だからこそ、相談の場では「何がすでに外に出ているか」を弁護士に伝えておくことが役に立ちます。伏せてしまうと、対応の前提を読み違えたまま方針を立てることになります。

第二の層:例外のように見えて、例外ではない扱い


 次は、「これは例外なのでは」と受け取られやすいものの、実際には守秘義務の枠内で行われている場面です。ここを誤解したままだと、必要以上に身構えることになります。

同じ事務所の弁護士や事務職員が事件に関わる


 事件の処理では、担当弁護士以外の弁護士が関わったり、事務職員が書面の作成や連絡を担当したりすることがあります。これは外部への開示ではありません。同じ事務所の弁護士も同様の守秘義務を負い、事務職員については弁護士が指導監督する立場に立つとされています。

相手方の氏名を尋ねられる


 予約や相談の場で相手方の氏名を尋ねられ、驚く方がいます。これは、その相手方から先に相談や依頼を受けていないかを照合するための確認です。同じ事務所が双方の側に立つことを避ける仕組みであり、相手方や外部にこちらの情報を伝えるためのものではありません

依頼の段階で本人確認を求められることがある


 一定の事件を受任する場合や、一定の金銭を預かる場合に、氏名・住所・生年月日などの確認を求められることがあります。これは日本弁護士連合会の会規に基づく手続で、捜査機関への通報とは別のものです。相談の段階で一律に課されているものでもありません。

記録が事務所に保管される


 相談メモや資料は事務所内に残ります。これも例外ではなく、管理のルールが定められている領域です。日本弁護士連合会は情報の取扱いに関する会規を設けており、2024年6月から施行されています。各弁護士は、情報の基本的な取扱方法をあらかじめ定め、紛失や漏えいを防ぐ管理を行い、情報を受け取ってから廃棄するまでの各段階で扱いに配慮し、万一の事故には影響の把握と再発防止の措置をとることが求められています。

 守秘義務は個々の弁護士の心がけだけで支えられているわけではなく、こうした管理の仕組みと組み合わせて運用されている、と理解しておくとよいでしょう。

第三の層:本当に守秘義務が解かれる場面


 ここが「例外」の本体です。日本弁護士連合会の解説では、「正当な理由」に当たる場面として、おおむね次の三つが挙げられています。

  1. 相談者・依頼者本人が承諾した場合
  2. 弁護士自身が当事者となり、自らを防御する必要がある場合
  3. 法律に別段の定めがある場合


①本人が承諾した場合


 実務でいちばん多いのはこれです。交渉相手に事情を伝える、裁判所に書面を出す、通訳や専門家に協力を求める、家族と情報を共有する。いずれも、進めるために本人の承諾を得たうえで行われます。

 重要なのは、承諾は白紙で渡すものではないという点です。「この事情は相手方に出さないでほしい」「この点は伏せたまま進められないか」という希望は、方針を決める段階で伝えることができます。出したくない情報がある場合、その制約を前提にどこまで進められるかを検討するのが本来の順序です。

②弁護士自身が当事者になった場合


 費用をめぐって争いになったとき、懲戒の申立てを受けたとき、あるいは弁護士自身に疑いが向けられたときに、何も述べられないとすると弁護士の側に防御の手段がなくなってしまいます。こうした場面は例外として扱われますが、開示できるのは主張や立証に必要な範囲に限られると考えられています。

③法律に別段の定めがある場合


 弁護士法は、守秘義務について「法律に別段の定めがある場合を除く」という留保を置いています。この部分がもっとも誤解されやすいところなので、章を分けて説明します。

「法律に別段の定め」は、むしろ守る側に働いている部分が大きい


証言や書類の提出を断ることができる仕組み


 「法律に定めがある」と聞くと、話すことを命じられる規定を想像しがちです。しかし実際の法律は、逆方向に働いているものが目立ちます。

  • 民事裁判では、職務上の秘密について証言を拒むことができるとされています
  • 書類の提出を求められた場合にも、職務上の秘密に関するものは対象から外れる扱いがあります
  • 刑事手続では、預かっている物の押収を拒むことができるとされています
  • 弁護士との業務に関する通信は、通信傍受の対象から除かれています


 守秘義務は、こうした個別の仕組みに支えられて機能しています。

弁護士に通報の義務は課されていません


 犯罪があると思う人が捜査機関に告発することは、法律上「できる」と定められた任意の行為であって、一般の人に義務として課されているものではありません。弁護士も同じです。相談で過去の出来事を聞いた弁護士が、それを捜査機関に伝える義務を負っているわけではありません。

 また、金融機関などに課されている「疑わしい取引の届出」の義務についても、弁護士は対象とされていません。この点は、他の一部の士業と扱いが分かれています。

それでも限界はあります


 一方で、過大に受け取らないほうがよい点もあります。海外の多くの国にあるような、依頼者と弁護士のやり取りを手続全般で包括的に保護する制度は、日本では確立していないと指摘されています。上に挙げたような個別の仕組みが、それぞれの場面で守秘義務の実効性を支えている、という構造です。

 また、本人が承諾して秘密を明かすことを求めた場合には、拒む理由がなくなります。守秘義務は本人のための制度なので、本人の意思が入口になるのは自然な帰結です。

判断が一律には決まらない場面


これから行われることを告げられた場合


 すでに起きた出来事を話すことと、これから行おうとしていることを告げることは、議論の上では別に扱われています。もっとも、どの範囲でどう扱うべきかについて一律の結論が示されているわけではありません。ここは断定的に説明できない領域です。

通告の義務が法律で定められている分野


 児童虐待や高齢者虐待の分野では、それを発見した人に通告・通報を求める法律があり、その法律自身が「守秘義務に関する規定は、この通告の義務を妨げるものと解釈してはならない」という趣旨の定めを置いています。これは職業を問わず適用される仕組みで、「法律に別段の定めがある場合」の分かりやすい例です。

 範囲が法律で具体的に定められている分野に限られる話ですが、守秘義務が他のすべてに優先する制度ではないことを示す例として押さえておくとよいでしょう。

相談する側が、入口で決められること


 ここまで見てきたとおり、情報が動く場面の多くは本人の意思が起点です。裏返せば、相談の入口で決めておけることがあります。相談の冒頭で伝えておくと、後から調整するより手間がかかりません。

  1. 連絡の方法と時間帯、書面の送付先をどうするか
  2. 家族や同席者と、どこまで情報を共有するか
  3. 交渉や手続の中で、相手方にどこまで情報を出すか
  4. 手続に進んだ場合、提出する書面や記録がどう扱われるか
  5. 特に伏せておきたい事情があること自体を、先に伝えておく


 「これは言いたくない」と伝えること自体は、弁護士との関係を悪くするものではありません。むしろ、伏せたい事情があると分かっていれば、それを前提にした進め方を検討できます。何も言わずに事実だけを省いてしまうと、後から方針の立て直しが必要になることがあります。

よくある質問


相談を断られた場合、話した内容はどうなりますか


 受任に至らなかった場合でも、話した内容は守秘義務の対象になると解されています。断られた理由が利益相反の確認によるものだったとしても、こちらの相談内容が相手方に伝わることを意味するものではありません。

弁護士を変えた場合、前の弁護士から新しい弁護士に内容が伝わりますか


 本人の承諾がないまま伝わることは想定されていません。逆に、引き継ぎのために資料や経緯を渡してほしい場合には、その旨を伝えて承諾すれば進められます。ここでも起点は本人の意思です。

相談の記録は、いつまで残りますか


 保管の期間や方法は事務所ごとに定められています。前述のとおり、廃棄までを含めて管理することが求められている領域なので、気になる場合は相談の場で扱いを尋ねて差し支えありません。

「守秘義務があります」という説明だけで判断してよいですか


 守秘義務そのものは、どの弁護士にも共通して課されている前提です。したがって、事務所を比べるときの手がかりにはなりにくい面があります。むしろ違いが出るのは運用のほうで、連絡方法をどこまで指定できるか、家族から問い合わせがあったときにどう応じるか、書面の送付先を変えられるかといった点は、事前に確認する価値があります。

おわりに


 守秘義務は、話しにくいことを隠しておくための制度ではありません。不利な事情を含めて事実を正確に伝えてもらったうえで、その人にとって取り得る選択肢を検討するための土台として置かれている制度です。

 「例外がある」という説明は正確ですが、その例外の多くは本人の承諾を起点にしており、範囲を決めるのは相談する側です。どこまで話すかを一人で悩み続けるより、伏せておきたい事情があること自体を含めて、早い段階で弁護士に伝えてしまうほうが、結果として選択肢が残りやすくなります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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